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「想うものの欠片」最終話⑲

19

「シーガとやら、動けばタースは殺す。ウィスロ、シーガを縛れ」
ミキーが慌ててシーガの背後に立つウィスロとの間に立ちふさがる。が。
適うはずもなく、肩を押されて床に座り込んでしまった。

「ひどいですの!シーガさま!タース!!」
「煩い!その子供の口を塞げ」
ジファルに命じられ、肩をすくめたガネルの側近はミキーの口にタオルを巻きつけた。

「ジファル、話があるんだ」
ウィスロがシーガを縛り終えると立ち上がる。
「今はそれどころじゃない。後にしろ、大切な話を、陛下とするのだ。そうでしょう?ガネルどの」
「フン、そうだな」

シーガ、タース、ミキーの三人は後ろ手に縛られたまま、ソファーに並んで座らされた。

両側に、ウィスロ、そしてガネルの側近が銃を構える。
再びソファーに座らされた皇帝と皇妃を目の前に、ガネルとジファルが立つ。ガネルは面白そうに顎の白い髭をなでた。

「陛下。我らに従っていただきたい。あなたを殺せないことは実証済みですからな、まさか、あの毒で生き残るとは」
「ガネル、大司祭が地に落ちたものね。そして、ジファル、ウィスロ。あなた方には失望しましたわ」
ミレニア皇妃だった。
先ほどから、緊迫した表情で黙り込んでいたが、汚らわしいティエンザの大司祭に容赦ない侮蔑の視線を送る。
「…」
「神に選ばれた陛下に、何て恐れ多いことをしているのか。お前たちは人の領分を越えようとしているのですよ」
「お黙りください、ミレニア様」
じろりと睨まれ、ミレニアは余計に眉を吊り上げる。
美しい白い手が悔しげに衣装の裾を握り締めていた。
「陛下、あなたはただ、我らに従ってくださればいいのですよ。我らをあなたの代理人とし、民に知らしめる。そうすれば、後は我々が、この国を豊かに変えて見せますよ」
「豊か?その結果がお前のその貧しい心なのか」
皇帝の静かな声は深く響く。
ガネルの表情が変わった。
「陛下!従っていただきます!我らは、もう、留まったままではいられないのです!」
ジファルが叫ぶ。
「お答えによっては、あなた様を。殺します。ウィスロ、シーガを連れてきて」

三人の真ん中に座るタースは、ウィスロをにらみつけた。
それに気付きながらも、男はシーガの腕を取り立ち上がらせた。

「ハーファ」
ミキーがタースに擦り寄って、ロープを解いてと小声で訴える。
「ごめん、僕、手が…ごめんね、ミキー」
タースはぎゅっと目をつぶる。もう一度、腕に力を入れてみる。
以前ならゆるく縛られたロープを解くことができた。ウィスロも、それを願っていたのかもしれない、だから、抜けようとするのだが。
右手の感覚はほとんどなかった。
体中が重くて、熱があるかどうかは分からないが、タースは気を抜くと朦朧とする意識を、保っているのが精一杯だった。どこか、怪我をしたのだろう。
それすら分からないくらい、体が自分のものでないようだった。

シーガが、ミレニアの前に立った。
硬直したように目を見開いてじっと見上げる皇妃。
シーガも、黙って美しい女性を見つめていた。

「この人なら。陛下を亡き者に出来る。そう、聞きましたよ」
「シーガ」
そう、つぶやいたのは、皇帝だった。
「陛下、まさか、このような形で再開するとは想わなかったでしょうな。いや、わしも驚きました、シーガさまが、あなたのご子息が偶然にもこの国に渡っているとはねぇ」

ガネルがにやり、にやりと笑う。
「し、シーガのお父さん!?」
目を真ん丸くしたのはタースだ。
緊張感のない少年の声に、シーガはあきれたようにちらりと振り返る。
「本当なの!?じゃ、じゃあ!!!皇妃さまが、お母さんなの?シーガの探していた…」
「タース」
シーガの一言で、タースは黙った。
両親を探していた。
その二人が、目の前にいて。シーガは、嬉しそうではなかった。
自分を捨てた両親に、シーガがどんな思いを抱いているのかはタースにはわからない。
ただ、いつか話していた。
自分に、母親が残したルリアイが、慈愛のルリアイであるはずはないと。母親が自分を愛していたはずはない、そう、悲しそうに。
それでもタースにとっては羨ましい話だった。生きていてくれるなら、それでいいのにと、そう思った。
けれど。

今や、陛下を脅す材料にされている。
「陛下、あなたを亡き者にして、シーガを神王として祭り上げることも出来るんですよ。ああ、そのほうが早いでしょうかね」
ガネルがウィスロの持つ銃剣を奪うように手に取る。
そのまま、剣先でシーガのロープを切った。
「下手なことをしたら、あの子供二人は死にますよ、シーガさま」
シーガは自分より低い位置のガネルの顔をにらみつけた。
「さ、これで、陛下を撃つのです」
「!?」
ガネルが銃剣をシーガの腕に押し付けたときだった。
ミレニア皇妃はつかみかかり、そして。
シーガに奪い取った銃剣の銃口を向けた。

「おやおや、皇妃さま、無駄ですよ」ガネルは肩をすくめて笑う。
「分からないでしょ!殺せなくても、動けなくできれば、陛下を殺させずに済みます」

「皇妃さま!やめろよ!シーガ、逃げろよ、シーガ!!」
タースが精一杯叫んだ。隣ではミキーが同じようにうなっている。
「親子だろ!あんた、シーガのお母さんなんだろ!」
ミレニアは、視線をシーガに向けたまま、話し出した。
「お前は、分かるでしょう?タース。この世には、生まれてきてはいけない子がいる」
シーガはじっと目の前の母親を見ていた。
「お前はそうやっていつも、無表情で!可愛げのない!何度、何度も殺そうとしたのに!やはり海に沈めればよかったのよ!二度と陛下の前に現れないように、陛下の命を脅かさないように!」
「止めろ!ひどいよ!」
タースが叫ぶ。
「ミレニア、この世に生まれてきてはいけない子など、いない」
皇帝はなだめようと、皇妃に近づく。

「いいえ!陛下を失うことなど出来ない!この世の何を失っても!」
ミレニアの悲痛な叫びと同時だった。
シーガが目を見開いた。
「!やめ…」
バン!

空気が揺らいだ。
シーガの頬に、赤い血が小さな飛まつとなってかかる。

崩れたのは皇妃だった。

「ミレニア!」
駆け寄り抱きしめる皇帝。


銃が暴発したのだ。
ミレニアは、すでに意識がない。眼を閉じ、その銀の豊かな髪は皇帝が震えるのに合わせて揺れる。
赤い色が、皇妃の衣装を浸していく。

立ち尽くすシーガ。
微動だにしないその後姿に、タースは涙を流していた。
シーガが心を閉ざす理由、この国に来て再会してから何も話そうとしなかった理由が。いま、胸を苦しくさせた。
嬉しそうに皇帝に会おうとするタースに、両親なのだと、自分を捨てた両親なのだとは話せなかった。

静かに、シーガは床に膝を落とした。
何も言葉に出来なかった。
最期まで、皇妃の笑顔さえもらえなかった。

愛されたいと思ったわけではない。
ただ。もしかしたら。

自分がそこに生を受け。存在することを。認めてくれるのではないかという小さな希望があっただけだ。


「ひ、どい…どうして、陛下、どうしてこんな」
タースの声に、皇帝は顔を上げた。
その表情は見たことのないものだった。
美しい眉目はこの世のものではない何かを放っていた。力、なのか。

「ふん、だから無駄だといったのだ」
ガネルが、忌々しそうにつぶやき、あまりのことに声も出せずに見入っていたジファルに怒鳴った。
「ジファル、その銃を貸せ!シーガに、皇帝を殺させるんだ」
ジファルは現実感が伴っているかどうか、少し震える手で銃を差し出す。

「やめろ!やめろよ!」
叫ぶタースに、ガネルが近づくと、殴りつける。
「黙れ!お前は、先ほどから!」

「や、止めなさい!」
シーガが、口を開いた。
と、ガネルの手が止まる。
振り向いた時にはあのいやらしい笑みが口の端に浮かんでいる。
「シーガさま、そうでしょう?あなたを捨てた陛下に仕返しをするべきでしょう?この混血のように疎まれて生きてきた、その恨みをここで晴らせばいいんですよ。約束したでしょう?この二人を助ける代わりに、我らの言うことを聞くのだと」


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