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「音の向こうの空」第七話 ⑥

第七話:疑惑、教会、オルガンの音



オリビエは慌てて起き上がった。
目の前に立つ青年衛兵は腰につけた銃をそっとテーブルに置いたところだった。
「なんだ?今、なんて?」
キシュになにを?

「オリビエ、シューレン夫人と話をした結果だ。俺も反対だから。お前がキシュと親しくするのは。少なくとも、今のこの時期は良くない」
横顔は真剣だ。
「どういう、ことだよ。シューレン夫人の言っている噂とか、それ、本気にしているわけじゃないんだろ?キシュの家が革命家たちの集会場になっているとか、そんな」

「シューレン夫人から聞いたわけじゃないさ。俺は、仕事上事実として知っていたんだ。だから、先日もお前を護衛して行っただろう?」

会えなく、なるのか?

キシュとは確かに生活は違う。けれど、少女の歌声や自由な感覚がオリビエには眩しかった。見たことのない景色を思わせてくれるような、空色の瞳。悪戯っぽく胸元を強調してみせる。向きになったり、オリビエを犬呼ばわりして自由な自分をひけらかしたりする、そんな子どもっぽいところも。
すべて、楽しかった。

幼い頃、母に黙ってベッドにお菓子を持ち込んで、布団にもぐりこんで食べたときのような。お父さんが大事にしている楽譜をそっと盗み読むときのような。それを弾いてみたくて、布団の中で指をたたき覚えたあの時。
秘密で覚えたそれを父親の前で弾いて見せたときの、驚いた顔。呆れながら、それでもえらいぞと褒めてくれた父さん。

そんな、しばらく忘れていたものを思い出させてくれた。
紅色のコートが、よく似合う。艶やかな頬。

「お前には悪いけど、ま、我慢してくれ」
「……キシュには、歌って欲しいんだ。わかるだろ?困るよ」
「お前の気持ちも分かる、魅力的な娘に育った」
「そういうのじゃない。別に、そういわけじゃないけど!」
「侯爵様に知られたら、まずいだろう?」
「!」
「アネリアの件が、やっと収まったところじゃないか」
ズレンは穏やかに笑っていた。
アネリアのあの事件も、何もかも知っているのだろう。

侯爵様に知られれば、当然キシュとは引き離される。だから、キシュとは友達でいたいのだ。それ以上は望めない。

「キシュは、ただの友達だ」
「だろ?だったらいいじゃないか」
「だけど!!」
「オリビエ!」
部屋を飛び出しかけたオリビエを、しっかり捕まえてズレンは再び部屋の奥へと引っ張っていく。
抵抗してもみ合ったものの、現役の衛兵には叶わない。

「落ち着けよ。いいか、お前には何も知らせずにいろと、侯爵様から命じられている。それほどあの人はお前のことを心配しているんだ。それでもこの間街の情勢は話しただろう?キシュの家のことも、話さなきゃお前が納得しないと思ったからだ。これはすべてお前のことを思ってしていることだ。俺たちのことを信じろ!お前のためなんだ」
睨みつけオリビエは腕を振り払った。

再びベッドに座らされた目の前に立つズレンに、立ち上がろうとしてもすぐに肩を押され座り込む。数回、そんな応酬の後、オリビエはズレンの胸倉をつかんだ。

「結局は侯爵の命令が一番なんだな。一緒に夕食を食べて音楽を奏でた、あれのどこが悪いんだ?!それとも、ズレンもシューレンさんと同じことを言うのか?侯爵に雇われているから侯爵は絶対で、だから、僕が何をどう感じようと関係ないって言うのか?毎晩楽しかったあれも、全部侯爵の命令だからなのか?」
友達では、ないのか?

数瞬、間があった。

ズレンだって楽しかったはずだ。三人で囲む食卓はにぎやかで、いつも誰か笑っていた。
あれを曖昧な理由で止めなければならないのは納得が出来ない。
友達と語らう、音楽を楽しむ。それのどこが悪いと言うのか。
ただ侯爵への使命感だけなら、そんなもの捨てて欲しい。

「当然だろう」
荒く突き飛ばされた。
ベッドに座り込み、オリビエはズレンを睨みつける。

「俺は金で雇われて侯爵に仕えている。そのためにお前のそばにいるし、キシュとお前を二人きりにさせないために毎晩夕食に付き合ったまでだ。オリビエ坊ちゃまはなんだと思ったんだ?」

若い衛兵は鋭い視線を崩さずにオリビエの前に立ちふさがるように仁王立ちしている。真っ直ぐな視線。オリビエは睨みきれずに数回瞬きをした。

「この時代に。忠誠だの、友情だの。おかしくてね。俺の両親は貧しい中、ロントーニ男爵の工場で働き、体を壊して死んだ。親のいない俺が学校でどれほど苦労してきたか。卒業しても結局は家柄で待遇が違うんだ。でなきゃ、こんな田舎の衛兵などで甘んじていないさ。

生きていくために皆、必死に働き、意に沿わないことも苦い思いも飲み込んでいる。同じような境遇のくせに、少しばかり音楽の才能があるからと何の不自由もなく生活するお前に何が分かる。

こんな綺麗な世界で、温室の薔薇のように育てられ、自由がないとぼやくバカにどんな友情を感じろというのだ?

金のためにここにいる。当然だろう!それでもよくシューレン夫人は我慢して世話していると思うよ。

なあ、オリビエ様。もともとここに滞在する件は、キシュの存在を知った日からファリに手紙を送ってあった。侯爵の許可が下りたのが昨日。貴方は何も知らず、ただ勤めである音楽を奏でていればいい」

優しく親切にしてくれる人ほど、信用できないのだと。
ズレンは忠告した。

オリビエは唇をかむ。

「貴方の幼い恋愛になど、興味はありません。私は任務を遂行するだけです」
出会った当初と同じ。固い口調のズレンは表情のない顔で言い放つとオリビエの手を引いて起き上がらせた。
「さ、夕食にしましょう」

その夜。リビングにはいつまでも切なげなチェンバロの音が響いていた。


次へ♪
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松果さん♪

ズレン、うふふ。一押しキャラですから~。
そう簡単に本音を話す人じゃないですよ~素直なオリビエ君と正反対ですから♪

お楽しみに♪

本音じゃないよね……

うあーズレン。
せっかくオリビエといい友人になるかと思ってたのにその冷たい言葉は…
でも、本音じゃないよね。と、思いたい。
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