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「音の向こうの空」第四話 ⑤

第四話:思想の騎士、ファリの街



オリビエは黙って、意味の分からない二人の会話を聞いていた。
三部会。もちろん、噂は聞いたことがあった。新しい徴税制度の審議のために貴族、僧侶、平民の三つの身分から代表が選出され議会を開くのだという。
だが、議員を選ぶ選挙には参加できなかったし、また、それに関わることを侯爵はひどく嫌った。

「お前の仕えるリツァルト侯爵も議員の一人だろう?」
不意にマルソーに話しかけられ、オリビエはびくっと顔を上げた。
いつの間にか、うつむいて小さくなっていたらしい。

く、とエリーが笑う。金の髪と彫像のような顔が西日に眩しくて、オリビエは何度も瞬きした。
「おい、口が利けなくなったのか」
「あ、いいえ。侯爵はその、三部会のお話はお嫌いです」

侯爵が議員だとは知らなかった。

知らなかったという事実を伝えれば、さらに二人に馬鹿にされる。そう思うと、口は重くなり中途半端な説明で終わる。

「ふうん、あの人もロスレアン公と親しいからね。侯爵は貴族身分の議員だ。平民に同調すれば議決を左右する鍵になりうるな。分かっていてここに招くロスレアン公も、なかなか」
エリーは面白そうに顎に手を当てた。
「ロスレアン公が議会と平民を利用して王位を狙う、という説もあながち間違っていないだろうさ。リツァルト侯爵も堅い人だからな、そうそう自分の思想を明かすはずもないか。で、オリビエ」
「あ、はい」
マルソーはオリビエの目の前の皿から、菓子を一つつまむと口に放り込む。
「お前、いくつだ」
「あの、十八です」
マルソーはぶっ、とむせた。

「なにか、おかしいですか」
さすがにそれは失礼だろうと思う。
政治のことも思想のことも分からないが、そこまで馬鹿にされる必要もない。
「失礼します」
立ち上がると、オリビエは一礼した。
まだ、マルソーは笑い続けていた。
エリーはただ黙ってオリビエの後姿を眺めていた。


悔しい。
世間知らず。自分がこれほど不甲斐なく感じたことはなかった。
一人になれる場所がわからず、離れの中を歩き回っているうちにアンナ夫人と出くわした。
真っ赤な唇が嬉しそうにほころぶ。
「オリビエ、あら、どうしたの。不機嫌ね」
「は、いえ。あの」
夫人はきょとんとした。
「あの、有名な喫茶店。エスカルでしたか。そこに行ってみたいのです」
とたんに目を輝かせ、夫人は薔薇の香水を匂わせたまま青年に張り付いた。
「楽しそう!噂に聞いたことがあるわ!」

夫人は退屈しのぎに買い物にでもと考えていた。青年を連れて行けば二人きりで楽しい時間を過ごせるというもの。有名な【ファレ・ロワイヤル】には商店もそろっている。
「あの、私一人で、行きます」
オリビエは慌てた。言葉が足りなかった。まるで婦人を誘ったような格好になった。それはまずい。

「あら、それは許されなくてよ」
アンナ夫人は少女のように口を尖らせて見せる。上機嫌なのだ。
「危険かもしれませんし」
オリビエがいつになく力強い口調で否定しようとするが、夫人には逆効果だ。
「あら、心配してくれるの。優しいわね」
返って嬉しそうだ。

アネリアの一件以来、オリビエは夫人を避けていた。屋敷で遠めに夫人を認めてもそばに近づこうとはしなかった。婦人もそれを感じ取っていたのか、以前ほど執拗にまとわりついたりしなかった。二人の間にはこのファリのように真ん中を川が流れ、互いに向こう岸の相手の存在に気付いていながら、渡ろうとはしていなかった。

夫人は川にかかる橋を見つけたのだ。
気まぐれな思い付きだろうが、橋は橋。当然夫人は渡ろうとする。
しかもこの橋は、オリビエがかけてくれたのだ。

夫人はお気に入りのオリビエを飾り立て連れ歩く喜びを脳裏に描いていた。
オリビエの首に両腕を回し、キスをせがむ。
オリビエは顔をそらした。

「オリビエ?」
「奥様は約束を破られました」
「あら、何のこと?」
「…アネリアは、まだ北の牧場にいるのですか」
夫人の顔色が変わった。

「誰のこと?そんな子はいないわ。あ、そうね、もう一年も前に一人修道女になるとかで出て行った子がいたわね。アネリア、そんな名前だったかしら」
「!」
追い出されたのか!
驚いた様子のオリビエに夫人の怒りはさらに増す。

「オリビエ、何を引きずっているのかしら。お前の役割は分かっているんでしょう?子供だったお前を引き取って世話をし、ここまでに育てたのは侯爵様よ。はむかえる立場じゃないでしょう?よくよく、自分の立場を理解するのね。私はお前の指を切り落とすことも出来るのよ。そうなったら、お前に何が残るのかしらね」

オリビエは夫人を突き放した。
よろけつつもぎろりと睨むその顔は獣が牙を向く前に似ている。

「いいこと。お前は私のもの。侯爵様に音楽をかなで、私にキスをする。態度を改めるなら楽器が弾けなくなっても下男くらいにはしてあげるわ。お前に音楽以外で出来ることはそのくらいでしょう?」

駆け出した。
待ちなさい、と叫ぶ声も、もうどうでもよかった。
そのままそこにいたら、きっと夫人を殴っている。

生まれてから一度も、誰かを殴るなどした事はない。死ぬほど憎んだこともない。けれど、目の前にいる赤いドレスの女だけは、その生まれて初めてになりそうだった。

次へ♪
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ユミさん♪

ガツンと!
ユミさん、いっといてください!
オリビエは手が痛いの嫌いだから、出来ないんです、だから逃げちゃう。
弱い子です。(^^;)

そうそう、威張る人って何言っても許されるとか思っている、うん。
上司にいたら殴ってます、やはり(笑
オフィス版、アンナ女史と新人オリビエ君を想像しちゃいました(笑)

代わりに

わたしが殴るわ~、アンナ夫人v-217
オリビエェ、そりゃ、その言い方は、女性からしたら、「一緒に行こう」って
言われたも同然よ。夫人が渡ってこないうちに、ガツンと橋を壊して
おかないと!!それにしても、このどうとでもなるという態度、
今の時代でもそうですが、偉い立場の威張る人って、嫌なものですね。
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