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「想うものの欠片」最終話 21

21

一面の蒼に、日差しがぎらぎらと反射していた。
飛行船は片側のエンジンが炎上していた。まだ、バルーンには延焼していなかった。
それも時間の問題だろう。
機関室では、右側のエンジンに通じる部位を封鎖し、船内への影響を最小限にしていた。
それでも、時折小さな爆発音がし、船体が揺れるたび、リックは一つ一つ決意が崩れるかのように恐れた。
心に築いた崇高なそれが、少しずつ。時間の経過と共に硬度を失い、もろくなっているのを感じていた。風が年月を重ね岩をも砕くように。
恐怖がいずれ正気を失わせるのではないかと、青年は震えた。
傍らの船長は、先ほどから胸に下げたペンダントを握り締めていた。
「あ、あれは…」
黒い雲が視認されたと思うと同時に、一気に視界は灰色一色になった。
それは泥のような何かを含んだ雲の様で、操縦室の硝子面にドロドロと灰色の波を立てた。激しく船体をたたき、ばたばたと音を立てた。
灰色の泥が流れていく。
「!?雨…雨ですよ!リックさん、これ、これで火が消えれば!」
船長が叫んだ。
上も下も、右も左も分からないくせに、船長は嬉しそうに笑った。
「あは、助かった、はは!」
リックもいつの間にか笑っていた。
雲をすり抜け、汚れた硝子の隙間から日差しが斜めに室内を照らす。
「火が、火が消えました!」
機関士も震える声で、歓喜を報告した。
それは間違いなく奇跡であり、そして確実に世界の危機を救った。
同時刻、遠くレスカリア帝国で一人の神王が命の炎を消し、引きかえに多くをこの世に残した瞬間でもあった。



その翌日。
ライトール軍がシモエ教区に進軍した時には、ティエンザの軍隊は撤退を始めていた。
ティエンザ国内では、手刷りのビラがあちこちの街角で配られ、失業者や国民が王宮に向かってデモ行進を始めていた。
そのために急遽、ティエンザ軍は首都に退却したのだ。

五日後。凱旋とばかりにムハジク候がライト公領に戻った時には、主要二十四都市のうち二十一までが彼に反旗を翻し、公国議会はムハジク候の大公暗殺疑惑を問いただすために、待ち構えていた。

黒い翼を持つ友人と一足先に首都に戻っていたスレイドは、すぐさま公太子の戴冠式を計画した。同時にトエリュ公太子の命により、スレイドはティエンザとの交渉を始めるために国境の町、カヌイエに向かった。


ティエンザとの交渉が成立し、キョウ・カレズの真ん中で和平条約の調印が行われたのは、それから一月の後だった。

あれほど猛威を振るった異常気象も、大陸を揺るがせた地震もなく、安寧が訪れたように人々は感じていた。
新聞やビラで騒ぎとなった赤い石については、ティエンザの西端の町ポオトに流れ着いた飛行船から、証人となる三名が保護された。
先にライトール公国で捕虜となったレクマイヤー教授らも、和平交渉の折にティエンザ王国に引き渡された。
赤い石については、今は亡き新聞記者トモキ・イワイダの告発記事によって白日の下にさらされ、その存在を地中深く沈めることで両国は合意した。
シモエ教区から採掘されたそれらは、鉛と泥の樽に詰め込まれたまま、北のシモエ教区に再び戻され、凍土の下に埋められたのだ。
すでにその地にシデイラたちの姿はなく、この世界のどこかへと消えうせていた。
教会はシデイラの保護も管理も、もちろん蔑視をも禁じ、共存の時代がいつか訪れる可能性を残した。


レスカリア帝国は国民による自治国家となり、全面的な開国を宣言した。
レスカリア帝国最後の皇帝は手厚く葬られ、その霊廟は今も神の聖地とされている。

一人の神王がこの世を去り、人々は生きながらえた。
かつて、語り継がれた神の時代。
神と契約をしたものは永遠の命を得る。代わりに世を治め、自然を護り、正しい世を導く責任を負ったという。

正しい世とはなんであろう。
この世界の命あるもの全てに思念が宿る。木々にも、動物にも。それらの声に耳を傾け、畏敬の念を忘れない。ユルギアと呼ばれる「想うもの」たち。それらが、実はもっとも大切な世界の声であることを人々は忘れかけている。
その聞こえない声を聞き、見えない姿を語る青年がいた。
銀の髪、翡翠色の瞳。
黒衣の彼は「想うもの」たちを呼び寄せ、その想いに耳を傾ける。
そして、想いの一欠片でも人々に伝えようと彼は旅を続けていた。



のどかな鳥の声。
馬車が走り、自動車が警笛を鳴らす。
レンガ造りの店の前で、真っ白なワンピースの美しい少女がショーウィンドウをのぞき込んでいた。
温かい昼下がりの日差し。
聖堂の鐘が昼の時間を教えてくれる。それにあわせるかのように、駅舎のほうから機関車の汽笛が公園の鳩を飛び立たせた。青い空に鳩が白い背を見せる。
ライトール公国、ライト公領。

少女の背後に黒衣の影が立った。その瞬間。

ほんの一瞬だけ。

街は時間を止めたように静寂に包まれたが。
気付くものはいない。

再び喧騒が時を支配する。

「この子にするですの」
少女の指し示した先には、小さな男の子の人形。木で作られたそれは、美しい手足を可愛らしいタキシードで覆われている。いかにも少女の好きそうな服装だ。
人形の大きな丸い瞳は長い睫を彼らに向けている。
鮮やかな金色の髪をしていた。

「…髪の色が気に入りません」
「んもう!シーガさま。わがままですの。早くタースに会いたいです!」
「気に入らないのです、他を探します」

青年の胸元には、青く光る小さな石がかすかに笑うように揺れていた。



あとがき。

いかがでしたか。
ユルギア=想うもの。神に選ばれた神王。難しい概念でした。
「想うものの欠片」
このタイトルの意味をやっと、お伝えできました。
ホントはね、こんな大仰なことじゃなくて。
木漏れ日や、晴れ渡る空。
それらに触れて心地いいのは、生きるものの力を与えられているから。そんな理由があるのではと。
ふと、考えたわけです。

何か、心に残せたのなら筆者として幸いです。

2008.4.29 筆者拝


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かいりさん♪

わ~、お忙しいのに読んでくださったんですねっ(^∇^)
嬉しいですっ♪お褒めの言葉までいただいちゃって♪
タース君のことは早い段階から決まっていました。エンディングを先に決めるタイプなので。そこに向かってすべてのキャラクターがそれぞれの立場で突っ走るというような作品を書いてみたくて。
楽しんでいただけて嬉しいです!

こちらこそすっかりご無沙汰しちゃってますが~かいりさんちに訪問するといつも「ぬふふ…♪」という楽しい気分をもらって帰っていますの♪

ありがとうございました。

大変遅くなりました(汗) ここまで…最後まで読み終えました。

タースが。そうか、あの時点でもう……と思ったらもう涙が…うぅっ。
ミキーも、お母さんの強い想いから生まれたんですね。そこにまた感動……(涙)
なんだか、うまく感想が書けなくてごめんなさい><;
こんなに素敵な物語の最終話にこんな稚拙な表現しか出来ない自分が恥かしいですorz

本当にお疲れさまでした。
タース、それにシーガ様や他にも登場する全てのキャラクターの強い想いがあって、この物語が出来てるんですね。
そういった描写もそうですが、世界情勢とか、政治的思惑とか…そういったものも描けるらんららさんを尊敬します。

これからも3人での旅が続いていくんですね^^
タース君どんな子になるんだろう♪
そう考えたら最後にすごくあたたかい気持ちになりました。
素敵な物語をありがとうございました!!

史間さん♪

長かったでしょ~(笑

シェークスピア悲劇!?詳しくないけどハムレットを思い出すらんらら…。確かにあれ、骨肉の争いを基にしたものが多いような。

最初に描きたいと思ったのがこのエンディングだったのです。
タース君は。うむ。悩んだ末、今後に気体を残しちゃいました。あんまりにもかわいそうな子だったので…(おい
いえ、あんまりキャラを死なせるのはどうかと…
最近始めたRPG「テイルズ オブ ディスティニー」(一番最初のね…)でリオンショックから立ち直れないでいるので(笑
やっぱりキャラは安易に殺してはいかん、と。
赤い石…。いつか続編が発生するなら(するのか?)使えるようにぼかしました(腹黒)

長い長いものがたり、読みきってくださって、ありがとう~!!

ありがとうございました!

素敵なお話、ここまで読ませていただいてありがとうございました!
シェークスピア悲劇とナポレオン史劇が一緒になったような、壮大な物語でした~
結局、神王とは何だったのか。
それはこれから人々が生き続け、その苦しみや喜びの中で証していくことだろうと思います。
タースも(涙)
安らかに眠らせてあげてもよかったかも(悩)
でも、これからもミキーとともにシーガを支えてくれることでしょう♪

赤い石が人知れずどっかに残っているのでは?
とか、思わず疑ってしまう臭い人間のオレでした(汗

完結、おめでとうございます!

松果さん♪

ありがとう!
そうですね~世界はきらきらしている、それを忘れないでいて欲しい。
うん。
そういう作品を書き続けていけたらいいなぁ♪
本当はだれもが…そうなったら、素敵ですよ♪
らんららが書いた中で一番長い作品になりました。楽しんでいただけて、感想もいただいて♪
作者としては夕焼けに虹を見たような気持ちをもらいました。
ようし、がんばるぞ~!

ユミさん~♪

ありがとう!長い物語を読破してくださって(^^)
タース君、そうだったんです。
タース君自身が、人間の「良い部分」の象徴でした。これまで、シーガさまやダルクさん、トモキさん、リック、親方、大勢に影響を与えてきたように、最後は皇帝の行動の要因にまでなりました。
描ききれるかな~って、不安だったんですけど。
感動したと聞いて、一安心。
素敵な感想をいただくと、また書く勇気がわきます♪これからもよろしくお願いします~♪

なんという…

何度かちょこちょこ読みに来てたんだけど、やっと感想を書けますよ。
うう~タース、君って子は(号泣)

世界は矛盾に満ちているけど、正しい世界なんて誰にもわからないのかもしれないけど、その中でキラキラと光る「想うもの」の欠片たち……
もしかしたらシーガのように選ばれた者だけじゃなく、誰でも本当は「想うもの」の声を受け止められるはずじゃあなかったのかな。ただ、皆それを忘れてる。
なんてね。朝からどっぷり感動に浸ってます。
シーガとミキー、そして再び違う形で会えるであろうタースの旅に、幸多からんことを。

完結お疲れ様でした。そして感動をありがとう。
新作も少しずつ楽しませてもらいます。

遅くなりましたが、完読しました♪
昼からずーっと読んでて…。外の大雨と共に、大量の涙流してしまいました。
一人の人間によって、一人が変わり、二人が変わり。人ってなかなか
良い方向に変わるのは難しいのに、タースくんは、たくさんの人を
変えてきましたよね。
亡くなっていたなんて、嘘でしょ?!と思って、うわっと涙が出てきましたが、
最後までタースくんであり続けていましたね。
これから、ミキーちゃんとタースくんで、シーガ様を支えていくのかな。
失ったものも多かったけど、得るものも多かった。そんな結末に、
感動しています。
素敵な作品をありがとう&お疲れ様でした^^

新作も早く読まなきゃ☆

はまねぇさん♪

おはようございます!
はい!がんばります~♪
公開まで少し間が空きますけど♪待っててくださいね~(^∇^)

おはようございます♪

はい、泣かされちゃいましたよ~(ノ><)ノ
本当に、良かった~!!らんららさんの小説に、私はどれだけ癒されているか・・。嫌な事あっても、らんららさんの小説を読むと、心洗われるって感じです♪♪改めて、いつも、ありがとうございますm(__)m
私も、どの作品の登場人物も、みんな大好きです♪虜にされちゃいます~
ウフッ
次の作品、もう書かれてるんですね!楽しみに待ちます♪新しいキャラにも会えるのも、楽しみです!!頑張って下さいね!
これからも宜しくお願いしますm(__)m

はまねぇさん♪

ありがとうございます!
想いがテーマだけに、登場人物全員に思い入れのある作品になりました。
二度!長いのに、読み返してくださったのですね~o(^▽^)o
泣かせちゃいました?らんららも書きながら泣きました(//▽//)
嬉しいです~(≧▽≦)作者冥利に尽きます!
えへへ…コメント嬉しさに作品を書いています。
はい、次回作も頑張ります!

kazuさん♪

ありがとう~\(^_^)/
長い最終話なのに!てへへ…嬉しいです~o(^-^)o
タースくん頑張ったでしょう?ミキーちゃんへの思いはこんなふうに叶えてみました。
世界を救う…って大きな課題を描き切れるのかがすごく不安だったけれど。今のらんららではこれが目一杯♪
力を尽くして、なんだかすっきりです♪
kazuさんのコメントに本当に勇気をもらっています~(^O^)/お互い色々と大変ですけど。これからも仲良くしてくださいね~♪

ついに、ついに!

最終話、きちゃいました~!実は、二回読みました♪もう!涙&切なさで1回目読み終えたときは、呆然としました…そして、もう一度読みました。゛想うものの欠片゛深い深~いお話しで、ほんと、いつも考えさせられます!ファンの一言として、ほんと、ありがとうございます!素晴らしい作品です!!!!!ビックリマークの数で気持ち伝わりましたでしょうか?それにしても…
タース君…素晴らしい少年です(>_<)最期まで立派でしたね!!けして幸福な生活をおくって来た訳じゃないのに、強く、優しい、綺麗な心を持つタース君にLoveです!シーガ様も、そんなタース君に出会って旅をし、色々な想いに触れ、辛い過去も受け入れ素晴らしい神王になっていくんでしょうね-シデイラである誇りをもって…。ミキーもいつまでもシーガ様とタース君の側で幸福なんだろーな~(妄想中~♪)あ~また、三人の旅に会いたい-(>_<)!やっと、完結したのに、すみません…。でも、らんららさんの次の作品も 楽しみにしていますね♪
お疲れ様でした!

涙が・・・

涙が、止まりません。
タース君は・・・死んでしまっていたんですね。飛行船から落ちたときに。
でも、タース君自身が自らのルリアイでユルギアとなった自分を自分の遺体に宿らせて、ユナくんとタース君の想いを遂げようと・・・。
シーガ様は知っていて、会って分かっていて。

ミレニア様の気持ち。皇帝陛下の気持ち。シーガ様の気持ち。
すれ違いながらも、想う心は最後、伝わっていたはず。

皇帝陛下は、シーが様の為に、そして滅びの道をたどろうとする世界のために、シーガ様に本心ではない言葉をかけて自らを殺させたのだと。

タース君は、ミキーちゃんと同じ立場で今までと同じように、シーガ様と共に生きていくんですね。
タース君のすべてに優しいその心が、世界を滅びの道から救ったのだと、そう思えて また涙が~~~;;

読み終えたその感動のままコメントをさせて頂いているので、おかしなところがあったらすみません。
また読み返して浸ってきます!!
そして、少しでも「想うもの」を感じ取れる人になりたいと、思います。
完結、おめでとうございます。
そして、お疲れ様でした!
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