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「想うものの欠片」最終話⑳

20

ゆらりと、何かが動いた。
それは目に見えない。室内の張り詰めた空気が、どこかで壊れたような感覚。
タースも、そして、シーガも目の前のガネルではなく。
振り返って皇帝を見つめた。
亡き皇妃を抱きかかえ、皇帝は立ち上がった。

「ガネル。お前は分かっていない」
「ほ、ほう。何をおっしゃるか。あなた方、神に選ばれたもの。確かに、死なないのでしょう。ですが。ただそれだけです。何の力もない。殺そうとさえしなければ、こうやって拘束しておけば。世界は、神ではなく、我ら人のものになる」

神は、世界を自分のものだなんて主張したことない。タースはつぶやいた。

老人は勝ち誇ったように笑うと、傍らのジファルを数回叩いた。
「そうだろう?ジファル。こうして人間は、国を自分たちのものにする。人間が自分たちのしたいように、国を動かす。それこそ、すべての人のためになるというものだ」

「違う!神王は責任を負うんだ!命を得た代わりに、何の関係もない人たちの未来に責任を負うんだ。だから、こうやって世界を見守っているんだ。
五百年前に滅びた文明。あれは、人間の自業自得だった、それでも神王は見捨てずに見守ったんだ!今だって、ティエンザでおかしな実験をして、危険なものを掘り起こしている!やめろって陛下が言っても聞かなかったのはあんたたちだろう!?
異常気象だって、人間が招いたんだ、災害にあって、食糧難になって。それは全部自分たちのせいだろう?それを陛下に押し付けて、自分たちだけが正しいみたいに!そんなの間違って…!」

不意に、タースは言葉が出なくなった。
ぐらりと、頭の中のどこかが揺れた。
「タース!?」
シーガが駆け寄る。
声だけが聞こえる。
あれ。
僕、見えないのか。

闇の中、ぼんやりと陛下の声が届いてきた。
どうかしちゃったのか、僕は。

「我らに、力がないと。愚かな。私はすべての思念を操る。ユルギアと呼ばれるそれらは、この世の生き物全てに宿る。大きくも小さくも、すべてだ。シデイラの教えにあるだろう。この世の生きるもの全てを敬えと。愚かな人間にはその声が聞こえぬ。姿が見えぬ。だから、私は自らを敬わせることで人間に教えようとしたのだ…だが。ガネル。私は、貴様を許さん」

ユルサナイ。
許さない。
うわん、と何かがタースの体を駆け巡る。
その感覚に全てを奪われたように、タースはシーガの腕の中でうつろな目を開いた。
「…サナイ」
「タース?」

シーガがゆすっても、タースの瞳はどこか遠くを見ている。その穏やかな海の青が赤く濁りだす。
少年は何か違うものになりつつあった。

タースは見つめていた。
目の前に広がる赤。
許さない、ユルサナイ。
僕は、許さない。
憎しみ、悲しみ。怒り。
悲鳴が聞こえる。
許してくれって、叫ぶ。
ユルサナイ。
許さない。

凍てつく真っ白な世界。刺すような痛み。赤く染まる。冷たい。
アレは母さんの目。
血に染まった。


タースは、倒れた。
冷えた床に生き物の触手ように血だまりが広がる。
タースはうつろなまま、先ほどガネルの首を引きちぎった細い腕で、空をつかもうとしていた。血にぬれた手は、小さく震える。
支えるシーガの背後には、ガネルとその側近の姿。いや、人間であっただろうものが転がっていた。

「タース、しっかりしなさい!タース!飲まれてはいけません!」
「…ごめん、なさい」

シーガが揺らしても、タースはうわごとのように謝り続ける。

背後に、皇帝が立った。
「そのものの抱えていたユルギア。シデイラたちの固めた憎しみを、解き放ったまで」
「!タースは!タースはずっと、押さえていたのです!シデイラの声を、自らの声と思い、自らを戒める声だと信じて。母親の願いを、精一杯果たそうとした!そうしなければ、幼い心は耐えられなかった。そうしてあなたに、あなたを助けたいと、こんな姿になってまで…」シーガの声が震える。

「ば、ばけもの…」
ジファルが、床に座り込んでいた。
タースがケモノのようにロープを引きちぎり、大司祭に襲い掛かった。
その姿に、おびえていた。
動けずにいたウィスロも、ごくりとつばを飲み込んだ。
「タースは、タースは、なんなんだ…その、おかしかった、脈がなかった。けど、人間みたいに、生きているみたいに話した。陛下に会いたいと、陛下に、自分が両親にしてあげられなかったことを、してやりたいと…だから」

シーガは二人の声など聞いていない。殺戮を終え、自身を失いかけているタースに話しかける。その額に手を置いている。
皇帝が、冷たい視線を二人に向けた。
「タースは、飛行船から落ちて死んだのだ。私を慕う強い思念、自らのうちに秘めたユルギア。そして、ルリアイを持っていた。タースはユルギアとなって自らの遺体に宿っていたのだ」

「…開放するべきだろう!シーガ。お前も分かっているはずだ。遺体はもたぬ、もうどうしようもないのだ。ユルギアをはべらせておくなど!」
皇帝はタースの横にすがり付いていたミキーをひっぱりあげた。
「!」
声を上げる間もない。
銃剣の鋭い先端が。
少女の腹につきたてられた。
「きゃ」ジファルが悲鳴を上げた。

ばらばらと。
大理石の床に無数の青い石が広がった。
皇帝が手にしているそれは、すでに人ではなくなっていた。
小さな兎の人形だった。割かれた絹の腹から小さなルリアイが。また一つ転がる。
「な…」
「ふ、ユルギアは逃げたようだな。これは、ミレニアの涙。アレがお前を殺そうとするたびに流してきた涙だ。お前を思う涙を捨てられず、お前に託すために人形に込めた。ミレニアは私に隠し、お前のことを密かに殺そうとしていた。私はもちろん気付いていたが。ミレニアがお前を手にかけようとするのを、黙ってみていた」
ルリアイがシーガの足元にまで転がった。
青く澄んだそれは、ミレニアの。母親の涙。
以前、タースが言った。
母親の慈愛の涙なのだと。
これほどの多くを抱えていたから、ミキーは特別な姿を持った。
すぐそばに。
シーガのすぐそばに母親の想いがあったのに。それはミキーの姿を借りて慈しんでくれていたのに。気付けなかった。

「あなた、は…」
「私はお前になど殺されるわけには行かない。自らの父親を亡き者にしてまで得たこの神の座を。そう、やすやすと渡すわけには行かないのだ」

シーガは、立ち上がっていた。
すっと。
懐から小さな拳銃を取り出した。

「ふん、私を殺せば、お前は神王を継ぐのだぞ。お前に負えるのか?この世界を。人々の未来を。それは重い。神として永遠の命を得る、一人生き続ける。お前などにその勇気があるのか!母を目の前に、一言も発することの出来なかった」
パン!!
皇帝の言葉が途切れた。
空しいほど短い音が遮った。
紫煙が揺らぎ、皇帝はその場に膝をついた。
「…ふ、タースに、感謝するのだな…私は人など滅びればよいと願った。だが。タースの想いに、人の可能性を見た。憎しみを力に変え、全てを慈しむ…人の想いに」

レスカリア帝国、皇帝は。静かに息を引き取った。
ミレニア皇妃に寄り添うように、それはやっと迎えることの出来た最期を穏やかに受け入れる笑みを浮かべていた。


シーガは座り込み呆然としていた。
皇帝は自らが死ぬことで、与えられた力を世界に返そうとしている。
タースはそう語った。
人など滅びればよい、本当にそう願っただろうか。
タースの想いが皇帝を変えたのだろうか。
分からない。


数分だったのか、数秒だったのか。
耳元に囁くミキーの気配に、シーガは我に返った。
ミキーは小さく小さく、まるで応援するかのように、少年の名を繰り返していた。

シーガは横たわるタースの遺体に再び手を当てた。
白く、透き通るような少年の顔にはもはや生きている証の一つも、見つからなかった。

真っ直ぐ見つめていた海の色の瞳は閉じられたまま。

嬉しそうに建物の歴史を語った。叶わぬことを知りながらユルギアの少女を愛した。

「バカですね…お前は。そばにいたいと、言ったのに…私一人、残すつもりですか」
シーガの頬を。
ひときわ輝くルリアイが滑り落ちた。
それはタースの額に当たり、一瞬涙に戻ると、吸い込まれるように消えた。

「…タース」
額に手を当てる。そこは白く、輝きだした。
タースの体から熱い塊が湧き出し、それをシーガは掬い取る。
手のひらに輝くルリアイは。青く淡く揺らめき、遠いリール海の色をしていた。

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