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「音の向こうの空」第四話 ⑧

第四話:思想の騎士、ファリの街



「このまま、オリビエ。お前が戻らなければ、侯爵はどうするんだろうな。今夜はともかく、明日は王宮でのお披露目だ」
そこまで知っていて、マルソーはオリビエをここに誘ったのだ。

ロスレアン公は侯爵と友人だ、今夜くらいは大目に見てもらえるだろう。けれど、宮廷はどうだろう。国王の謁見、さらに御前での演奏を許したのだ。普通なら断るものなどいないはずで。それを断れば侯爵も何かしら咎があるかもしれない。ぞくりと、オリビエはこわばった。

侯爵が言っていた、仮病作戦は本気だったのかどうか。それも分からない。

青年がキッシュをフォークに乗せたまま忘れているのをマルソーは目を細めて見ていた。オリビエの決意を、試そうというのか。公爵夫人の手から逃れたいと願った青年の決意がどれほどのものか。その自由のために何を代償にできるのかを。

「二度と、楽器を弾くことは出来ないかもな」
マルソーは意地悪く笑って見せた。
「……」
オリビエは口を固く結んだ。ここで挫けたらさぞかし馬鹿にされるのだろう。思想もない、世間も知らない。十八の癖に自分の意見も持たず、自分で自分の行動も決められない。情けない男。
エリーが白けた様子で眺めていたのを思い出す。
話にもならない。
そう、決め付けられた。
僕は。

小さな振動が目の前のグラスの水を揺らした。

オリビエの指先が小さくテーブルをたたき、見えない鍵盤を探しているのを、マルソーが気付いた。
「オルガンならあそこにあるぞ」
オリビエは気付いて、慌てて拳を握り締める。音になろうとする思いを握りつぶす。
目をつぶって首を横に振る。

「…おかしな奴だな」
マルソーは目の前の酒を一気に飲み干した。
ついでにオリビエの目の前のパイをしっかり口に突っ込んだ。
「新聞記者は記事を書いて主張する。弁護士は言葉を操る。俺は口ではない、行動として思想を護る。お前は音なんだろう?音で自分を語るんだろう。それを否定してどうする」
「音楽を続けるには、侯爵様の庇護が必要です」
それが現実だ。
「…ふざけるな」
マルソーの口調が低く不穏なものに変わる。それでも、オリビエにはそれしかない。
「僕には、音楽以外何もない。家も土地も、この服も、すべて侯爵様のものです。…いいえ、僕の音楽もすべて。…侯爵様の、もの」
「お前、バカか!歌おうとすれば誰でもいつでも歌える!語りたければ口を開く。自由になりたければ立ち上がれよ。自分に足があることすら忘れたというのか?」

オリビエは唇を咬んだ。
臆病なんだ、僕は。
何よりも、この手が鍵盤を弾けなくなるのが怖い。
両親が僕に残してくれたこの手が。

「立ってみろよ、おい」
すでに立ち上がって激昂している男が、強引にオリビエを立ち上がらせた。

周囲も珍しいマルソーの怒鳴り声に会話を止め、二人を見守っていた。店主が、小さくマルソーさん、となだめるが。
「もう一度言ってみろよ!お前。お前の音楽すら、侯爵のものだってのか!ええ?」
オリビエはどうしていいのか分からなかった。
ひどい騒音のようなマルソーの口調に耳を塞ぎたかった。
頭のどこかで、あの時演奏した両親へのレクイエムが静かに流れる。
「何とか言えよ!」

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