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「音の向こうの空」第三話 ⑥

―第三話『春を待つ鳥』―


オリビエがワインを取り出し、音楽堂に戻ると男爵は肩についた雪を払ってくれた。
「オリビエ、それを飲むつもりか」
侯爵が眉を寄せ、それを見た男爵は笑い出す。
「え、……あ!」

甘い白いワインは凍っていた。

「もうしわけありません、せっかくいただいたのに」
「これはこれで、おつかも知れませんよ」面白がって男爵が無理矢理コルクを引くと、凍りついたそれはぼろぼろと崩れた。
「あ」
「男爵、何をしている。そのようになったもの、飲めたものではない。新しいものを持ってこさせる」

侯爵に命じられたビクトールが三つのグラスと新しいワインを持ってきたときには、男爵は意地でも空けると宣言し、丁度残ったコルク栓を無理矢理ビンに押し込んだところだった。半分凍りついたワインはとろりとし、香りだけを楽しんだ男爵がオリビエに差し出す。
「え、……」飲めと?

侯爵に助けを求めるがいつもの無表情で自分のワインを口に運んでいる。知らん顔だ。せっかくのワインを、という多少の苛立ちも見て取れる。

仕方なくオリビエは男爵の冗談と知りつつもグラスに注がれた凍りかかったワインを口に含んだ。

それは当たり前だがひどく冷たく、そして濃厚な甘みを持っていた。時折触れる氷の塊がさくさくと舌を刺激し、そう、美味しかった。
「あ」

「どうした?感想は」
面白がっている男爵に、オリビエはしてやったりと笑って見せた。
「美味しいです。濃厚で甘みが増しています」
そして一気に飲み干してみせる。

「侯爵様にいただいたものですから、私が責任を持っていただきます」と二杯目をなみなみとグラスに注ぐ、というより落とすオリビエを目を丸くして男爵は見つめる。
男爵はからかうあてがはずれ、嘘をつくなとグラスを取り上げた。
「美味しいですよ、男爵」
口にすると同時に表情を変えるロントーニが面白く、オリビエは笑い出した。

「ほら、ね。まるで噂に聞くフロイセンの貴腐ワインのようではないですか。蜜を落としたようだ。本当に美味しいです」
「ふん、子供向けの味だな」
そういいつつも飲み干す男爵に悪戯な気分になる。
「では男爵もお好きなのですね」
「私を子ども扱いするか、お前は」
「美味しいものは美味しいです。あ、だめですよ、後は私がいただくんです」
ビンを取り合うようにじゃれる二人を、静かに侯爵が見つめていた。
珍しくオリビエの笑い声が響き、同等と化している男爵も楽しげに青年の肩を叩く。

オリビエは空腹と渇いた喉に染み入るそれが気に入って、酔いが回っていることにも気づかない。男爵が目を離した隙に最後の一口を自分のグラスに奪う。

「リツァルト侯爵、貴方も睨んでいないでご一緒にどうです。食事も宴会も、共に飲んで食べるから楽しいのですよ、そうだろう?オリビエ」
「え?あ?」
不意に同意を求められ、最後の一口を取り上げられないうちに飲み干そうとしていた青年は侯爵の視線に気付いた。
「あの……」
オリビエの表情が強張る。
それを見て取って、ロントーニは背中を二回ほど叩いた。
「ほら、それ。侯爵にも」
「え…」
オリビエが自分のグラスを改めて見つめた時には侯爵の大きな手が掴み取った。
「!」

ガシャン!

床に投げつけられたそれは見事なほど細かく砕け、足元に広がった。

「あ……」
立ち上がりかけたオリビエは侯爵の表情から目がそらせない。
「男爵、そろそろお休みになってはいかがかな」
静かな侯爵の言葉はランプの炎すら凍りつかせるように思えた。
オリビエはつい、調子に乗った自分をのろった。

「仕方ありませんね、では、休むとします。侯爵閣下、オリビエ、楽しいひと時だった」

そう残して、ホスタリア・ロントーニ男爵は音楽堂を出て行った。

残されたのは静寂。
立ったまま二人は黙っている。オリビエはうつむき、侯爵は見下ろす。
それはそのまま、二人の関係を物語っていた。

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