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「音の向こうの空」第三話 ②

―第三話『春を待つ鳥』―



オリビエが誰かにクリスマスプレゼントを贈るのは初めてだった。

どうしたらいいのか分からず、とりあえず頼りになりそうなシューレン夫人に話してみた。
夫人は目を真ん丸くしていたが、エスファンテの街で手に入るだろうと教えてくれた。
オリビエはそう言われて黙る。

「あの。シューレンさん。僕、現金を持ってないんだ」
それはプレゼントの話以上に彼女を驚かせた。

必要なものはすべて、侯爵家で準備される。食事も衣服も日用品も、すべてシューレンさんを介して手に入った。本が読みたいと思えば、侯爵家の侍従長ビクトールに話せば、二、三日のうちに届けてもらえた。

自分で何かを買いに行く必要も、自由もなかった。
公爵夫人の買い物につき合わされ、一緒に山ほど服を買ってもらうことはあっても、自分で支払いをしたことはない。
それは、十三の時にすべての遺産を侯爵に預けた時からずっとそうなのだ。
不便でもなかった。

「それは、困りましたね。そのお嬢さんの服を買うのに、侯爵様のお許しが出るかどうかは…」
アネリアとの結婚を許してもらおうとした、あの時の侯爵を思い出す。
「ビクトールに言えば…」

ふと、アネリアのときのことを思う。
またか、と呆れられるだろうか。

別にアネリアとの間柄とは違う、ただの友達だ。

「僕にも、何か。そうだな、お金になる仕事があれば」
「オリビエ様、それは堅く禁じられておりますよ」
朝食後のコーヒーをもらいながら青年はため息をついた。

マイセンのカップに描かれた鮮やかな蘭の花が褐色の揺れる水面に現れては消える。
ここ数年、公爵夫人が夢中になって集めている品だ。フロイセンで作られる白磁の食器は銀食器より人気があった。
シューレンさんもその器にはことさら気を使うらしく、いつも食器棚の決まった場所に贅沢なほど場所をとって置かれていた。
「ね、シューレンさん」
「はい?」

「これ、売っちゃう?町に質屋があるよね。絶対にいいお金になると思うんだ」
欲しいといったわけでもないのにアンナ夫人が買ってくれたものだ。
「お、オリビエ様!!そんなことをなさるなんて、罰が当たりますよ!」
顔を真っ赤にして、シューレンさんが怒鳴るので、オリビエは冗談だとなだめる。

「オリビエ様。その、キシュという娘さんは学校に通っていないのでしょう?教会の教えを受けているとは到底思えませんし、貴方様に良くない影響を与えるのではないかと心配ですよ。その子のためにそんな恐ろしいことをおっしゃるなんて」
「分かったから。しないから、そんなこと。ゴメン。そう怒らないで」
そう、どうせできやしない。
「二度とそんな恐ろしいこと、おっしゃらないでくださいませ」
「約束するよ。だから、そんな風に怒らないで欲しいな」

丸い頬を赤らめて怒るシューレン夫人が哀れに思えてオリビエは背後から軽く抱きしめた。
少しだけバターの香りがした。

いつのまにか自分の身長が夫人を軽く追い越していることに気付いて、あれ、と声を上げる。「シューレンさんって、こんなに小さくて可愛らしかったかな」とつぶやくと「オリビエ様はもうご立派な紳士でいらっしゃいますよ。私はとっくに気付いていました」と笑う。

「お会いした時にはまだ、小さなお坊ちゃまでしたのにねぇ。夕方私が帰ってしまうのを淋しいとおっしゃってくださいましたね」
そうやって見上げる表情は、昔から変わらない。今も、悪戯な子供を見るように目を細める。淋しいなんて言った覚えはないぞと記憶を探る青年に夫人もいたずらな笑みを返した。
「冗談ですよ」

それでもその日以来、マイセンの食器の棚には鍵がかかった。
シューレン夫人がオリビエのことを思ってしたのだろう。あるいはキシュのことを心配しているのかもしれない。別段そのことを問いただす必要もないので、マイセンの美しいカップはもっぱら観賞用になった。

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