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「音の向こうの空」第五話 ⑥

第五話:切り取られた空



遠く背後にビクトールの声。
細い路地の暗がりに走りこみ、すえたゴミの匂いに胃が騒いだ。どこか現実味を感じないのはまた上がり始めた熱のせいだろうか。
強引に引っ張るアネリアの手はひどく冷たい。

五階建ての建物の隙間を縫う路地は、地の底を思わせた。日の光の差さない暗闇の世界。湿った空気が重くのしかかり、オリビエは何度もよろける。
いくつか角を曲がったところで、体勢を保てなくなって壁に寄りかかる。それでも少女は早く、早く、と強引に腕を引っ張った。

「アネリア、分かった、から、待って、ちょっと…」
少女の姿がゆがむ。

「待って…」
息を切らせ、オリビエはその場に崩れるように座り込んだ。
「なあに、どこか具合が悪いの?自業自得ね。これで、お金を持っていたらよかったのに」
アネリアの声が遠ざかる。
「さよならを言わなきゃいけないわ」
「え?」
「ほら、オリビエも、言わなきゃ。楽士オリビエに、さよならってね」

ぼんやりと開いた目に、少女の紫の服が映った。路地に膝をついて、何かを持って。
振り上げる。
少女の足元には割れたビン。

「会いたかった、アネリア」
鉄槌とは、こういうことを言うのだろうか。
アネリアは僕の手に怒りを落とそうとしていた。僕の運命を断ち切ろうというのかもしれない。この手がなければ、僕の人生は変わる。僕と音楽は切り離される。

少女の持つ硝子の破片は、下から眺めると透明で美しかった。

その向こう。建物の隙間で細長く切り取られていたけれど、それは確かに空だ。
あの時、アネリアと寝転んで眺めた昼下がりの空とつながっている。


僕は、涙を流していた。

アネリアを下から抱きとめる。
勢いで振り下ろされたそれが背中に突き立った痛みも、関係なかった。
アネリアはあの時以上に痩せていた。それでも、腕の中の少女はアネリアだった。時を経ても、場所が違っても。僕の中の彼女はあの時のまま、愛おしい。


悲鳴が、聞こえた。

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