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「音の向こうの空」第三話 ④

―第三話『春を待つ鳥』―


「キシュ、乱暴だな」

少女は先ほどまでのだぶだぶの上着少女ではなくなっていた。

リビングの窓に反射する自分をしっかり見ようと右に左に回ってみせる。しげしげと袖口のレースを眺め、次に胸元をなで、裾をひらりとさせてみる。
赤い毛織物のコートは上質ですんなりした腰のラインが華奢な少女を女性らしく見せた。胸元を飾る刺繍とレースはなだらかな丘を築き、その真ん中で小さな両手が組まれていた。
祈りに似たそれをする少女は聖女のような笑みを浮かべていた。

「ありがとう」

多分、初めてだったろう。
キシュがオリビエに礼を言った。

「あ、いや。その。ごめんね、それ、お下がりなんだけど。まだ袖を通していなかったはずだから」
「お下がり?これが?誰の?すっごい素敵だもの、このままお貴族様のパーティーにも出られそうよ」
「それ、母さんの、なんだ。五年前のだけど質のいいものだから」
どんと、少女に抱きつかれた。
「わ、キシュ……」
赤毛が耳元をくすぐった。
案外背が高いんだと、今更気付く。それともこの数ヶ月で伸びたのか。

「ごめんね、僕は自分で買い物できないから、どうしても新しいものは買えなかったんだ。それでも、何か君にお礼をしたくて。やっぱり、気に入らないかな、母さんのだから大きいと思うけど」
キシュは黙って首を横に振った。
「キシュ?」

押し付けられる額、頬。
泣いている?
嬉しくて?
あのキシュが?

だとしたらそれは奇跡というものだ。

不意に少女は顔を上げた。
期待する涙は見られなかったがいつもと少し表情は違った。

「あのね、そんなのもらえない。あんたバカよ。ヘンタイの上にバカ。形見でしょ?お母さんの」
「ん、まあそうだね。でも誰も着ないんだから」
「だめ、いらない。ちゃんと自分で買ってプレゼントして」
そう言われれば、反論は出来ない。
「……そうだね。ごめんね」

あれほど喜んでくれたと思ったのが、どうにも少女の気持ちは分からなかった。

乱暴に投げ返されたコートを抱え、オリビエは二階にある両親の部屋へ持っていった。冷え切った両親の寝室は、埃一つない。あのときのまま、いつでも使えるようにベッドにシーツも敷かれている。シューレンさんの優しさなのだ。
そこにオリビエが花を絶やさないことをシューレンさんも知っているのだ。

赤いコート。これをシューレンさんが見つけてくれて、これなら年頃の子に丁度いいですよと。キシュには大きいよ、母さんのサイズだよ、と笑うとシューレンさんは自分にそれをあてて見せた。

「ほら、オリビエ様、その子と私、あまり身長は変わらないのではないですか?だとすればぴったりでしょう?」
「あれ?」
「オリビエ様、貴方様の身長はもう、お父様を追い越していますし、つまりキシュというその子だって大人と同じです。もう立派な淑女ですよ。まあ、行動は子どもそのものですけどね」

シューレンさんの言うとおり、キシュに似合っていた。両親は常に自分より大きいものだと、そんな印象だったのに。いつのまにか自分自身も父親を追い越していた。
時が経っているのだ。


リビングに戻るとキシュは膝を抱えたままソファーに座り込んでいた。
オリビエが現れて助かったといわんばかりにランドンが足元に駆け寄り、尻尾を振った。
オリビエはランドンにはけっして手を触れないのに、なぜか懐かれていた。

「キシュ、夕食にしよう。お腹すいただろう」
「ほんと、馬鹿なんだから」
まだ、コートのことを言っているのだろうか。

「ほら、おいで。ごめんね、今度は何とか自分で買い物できるようになるから」
「あんたいくつ?お子ちゃまなんだから」
拗ねたままついてくる少女の肩に手を置いた。
「だから、謝るよ、そんなに怒らないで」

「だいたいさ、あんな素敵なもの見せといて。形見だって。ほんと馬鹿なんだから。貴族様と違ってね、あたしたちはパンのためにならなんだって手放すんだよ。あんなの家にあったら親父がさっさと売り払っちゃうんだ。もらえるわけないじゃない。ちょっと考えれば分かるでしょ?」

「え?」
「何、その顔」
気に入らなかったのでは、ないのか。
「形見じゃなかったら、売るの?」
少女は頷いた。
「そう。案外、優しいんだね。キシュ、今日はちゃんとお祈りしてから夕食だからね」
「なにそれ」
「僕はやっぱり感謝しなきゃいけないって思ったんだ」

「神様に?」
「そう」
両親にも、そして侯爵家にも。服を売らずに生きていける環境にある。

「もちろん、キシュにも感謝してる。一緒にいるのは楽しいからね」
「じゃあ、仕方ないわ、付き合ったげる。でもお祈りの言葉覚えてないから、オリビエが話してね」
「じゃあ、覚えようね」
「だからそれが見下してるっての」
「かわいいから、君」
「もうー」

次へ♪
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ユミさん♪

んふふ♪キシュちゃんと…どうなるかな~?(にんまり)
鳥の話、今後を少しだけ予兆させている部分でもあります♪
オリビエの憧れる空、自由。そこに何があるのかそれはなんなのか。青春ものですから(一応…笑)悩んだり苦労してもらう予定です~♪

キシュちゃんは、恋愛対象には難しいか~。でも、そういう子に限って、
惹かれていっちゃうものかなとも思うのですが…。素直じゃないし、
一方的だし、やんちゃな雰囲気が、わたしはとっても好きです。
そして…。飛べる鳥は、死に物狂いで飛び続けるって台詞、ちょっと
ジンとしました。逆の発想というか。人間からしてみりゃ、いいな~、
羽ばたけて、気持ちよさそう!って思うのは、やっぱりないものねだり
なんでしょうね。
鳥からしたら、飛べなくていいな~って思ってるかもしれませんね。
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