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「音の向こうの空」第七話 ⑤

第七話:疑惑、教会、オルガンの音



翌朝、いつものように出勤してきたシューレンさんがあきれた声を出したのは言うまでもなかった。
オリビエもズレンも結局リビングで寝込んでいて、二人してシューレンさんに「悪戯ボウズ」扱いされた。
「男爵が昨夜訪ねてこられたんだ」

そうオリビエが言ったものの、そのときには男爵の姿はなく夢でも見たんでしょうとシューレン夫人に笑われた。男爵はいつのまにか帰ったようだった。

男爵の行動に憮然としていたズレンも、シューレンさんの朝食を口にする頃には大人しくなっていた。実際彼女の食事は黙らせるほど美味しかった。その朝のオムレツにかかったソース、「これは兎の煮込みに添えると美味いだろう」とズレンが言い出し、オリビエは鳥にかけたら美味しかったと反論した。オリビエは兎肉を好まなかった。

「オリビエのことだからな。どうせ、兎は見てくれがかわいいから食べれないんだろ?」
「ち、違う、味が苦手なんだ」
「あれは内臓が特に美味しいんだぞ、鳴かない動物でもな、絞めるときには鳴くんだそうだ」
兎の断末魔を想像してオリビエの手が止まる。

「止めろよ、食事中に。生き物の死を楽しむような言動は良くない」
「ほらやっぱり、可哀想なんだろ?優しいお坊ちゃまだよ」
「ジー!」

祖父が司祭であったこともあり、オリビエは教会の教えを幼い頃から躾けられていた。

「ダンヤさん、って言いましたね。もし、お一人でお住まいなら、こちらでオリビエ様と一緒に住まわれてはどうでしょう?」
二人を眺めていたシューレン夫人が唐突にそんな提案をした。

オリビエもズレンも顔を見合わせたが、お互い侯爵の許可が必要だと思い至ったらしく黙りこんだ。

「お二人を見て、にぎやかでいいと思ったものですから。お気になさらずに」と夫人が話しを終わりにしたので、先ほどまでの兎と鶏のどちらが美味しいかの議論を再会した。
兎を食べるのはやはり納得がいかないままだったが、オリビエはシューレン夫人の思いつきが胸に残っていた。

ただ、自分から侯爵に提案するのは気が進まなかった。



それが実現することになったのは翌朝のことだった。

何がどう決められたのか分からなかったが、朝の迎えと同時にズレンの荷物が運び込まれたことでその事実を知った。

「侯爵様には許可をいただいたんだ」
そう笑うズレンに、シューレン夫人も乗り気で、夕刻二人が帰宅するまでにズレンの部屋をしつらえることを約束した。


オリビエの寝室の隣の空き部屋にしっかり柔らかいベッドが用意されている。殺風景だったそこは多少の衣服と本が入り、ランプが灯れば寝室と変わって住人を迎えた。上等な絹のカバーをかけたズレンのベッドに横になりながらオリビエは天井を眺めた。
「随分、早いね」
「丁度、ファリからの伝令が来ていたから。なんだよ、俺がいるのは嫌か?」

そういうわけではなかったが、嫌に早い決断と行動に不思議な気がしたのだ。
それとも、ズレンをそばに付けておかなければいけないほど治安が悪化しているというのだろうか。オリビエの侯爵家までの道のりは市街を通らない。寄り道もしないので最近のこのエスファンテの様子はまったく分からなかった。

子どもの頃に通った学校のある界隈、町の中心部で市役所や裁判所のあるあの辺り。そういえば、ファリに同行したルグラン市長ともあれ以来会っていない。

「いや、ただ。なんていうか、不思議だ。誰かとずっと一緒にいるって感覚が。慣れてなくて」
「孤独を愛する楽士どのには、申し訳ないけどね」
「……僕だけじゃなくて、アンナ夫人の身辺警護もしているんだろ?」
「もちろん。侯爵家の方々には常に従者がつき従うからね。アンナ夫人だって一人で出かけたりはしない。孤独を愛するのはお前くらいさ」
「愛するわけじゃないさ」

アンナ夫人の行動を想像する。オリビエの正体を暴くだのと息巻いていたけれど、その探偵ごっこはどこまで進んでいるのか。当分彼女を夢中にさせておいてくれれば煩くなくていいのかもしれない。

「なぁ、ズレン。キシュ、あの日から来ないね」
実のところ、それが一番気になっていた。

あの酒場の近くで別れたきり。あの時、オリビエにとって思い出したくない人々との再会で少女のご機嫌を気にする余裕などなかった。様子からすれば、あの酒場がキシュの家なのだ。そこに、彼らも入り浸っている。

「ジーでいいって言ったろ」
「ジーは。キシュのこと、本当になんとも思っていないのか?ズレンがそうでもあの子は違うんじゃないか?」

寝転んだ頭上に手を伸ばせば、手に当たる絹がひやりと心地よい。
かすかに胸の奥にあるものを冷やしてくれるようでオリビエは背にした布団をなでる。

「それを聞いてどうするんだ」
「!……どうって」
「お前はどう思っているって聞いている」
寝転ぶ隣にズレンが座った。肩越しに見えるズレンの視線はどこか遠い。

「あ、ええと。面白い子だと思うよ。野良猫みたいだ。奔放で、自由で、生意気。僕とは正反対だな。でも、芯は優しいよね。悪戯っぽく挑発したりするけど、乗ってやらないんだ。近寄ったら引っかかれそうだしね」
「ふん。愛しているとか言われたらどうしようかと思った」
「え?まさか、それはないよ」

あれ以来、誰かを愛する資格が自分にあるのかどうか疑問が残る。僕には音楽があり、そのためにアネリアを不幸にした。キシュにも近づきすぎれば、同じことを繰り返すだろう。
それに、彼女は目の前の精悍な衛兵に恋をしている。多分。

「じゃあ、別にいいな。キシュには二度とここに来るなと言ってある」
「え?」


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