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「音の向こうの空」第四話 ⑨

第四話:思想の騎士、ファリの街



オリビエの細い白い顔がうつむくと、余計に小さく見えた。
「おい、マルソー、子ども相手に熱くなるなよ」
同じカウンターにいた男が助け舟を出す。

「子どもじゃないぜ、こいつ十八なんだぞ!十八年も生きて、何を学んできたんだ!」
船は明らかに転覆した。
十八か、と驚く周囲のざわめき。

波間でオリビエはさまよっていた。
「どうしろと」
「なんだ?」
「僕に、どうしろというんですか!僕…は、音楽を続けたいんだ!自由じゃない、恋人だってなくした、それでも、音楽だけはなくしたくない!」
「じゃあ、音楽はお前のものだろうが!」
どんと、背中を押され、オリビエはよろめいて近くのテーブルに手をついた。

「ほら、弾いて見せろよ!お前の音楽だろ?それすら侯爵のもんだなんて言うな!お前にはお前の生き方があるだろう!音楽のために何もかも犠牲にするならそうすればいい!だがな、それすら自分から捨てるようなら、生きてる意味なんかないだろうが!思想がなくたってな、世間知らずでもな。それでもお前には音楽があるんだろ!胸張ってろよ!だからエリーが呆れるんだろうが!」

オリビエは睨み返した。
だまって、店の隅においてあったオルガンに向かう。
小さな、古ぼけたオルガン。
それでも、木の鍵盤に手を置けば、自然と指が動き出した。

たった五オクターブしか並んでいない鍵盤。限られた数の音。
だがそれは男たちに見たこともない景色を見せた。

ほんの数分だった。しかし、自由を見た気がしたと誰かが言った。

手に取ったことも、心から勝ち取った経験もない自由を希う。
力強い勇気をもらったと誰かが語った。

この店が、これほど静まり返ったことはかつてなかった。
同時にこれほど一つになったこともなかったと、この夜の出来事はそう語り継がれることになった。


また、是非きてくれと何度も店主に言われ、オリビエは複雑な面持ちで店を後にした。

演奏を聴いて以来、黙っていたマルソーは、オリビエを馬に乗せた。
「…あの」
僕はどうすればいいのだろう。
「お前、侯爵に頭を下げろ。俺も、協力してやる」

「え?」

先ほどまで、自由になるべきだと叫んでいたマルソーだった。
あれほど、侯爵に縛られるオリビエに怒鳴りつけたのに。
「どういう、ことですか」
「…聞いて、理解した」
「何がですか」

しばらく、考えて。黒髪をぽりぽりと掻くと、マルソーは「はあ」と息を一つ吐いた。
「悪かった。お前の音楽な。価値があるんだ」
「…」
「侯爵が、お前を抱え込みたい気持ちが分かっちまった。宝物みたいなもんなんだ。だから、侯爵はお前を護り続けるだろうし、お前から音楽を取り上げるようなこともしない。独り占めしたい気持ちがさ。分かっちまった」
オリビエはなんとなく納得できず、黙り込んだ。

「音楽は絵とは違う。画家がいなくても絵画は残る。だが、お前の音はお前しか奏でられない。いつでもお前がいなくちゃ聞けないんだ。だから怪我なんかさせない。そのために乗馬も禁じるさ。その侯爵の気持ちが分かっちまった。幸せだろうな。侯爵は」
「意味が分かりません」
「自分のためだけにお前の音を聞けるんだ。これほど贅沢で、幸せなことはないだろう。出し惜しみの侯爵。だろうな。お前が王宮で演奏すれば、間違いなく国王が欲するだろう。演奏させるはずがない」
「!」
「だろう?」
オリビエはうなずいた。
「病気になれと、言われています」
「くっくっ」
面白そうにマルソーは笑った。
「あのリツァルト侯爵が。どうせ仏頂面でニコリともせずに言うんだろう。お前は病気になれ、と」
「ええ」
「お前、見失うなよ」
酔っているのかマルソーの言葉はあちこちに跳ね回る。つじつまが会っているのかいないのかもよく分からなくなる。

「…だから、意味が分かりませんよ。マルソーさん」
「お前にとって何が大切か、だよ。これからの時代。侯爵をはじめとする貴族は大変だぞ。時代は変わりつつある。今のままじゃ行かない。みんな、時代の勝者になろうと懸命なんだ。だから、あの店にもいろんな奴らがいただろう。皆怖いんだよ。少し前に、新大陸で母国から独立して一つの国が興った。新しい考え方なんだ。国民のための国、政治。その考えに感化されて皆自分に都合のいい未来を思い描いている。今の国のあり方じゃ、皆が飢え死にさ。だから、変わらざるをえない。変わったときに、自分がどうなるのか皆分からない。怖いのさ。自分が今いる場所が、地位が、安全とは限らない。いつ沈むか分からない船の中で、走り回るネズミにおびえているんだ」

オリビエは黙って聞いていた。
二年前にこの国が派兵した、新大陸の独立戦争。そこで人々が勝ち取ったのは、自分たちの国を作る権利。生きる自由。
その思想が、この国を含め周辺の国々に及ぼした影響は大きかった。

「いいか、オリビエ。改革をうたう輩が必ずしも成功するわけじゃない。金持ちや貴族が必ずしも幸せじゃないようにな。お前は、一つ大切なものがある。それはお前にとっても宝物だ。それがあればお前は幸せなんだ。それは素晴らしいことなんだ。分かるか?お前は、いつでも自分の音楽を続けられることに精一杯努力すればいいんだ。政治に加わる必要なんかない。思想をもつ必要もない。お前は一つの宝を大切にするんだ」
「マルソーさん…」
「お前の曲を聴いて、俺はそのことに気付いた。自由が幸せなんじゃない。第三身分の議員連中は皆自由こそが幸せの近道だ何て抜かすが。違うんだ。なあ、そうだろう?そんなものにも影響されない。お前の音楽はそんなこと関係ないんだ。そうだろう。そういう生き方、そういう幸せもあるんだ。俺は、感動した。お前は俺に新しい考え方を教えてくれた」
「マルソーさん」

「お前の生き方そのものが、どこに出しても引けを取らない立派な思想なんだ」
わけが分からないが、とにかく、何か認めてもらったようだ。

オリビエは暖かい男の背にしがみついていた。
マルソーはもう、それを女のようだとは笑わなかった。

市街から河を一つ隔てた高台の土地にロスレアン公の城がある。大きな共同住宅が立ち並ぶ町を抜け、暗い中にもガス灯が並ぶ川岸を眺める。川面に青白い蛍のようなそれがはかなく揺れる。湿った空気にオリビエは少しばかり身震いした。

第五話は7/14公開です♪



らんららです
ここまで読んでくださってありがとうございます♪

長台詞のマルソーです。語りだすと熱くなる男、好きなんです(笑
オリビエは音楽で語る子なので、普段は無口。
侯爵様も無愛想。
アンナ夫人はああいう人ですし(笑
ちょっと爽やか好青年を書きたくて。エリーとマルソー。二人は実在の人物です。
詳しい人なら知っているのかな?
有名な人ではないと思います。…多分。

イファレア=イタリア
シャンファーネ=シャンパーニュ
ファリ=パリ
アウスタリア=オーストリア

分かりました?
こっそりと歴史と絡んでいたりします。

さて次回、反抗期(笑)オリビエ君の運命やいかに?
お楽しみに~♪
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松果さん♪

ありがとう~!!うれしいな!そういっていただけると!
マルソーさん、お気に入りキャラです!
いつかまた必ず絡ませようと画策中なのです♪

今回の物語は実は「生きるということ」なんて少しばかり重たいテーマだったりしますが。それをオリビエは迷いながら、少しずつ感じ取っていくことと思いますよ♪

何度も!?嬉しいです~。
がんばりますよー!!
あちらでもまた、よろしくです!!

う~ん深い!

ども。読み専といいつつ番外編書いちゃったんでURL貼り付けとくね。

長台詞のマルソー、いいですね。
エスカルの店の会話なんてため息が出そう。
自由=幸せではない、という彼の言葉は深い。
さて、この騎士たちとの出会いが感受性の豊かなオリビエにどう影響を与えるのか。

更新される度にさーっと最新話まで読んで、それからじっくり1話ずつ読んでますよ。うふふ、贅沢な気分だぁ~。

kazuさん!

ええ、殴ってやってくださいな(笑

嬉しいです~すっかりのんびりペースのらんららにお付き合いくださって♪

んふ、マルソーさん、らんららも気に入りまして♪こういうタイプ、基本的に好きです~。
頼れるお兄さん♪
ちょっと単純で可愛いところもあって、時々暑苦しい。

いろいろと登場させますからね♪

お好みの方を選んでください♪(←?

ふはぁぁぁ

つ・・・続きを・・・
続きを下さい・・・らんららさん・・・

魅力的な男性が出てきましたね♪
マルソーさん^^

男爵もすてきだし、マルソーさんもいい♪
惚れやすい、かずです。

アネリアさん、追い出されてしまっていたんですね。
オリビエくんにとってはとても辛い現実。
奥様、私が殴ってもよろしいですか?(笑

歴史がいろいろ絡んでいて、すっごく楽しいです!

次回、楽しみに待ってます☆
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