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「音の向こうの空」第二話 ⑦

―第二話『少女、歌、奏で』―



少女の言葉がずっと耳に残る。

自覚しているところをつつかれる。分かっている、と自虐的に反芻している自分がいる。それは自分自身に弁解しているのと同様だ。自分にすら言い訳しなくては収まらないくらい、胸の奥では現状に苦しんでいる。
認めたくはないが。
息が詰まる。

キシュはあの後「でも、こんな素敵なペットなら、飼いたいって思うよね」
と。それは青年の表情を読んだ慰めかもしれないが。
先日と同様、今日はお茶とお菓子の礼だと言って、軽いキスをくれた。
それも慰めかもしれない。

情けない。十八にもなって、年下の少女に憐れみをもらうなど。
風の強いその夜。オリビエは生まれて初めて侯爵の命令で曲を作ったことを思い出した。
あれは、十三歳の秋。両親が亡くなって、一人途方にくれていたときだ。

遠い街の親戚たちが引き取り先をめぐってヒソヒソとキッチンで話し合っていた。僕は一人、チェンバロを弾き続けていた。
他に何も出来なかった。

父の葬儀に来ていた侯爵が音を聞いて訪ねてきた。
彼が僕を引き取ると言い出し、親戚は喜んで僕を差し出した。

リッツァルト侯爵は、僕に命じた。
明日、迎えをよこす。それまでに、両親へのレクイエムを作りなさいと。
僕は頷くしかできなかったけれど。
ずっと、奏で続けていたのは両親への想いだった。そのどの一小節でも二人への想いで一杯だった。

音楽を教えてくれたのは両親だ。僕は音で父さんと話しをしたし、楽器で小鳥の声を真似して見せれば母さんは鳥の名を当てて見せた。
この家で、僕が奏でる音全てが両親の思い出なんだ。
このチェンバロも、この指も、手も。すべて、両親が残してくれた。

翌日。侯爵が自ら迎えに来た。
僕はここで。両親の残してくれたチェンバロで弾きたいと言い、彼は頷いた。
あれは雨の日だった。

湿り気は音を曇らせた。
それでも、僕は弾きつづけた。湿気に弱いチェンバロの弦は、弾いているうちに乱れ、音も鈍る。それでも。
父さんが僕に語るのは音楽の話だった。
母さんが僕に教えてくれたのは優しい気持ちだった。
僕はその両方を音に変えた。

拍手を。
侯爵の拍手をもらって、初めて涙がこぼれた。

張り詰めた弦が、雨で緩むように。僕の心を溶かしたのは自分自身の曲と、侯爵の笑顔だった。抱きしめられ、子供のように泣いた。

侯爵は僕を侯爵家に住まわせるつもりだった。
でも、この家の、両親の残したチェンバロを放っておくことができないと訴えたら、ここに住むことを許してくれた。手入れを怠れば楽器は使えなくなる。
それを侯爵は良く知っていた。
感謝すべきなんだろう。


僕は、音を奏でることで生きていける。
そんな幸せは、他にないじゃないか。
どんなに自由でも、楽器がなくては僕は奏でられない。楽器を維持して、奏で続けるためには、侯爵の力が必要なんだ。
キシュは歌えるから自由なんだな。

強い意志を感じる子だ。赤い髪がまるで太陽みたいに暖かい印象を与える。
どんな生活をしているんだろう。何処に住んで、どんな両親がいるのか。
どんな環境でなら、あんなふうに強く、伸びやかに。そして歌えるように育つんだろう。

明るい太陽の下、犬と戯れる少女を想像した。
紅葉の始まる楡の木の下、白い犬と赤い髪の少女。
それを、明日、曲にしてみよう。

次へ♪
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