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「想うものの欠片」最終話⑯

16

タースは肩をゆすられた。
鈍い感覚の腕が、自然にぴくりと震えた。
「随分、やられたな」
目の前に脚があった。
見上げようと首を動かすが、上手く動かない。
体中がひどく重かった。
「ウィ…スロさん」
ふん、と小さい息遣いの後、背に温かい手が当てられた。抱き起こされたようだ。
触れる背中が熱くて、火傷しそうな痛みのようなものを感じた。
「おい、タース、しっかりしろ」
目の前の作業服の胸ポケットが口調に合わせて少し揺れた。タースはそれを見たまま、うん、とつぶやいた。
「あ、陛下は?」
ぼんやりしていたかと思うと急にタースははっきり目を開け、ウィスロを見上げた。
今度は男が視線をそらした。
「陛下は、無事なの?あの時の毒は?ねえ、大丈夫だったのか?」
「あ、ああ。口に含んだのが少なかったらしい、しばらくして、回復なされた」
「今は、今はどうしてるの。どうして、ティエンザの奴らにいいようにされているんだよ」
タースがつかんだウィスロの腕。ぐっと筋肉に力がこもるのを感じる。強く拳を握り締め、ウィスロは悔しそうに口をへの字にした。
「なあ、陛下を護るのが、みんなの役目じゃないのか?みんな、陛下の側近なんだろ?」
「違うんだ」
「なにが?」
「我らは、陛下を裏切った」
息をするのを忘れた。
裏切った?
我らって。
「どういう、こと?逆月は?だって、そういう組織があるって」
「それは、噂だ。陛下の目をそらすための、架空の組織。本当はな、タース。レスカリアの国民、全てが。もう、陛下に交代して欲しいと、そう願っているんだ」
タースは、男の手を振りほどいた。
突き飛ばし、その反動で再び床に転がる。
「って、裏切ったの!?国民が、ううん、陛下の側近が、全員?陛下をティエンザに売ったの!?だって、あの料理長のパルも?タガとカガも?船長さんも?みんな?」
ウィスロは苦い笑みを浮かべていた。
「みんな、そう、皆、ジファルの仲間だったんだ!ユナを殺したんだ!」
ウィスロの顔色が変わった。薄暗いランプの明かりの下、半分陰になるそれは恐ろしかった。見開いた目。
怒りに震えるのか、拳は難く握り締められる。気付いていながらタースは続けた。言わずにはいられなかった。
「そうなんだ!ユナだけが、ホンキで陛下を守ろうとしたんだ!ユナと、そう、皇妃さまだけが!」
「うるさい、お前にはわからん!この国の惨状が!見たか?あの港の町を。崩れた建物の下敷きになったものたちを!我らは、民に生かされている。なのに、こんな大変な時期に何もしてやれないのだ!これほど無力な政府があっていいのか!」
「放せ!あっちへ行け!」
上手く起き上がれずにいるタースを引き起こそうとするウィスロをはねつけた。
「わかってないよ!わかってない!国なんて、無力なんだ!ただ、新しいものが、珍しいものが、輝いて見えるだけなんだ!本物じゃない、ぼくは、この国で神に、ううん。神王様に祈る人たちを見て、本物だと思った!本当に、自分で生きて、自分で死んでいく、本当の自由な国だと思った!彼らが陛下に寄せる気持ちは本物だった!だれも、災害や貧しさを誰かのせいになんかしてなかった!陛下のせいにして、自分たちのこと棚に上げてるの、あんたたちじゃないか!」
陛下は、ただ穏やかに見守っていたんだ。
歴史を話してくれた。戦争や、滅びた文明。どれだけ豊かになっても、便利になっても。結局は、幸せかどうかはそれぞれが決めることなんだ。
国が民を幸せにするんじゃないんだ。
誰かを幸せにしてやろうなんて驕った考えを持つような、そんな政府が嫌だったんだ。だから、陛下は他の国からこの国を護っていたんだ。
なのに。
側にいた彼らの誰もが理解していなかったって言うのか!
陛下がどんな思いで、みんなの裏切りを知ったのか…。
あの優しい、陛下が。

涙が、こぼれていた。
気付けば仰向けで、動かない腕をウィスロが押さえつけていた。
その大きな手が首に、伸びていた。
「お前を、殺したくない。だから、黙れ」
搾り出すように男がつぶやく。
「陛下に、会いたい」
ウィスロの目が大きく開かれた。
首から手が離れる。
「お願いだ、陛下に。会わせてほしい…会いたいんだ」
伝う涙が、転がった。
それは青い小さな石。
ほろほろと。いくつもいくつもこぼれる。
硬いレンガの床にかすかな音を立てながら、丸いそれが転がる。
「お前、いったい…」
「いいから、もう、いいからさ。国なんて、あんたたちに、ティエンザにあげちゃえばいいんだ。陛下は、そんなものに責任を負う必要なんかないんだ。陛下は一度だって、民も国も自分のものだ何て考えたことないんだ。大切にしていたのに、ひどいよ、ウィスロ、裏切って、陛下を悲しませて、ひどい」
涙が止まらなかった。

自分の父親を殺してまで、民を護ろうとした。その呵責に苦しみながら、それでも三百年も見守り続けて、平和を保ってきた。
なのに。
自分たちが豊かじゃないことを、陛下の責任にして。
まるで、勝ち誇ったみたいに。


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