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「音の向こうの空」第六話 ⑦

第六話:エスファンテの青年衛兵


月の明かり。その淋しい暗がりに、僕だけは一人。遠く聞こえる二人の笑い声と犬の声。
この家にそんなにぎやかな音があふれるなど想像もできなかった。両親が生きていた頃以来だろう。そういう温かさこそがこの家に馴染む。僕一人では静まり返ったこの家。
光を浴びる彼らの背中を一人きり暗がりから羨望を込めて眺めている。
そのうち、扉の隙間から犬だけが戻ってきた。
とぼとぼと歩く短い足。月明かりに床に化け物じみた影を作り、それが面白く思えた。オリビエの顔を見上げていったん止まるが。静かな旋律に何か納得したような神妙な顔をして、ランドンは足元の化け物の上に横たわる。
「あんなふうに、恋ができたらな」
犬は耳だけピクリとオリビエに向けた。
「僕だって、ね、アネリアとはあんなふうに仲が良かったんだ」
聞いているものはいない。
ランドンは時折尻尾を右から左にと動かすが、それがオリビエの言葉に返事をしているわけでないのはリズムで分かる。それでもオリビエは一人続けた。

「初めて、自分から好きになったんだ。その気持ちは、愛情じゃないってビクトールには言われたよ。僕は誰かを幸せにするなんてできないんだと思う。だってね、僕には音楽しかない。音楽を奏でることで生きて行くんだ。それは幸せだし、不幸だ。そんな僕の人生に誰かを巻き込むなんて、だめなんだと思うよ」
くふん、とチェンバロの旋律の間に小さい犬のため息が混じった。
くすとオリビエは笑みをこぼし、月に捧げる想いを奏で続ける。
「ね、誰かが。僕を必要としてくれて、僕がその誰かを幸せにしてあげられるのなら。それは素敵なことだよね」
皆、きっと皆そうなんだと思う。
「不器用だから。僕には音楽しかないんだ」

「そんなことない」
通る声だった。
少女が、胸の前で拳を握り締めて立っていた。
「あ、なんだ、キシュ。もう戻ってきたの」
慌ててオリビエが立ち上がると、キシュは背後の扉を閉めて、オリビエに駆け寄った。
「なんだい?ズレンは?」

抱きつかれ、慌てる。
「いいの。可哀想な人」

オリビエの胸までしかない身長の少女が、まるで母親のような顔をして見上げる。
「音楽はね、ここでなくても、侯爵家じゃなくてもできるのよ。オリビエ、教会に来てみなさいよ。きっと皆喜ぶわ」
「ありがとう。明日は天気が崩れそうだね。湿った月の匂いがする」
キシュの赤毛の額に軽いキスをして、オリビエは少女を放そうとする。
「ね、本気なの。聞いてよ。オリビエ、これからは貴族の時代じゃない。平民とか、貴族とかそういうのじゃなくなる。自由に生きられる世の中になるの。だから、オリビエだって素敵な恋ができるし、きっと誰かを幸せに出来る。それでね、オリビエも幸せになれるよ」
オリビエは笑った。
「ありがとう。僕は幸せ者だからね」
「んー、もうっ!何で真剣に聞いてくれないかな!本当にこのまま、一生犬のままでいるつもりなの!?こんなつまんない生活を続けるつもりなの?」
キシュが両手の拳でオリビエの胸に八つ当たりする。

「つまらないことはないよ。君やズレンがいてくれて、僕は楽しいよ」
「オリビエを見ているとイライラするの!だって、そんな悲しそうに笑って、楽しいって。嘘ばっかりじゃない!本当の気持ち隠してるでしょ?淋しいくせに、自由になりたいくせに。いい加減に私に反論してみなさいよ!犬呼ばわりされてへらへら笑って」
本気で怒っている少女が、なぜか可愛く見えてオリビエは目を細める。
口は悪いけど、いい子なんだな。
「オリビエってば!」
「じゃ、淋しい。淋しいから、慰めてくれるのか?」
逆に抱きしめる。
「!?オリビエ!」
キシュの小さな肩は予想以上にか弱く、突き放そうと突っ張る手も難なく胸に押さえ込めてしまう。
赤い髪が夜露に湿り、しっとりと腕に絡む。
恥らう少女の目に、涙らしきものを見た。

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