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「音の向こうの空」第七話 ②

第七話:疑惑、教会、オルガンの音



夜半から振り出した雨がかつかつと鎧戸を穿つ音が規則正しく耳に響く。
オリビエはそれを聞きながら、冷たい井戸水をグラスに満たす。二つの水音に何か音楽を思いつきかけ溢れた雫が手を濡らす。リビングからの無造作に叩く鍵盤の音に我に返る。
慌てて、滴るそれをかかえてリビングに戻った。
「男爵、楽器には、その…」触れないでもらいたい。
呆れ顔のズレンに肩を押さえられていたロントーニ男爵はオリビエの姿を見るなり極上の笑みを浮かべて立ち上がる。煩そうにズレンの手を振り払って。
「オリビエ、聞かせてくれ」

「男爵、どうぞ、水です。こんなに酔って、ご家族が心配されますよ」
オリビエの差し出す水を受け取ると、こぼしそうになりながらソファーに座り込んだ。いや、倒れこんだ。
「家族、なんていないさ。な、オリビエ、聞かせてくれ。お前の曲だ。何でもいいぞ」
機嫌はいいのだろう、二人の青年相手に男爵は盛んに笑みを見せた。
「お前、なんていうか知らんが、こっちで一緒に聞け」
ため息を吐くズレンを隣に座らせると、男爵は楽器に向かうオリビエにじっと見入る。
「では。ズレン、聞かせてやるって言っていた、レクイエムだ」

家の前に立っていたのはホスタリア・ロントーニ、男爵だった。ズレンに誰だと問われ、男爵は胸を張ってフルネームを応えた。オリビエンヌ・ド・ファンテルに会いに来たと付け加えるのも忘れていない。
追い返すことも出来ず、ズレンが屋敷まで送ろうとしたが動こうとしなかった。
従者も連れず、一人馬でここまで来たのだとロントーニ男爵は笑った。その馬は見当たらなかった。酩酊する主人にあきれて逃げ出したのかもしれない。

そのまま、家の前で寝込まれても困る。
仕方ないからオリビエは家に招きいれたのだ。

酔っ払った男は上機嫌だ。少し迷惑なのだとあてつけの意味もあって、オリビエは自身が「最高に憂鬱な曲」と信じている、処女作のレクイエムを弾き始めた。
男爵が眉をひそめる。
ズレンも本当に憂鬱だ、と小さくつぶやいてオリビエと男爵を見比べていた。
男爵は眉間に深くしわを寄せ、口はへの字。持っていた水を口に運ぶのも忘れているようで、ズレンの心配はそこにうつる。
ぎゅっと握り締めた男爵の手は白く、もしかしてグラスが割れてしまうかもしれないと途中青年はそれをそっと取り上げた。

弾き始めるとオリビエの表情は自然と無になる。

あの教会で行われた葬儀。先ほどの男たちは、オリビエにとって死の知らせを運ぶ使者。黒い装束としわがれた声。少年だったオリビエには、最初に紡がれた言葉が、今も古傷のように胸をうずかせる。
「ご両親が亡くなった」

理解も反応も出来ずにいた少年に、早口で何か説明した。何だったのかすら思い出せない。ただ、最初の一言だけが今も残っている。
それからの記憶は学校で聞かされた歴史の物語のように遠く、実感のないもので、オリビエは強張りさび付いた心臓が痛む気がして、ずっと胸を押さえていた。
その手を開放できたのは楽器の前でだけだった。
それがどんな音だろうと、曲だろうとリズムだろうと。関係なかった。とにかく指が走った。胸の痛みが和らぐ気がした。あれが、オリビエが無心で作曲するようになった最初だ。
それは、自分の記憶には残らない。自分から音に乗せて感情を解き放つものだったのだ。自分の中に納めて置けないそれを吐き出すための曲。それを記憶する理由などなかった。
侯爵に弾いてくれと頼まれるまでは。

「レクイエム、それはご両親にあてたものか」

オリビエがいつのまにかレクイエムだけで終わらずに、弾き続けていた自分に気付いたとき、男爵が声をかけた。

見ると、男爵は涙を流していた。


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