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片翼のブランカ 12

<<カータは、ココの大切なガラス球が、たくさん入った器を見つめて、いたずらっぽく微笑んだ。
「本当に、よく出来てる。私だって、ね、そういう使い方ならできるんだから」
力の弱い下層民では、クリスタルを変異させることが出来ない。
出来なければ、それはただのガラス球と同じ。カータはココのガラス球のうち、いくつかを手に取った。
ココちゃんの冒険ファンタジー第13話です!>>




中層へは、カータのフウガに乗せてもらった。
最初はちょっと、怖かった。だって、フウガは大きな牙がある。足にも、爪を隠しているんだって、カータが笑った。
どきどきした。何に、使うのかな。それ。
でも、ラタと違って、背が低いし、降りるときにうまく体を下げてくれるので、ココは一人でも下りることができた。
それは、嬉しい。
ココは、薄いけどちょっと重い、白い毛皮のコートをまとって、翼をその背中の切り目から出している。そこにカータは派手なピンクのリボンをつけた。
それはまるで、コートにつけられているかのように、一体化して見えた。
「ほら、かわいいじゃない!平気よ、ちゃんとコートの飾りに見えるもの。ほんとに、シェインはセンスないんだから。」
そう言って、ココの髪と鬣をきれいに編みこんでくれた。
「かわいい!」
ココも、その髪は気に入った。
コートは少し暑くて、いやだったけど。
そういうと、カータが怖い目で睨んだので、あきらめた。
「ねえねえ、ここどこ?人いっぱい。」
無邪気に手をつないで問いかけるブランカに、カータは話す。

リアノスは、エノーリアの首都といっていい存在なのよ。
街は神殿を中心に、円形をして広がり、その東西南北に広い通りが走っている。
それぞれに、区分けされ、東南には神官や聖職者が。南西には商人が。西北には労働者。北東には技術者や学者が。それぞれに好みの形の街を作っているの。
中心の神殿、フロマルクス(すべての中心という意味だとか)には、一番えらい神官がいるの。リアータ神王と呼ばれるその人が、すべての神殿と神官を治めている。
白席の神官よ。でも今は、ご高齢のためにほとんど姿を見せないのよ。
その次に偉いのが、紫席。ほら、ココがであった、ルーノ神官がそうなの。
続いて朱席、青席、黄席。そこまでは、一人しかなれないの。で、その下に緑席。緑席になれる神官は地方の数だけいる。
そこまで話して、カータはココがぜんぜん話を聞いていないことに気付く。
きょろきょろと、周りの人や景色、町並みに目を奪われている。
「ココ。」
「なあに?」
「今、私が何を説明したか、言ってごらん。」
ココは目を丸くした。
「えと、・・パン屋さん!」
「・・ココ。」
大きくため息をついて、睨むカータから、ちょっと離れたくなったのか、ココはつないだ手を離す。
「ココ、だめよ!」
ぎゅっと手をつかまれて、ココは、ちょっと悲しくなった。
ずっとずっと、手をつないでいる。
シェインのときはそんなことしなかった。ココ、好きなとこにてくてく歩けた。
口を尖らせてすねるブランカより、カータは目的の店に急ぐことに集中していた。
本来、中層は、下層民が来てはいけない場所だ。子供の頃に才能を見出されて、神官学校などに入る場合を除いて、下層の守人が、中層に入ることは、許されない。
神兵に、見つかったら危険だ。神兵は、下層民を見分ける力がある。
早足で、歩くカータ。目立つので、フウガは森においてきている。
「カータ、ココ疲れたの、休む。」
ココが歩くのを止めた。
「ココ」
ずるずると引きずられつつ、ココはすねたままだ。
「もう、連れてくるんじゃなかった。仕方ないわね」
ぐいと引っ張って、抱き上げると、カータはココの顔に、目を近づけて、めっと睨んだ。
「・・ぷ」
ココが、面白がって笑う。
「何よ」
「面白い、顔」
くすくす。
「あー、もう、私子供なんて要らないわ!」
ココが首をかしげる。
「いらない?ってなに?」
「必要ないってこと。そばにいなくてもいいこと。一緒にいるのがいやって事」
質問ばかりするココに、集中できないでいたカータは、早口にそれだけ言って、口を閉じると、歩く足を速めた。
「ココの、こと?」
「そうよ」
きゅんとして、ココは黙った。
ココは、そっと、カータの顔を見上げて、それから柔らかいおっぱいに頬を預けた。
カータはどんどん歩いていた。
振動が、鼓動が、どくどくと聞こえる。
ココは不思議な気分になっていた。
悲しいような、寂しいような。でも、それを話してはいけない気がした。
あの時も、そう、怒られた。
シェインがまあるい蜜を取りに行ってくれたときも、待ってるって約束したけど、一人ぼっちで。怖くなって、寂しくて、二人を探した。
だって、波と風の音がごうごうなってたの。
約束破って、怒られた。うそを言ってはだめと、怒られた。うその意味は、よく分からなかったけど、きっとカータは嫌だったんだ。寂しいときは、黙って、じっと、しているのがいいのかな。
もう一度、カータの顔を見上げた。その視線は、遠く前を見ている。
「カータ、笑って」
その声は、雑踏にまぎれて届かなかった。

「ここよ」
カータは技術者や学者のいる町の、奥まった狭い路地の先の店に入っていった。
学者や技術者は、下層にある珍しい植物や石、クリスタルなどを、安く手に入れようとこういう店を利用する。店には、下層民がひそかにそれらを売りつける。
いかにも、胡散臭い、すすけた感じの店だ。
埃の積もった重い木の扉を押し開いて、カータが入っていく。
入るとすぐに、古びた木の棚が並んでいて、ガラスで覆われたその下に、不思議な形の木の実とか、ぎらぎら光る石の塊とか、変なものが入っていた。
カウンターのそばまで来る。
「こんにちは」
カータが店の人だろう、でっぷりとした、小柄な守人に声をかけた。
「いらっしゃい」
「あの、これを買ってほしくて」
カータは肩にかけていた、皮の袋から、とげネズミの毛皮を引っ張り出した。
それは、ココが怖がって驚いたのを、シェインがすぐに捕まえたのだ。
とげに毒があるって言っていた。
「おや、珍しいね。とげネズミか」
「ええ。苦労したんだから、五十はくだらないって、言われたんだけど」
カータは笑って、皮の袋をしまおうとする。始めから金額を提示するのは、物慣れていない証拠。店主は最低七十はする、とげネズミの皮を、たたいて三十にすることを決めた。
その時、店主は女の持つ皮の袋にちらりと光る、丸いものを見逃さなかった。
「他にもなんか持ってきたのかい?」
「いいえ。今日はそれだけ。頼まれたの」
ニコニコ笑う、少し頭の弱そうな下層民の女。
そういう印象を、カータは与えた。
ココは、それを黙って、見つめていた。
「そうだねえ、こいつはほら、ここのとこが痛んでるだろ。あと、尻尾が変色している。古いね」
そんなはずはなかった。
「そうかしら」
首をかしげてカータが笑っていた。
ココは精一杯背伸びして、カウンターの上に顔を出している。
ココは、なんだか苦しい気がして、でも、だまっていようと、我慢した。
「そうだねえ、よくて三十ってとこかな。他にもなんかあったらあわせて、そうだな。五十にしてやってもいい」
「他にもって」
カータが首をかしげる。
「いくつかあるんじゃないかね?」
「えーと。これ、でも、売っていいのかな」
カータは、皮の袋を覗き込んで、中からガラス球を二つ、持ち上げかけて、またしまった。
「ほら、それだよ。見たところ、たいしたもんじゃないけどね」
「でも、勝手に売ったら、怒られるわ。ネズミが五十だって言われてるのに、これも売ってしまって、それでも五十じゃ、あたし怒られちゃう」
ニコニコしたまま、カータは言った。
「ふん。それもそうだね。じゃあ、七十でどうだ」
「・・だって、こっちのが高いんだって、だから、あたしが売っちゃいけないんだって言われたのよ」
「うーん。どれ、見せてごらん」
店主がぶよぶよした手を差し出した。
カータは、皮の袋を一旦後ろに隠した。
「・・あたしが馬鹿だからって、とっちゃうつもりでしょ」
「見るだけだよ」
「じゃあ、手、引っ込めて」
店の主人は、大げさにため息をついて見せた。
「じゃあ、ほら。手は出さない」
「うん。これと、これ」
カータは、袋から取り出したガラス球を、手の平に乗せて、店主の見えるところに差し出した。
「ほお」
「え、なあに。やっぱり高いのだったでしょ?高級なガラス球だって、聞いたもの」
「え、いや、まあ」
「クリスタルに似てるけど、私たちじゃ、本物か分からないし。だって、ほら、クリスタルって、神官様とか、偉い人が使うんでしょ?」
「ああ、そうだね。偉い人が、言葉を力に変えるためにつかうんだ」
「これ、本物?」
カータが問う。
店主は計算する。
かなり、クリスタルに近い。もしかしたら偽物かもしれないが、本物なら、炎のクリスタルと光のクリスタル。どちらも千はくだらない。たとえ、偽者だったとしても、ネズミと合わせて、百で手に入れれば、まあ、損はないだろう。
偽物でも、いい出来なら五百で売れる。
「どうかねえ。ほら、ちょっと貸してごらん」
「ココの」
誰かが小さく言った。
「なんだい?」
カウンターに顔を出していた小さな子供が、口を尖らせて、言った。
「ココのだもん」
カータは慌てた。
「だめよ。これは」
「嫌だ。ココが、もらったのに」
「・・でも、おじさん、欲しいんだな。だめかい?」
店主が、ココの相手をしだした。
まったく、もう。カータはちらりとココをにらんだ。
「じゃあ、お嬢ちゃん、この店の中で好きなもの、二個あげるよ。それと引き換えでどうかな」
店主はニコニコと笑顔を作って見せた。
「それは、困るわ」
「いいじゃないですか。じゃあ、ネズミは、言い値より高く、そうだね、七十で引き取りましょう。そのクリ、いやガラス球はお嬢ちゃんのだってことだし、お嬢ちゃんに決めてもらいますよ。どうです?」
「だめよ、ネズミ、じゃあ、百で。そしたら、この子に交換のもの好きに決めさせるわ」
「ふん。まあ、いいでしょう」
店主はぷよとしたあごに手を当てる。
その意地悪そうな目を細めて、店の中のものを珍しそうに見るココを見つめていた。

「ココ、決めたの?」
ココは、迷った。
変なものばかりで、面白そうなものばかりで、どれにしたらいいのか分からない。
そのうち、ココが交換する丸いガラス球と似ている、でもちょっとひびの入った石の玉を見つけた。
ガラス球の仲間になりそうだ。
白い、透明じゃない石だけど、形とか大きさが似てる。
もう一つ、青いのもある。両方あると、なんだか嬉しい。
きっと、ガラス球と一緒の仲間だ。
ココはそう思った。
背後では、カウンターでカータがネズミの代金を受け取っていた。
ココは、そっと、その石を持ってみた。
じわりと冷たくて、でも、一瞬、ちかりと何かが光った気がした。
どきどきする。
これにした。
「ココね、これとこれにする!」
店主は、笑った。
「それでいいのかい?ほら、白いほうはひびが入っているだろう?」
「でもいいの、これとこれ、両方あるのがいいの。白いのと、青いの」
「ココ、もっと高そうなものにしなさいよ」
カータが睨んだけど、ココは言い張る。
「だって、これがいいんだもん!」
店主の様子を見て、カータは安物をつかまされていると、思った。
満足げな店主に別れを告げ、これまた満足げに嬉しそうなココを抱きかかえて、カータは店を出た。
しばらく歩いて、立ち止まると、ココの手から、石を二つ、とった。
「カータ?」
「ちょっとみせて。なあに、石じゃない。色はきれいだけど…」
「いいの。きれいだもん。ぴかぴかひかるもん」
ココはカータの手から、それを取り返す。
「そうですか。よかったわねえ」
意地悪な言い方に、ココは顔をしかめた。
「何よ」
睨み返すカータ。
「だいたいね、ココ。あたしに任せておけば、あなたのお洋服だって、私のだって、買えたのよ!チーズだって、果物だって。たくさん買えたのに」
いつの間にか泣いているブランカに気付いて、カータはちくりと罪悪感を感じた。
「子供相手じゃ、仕方ないわね」
カータは、とりあえず、ネズミが百になっただけでもよしとしようと、自分を慰めて、いつも行く服屋に向かった。
「ほら、おいで。ココ」
泣きじゃくったまま、首を横に振るブランカに、カータは苛立つ。
「好きにしなさい。ついて来ないとどうなっても知らないから!」
ずんずん歩いて、しばらく歩いて、ちらりと振り返った。
ココは、さっきの場所に、座り込んで泣いていた。
「まったく、もう」
仕方なく引き返そうとしたときだった。
どんと、通りかかった背の高い守人にぶつかった。
「あ、ごめんな…」
気付いた。
神兵だった。黒い衣装。短い白い髪の後ろの一束だけを伸ばして、結っている。額には黒い刺青。腰に剣。
「お前、下層民だな」
迫力ある声に、慌てて逃げ出した。
『待て!』
強い言葉。
人ごみをかき分けながら、カータはシェインが教えてくれた、耳をふさぎながら逃げろ、それを実践していた。
絶対に、逃げ切れるからな。そう笑う、シェインの顔を思い出す。
とにかく走って、走った。
街の外れまで、あと少しでフウガのいる森というところまで、逃げた。
木の陰に回りこみ、そこで座り込んだ。
息が、苦しい。
夢中で走った。
体が震える。
恐ろしかった。
でも、シェインの言ったとおり、言葉につかまることなく、逃げ切れた。
はあ、大きくため息をついて、不意に思い出した。
「ココ!」
そっと、街のほうを眺める。
まだ、足が震えている。
ココを、探しに行く勇気はなかった。
座り込んだ。
「どうしよう。…でも、でも」
ココは、偶然、拾っただけだ。
たまたま、シェインが、拾った。
可愛かったけど、でも、ブランカだ。手に負えない。
もともと、ブランカは守人が教える学校にいる。
そこにいるのが一番いいのだ。
・・ココは、逃げてきたといった。
会いたい人も、行きたいところもなくなったから、逃げたと。
泣いて、いるかな。

どうしよう。

ざわ、と町のほうから大きな音がした。
悲鳴のような、怒号のような。
見ていると、何か白いものが宙に舞った。
見る見るうちに大きくなってくる。近づいていた。

「フウガ!」
その口に、白い小さい子供、ココをくわえていた。
命じていないのに、フウガが、助けに行くなんて!
ざ、っと目の前に降り立ったフウガは、くわえていたココを放すと、甘えるように、褒めてほしいと擦り寄った。
「あ、ありがと、フウガ。でも、どうして?」
ぐるぐると、喉を鳴らして、フウガは嬉しそうだ。
ココを抱き起こす。泣き疲れて眠っているのだろうか。
二つの石をしっかり握り締めたまま、自分の翼を抱きしめている。
この、仕草が可愛いのだ。
クス、と笑いながら、カータは涙を拭いた。
「久しぶりに、泣いたわね」
息を一つついて、ココを抱き上げ、フウガにまたがった。
「帰りましょう」

「その、ブランカは、置いて行ってもらいたい」
穏やかな口調だった。
びくりと振り向くと、薄暗い森から、背の高い、黒い衣装の、短い黒髪の守人が現れた。傍らに、黒い風牙が寄り添う。
男の額には、優雅な曲線を描く刺青と、緑の石。
緑席の神官だ。
「…いやよ」
飛び立とうとするフウガが、不意に力が抜けたように座り込んだ。
神官が、何か小声で「言葉」を発したようだ。
「フウガ!」
カータの声に、ココが目覚める。
「カータ?」
カータが、抱きしめる腕は、苦しいほど力が入っている。
「久しぶりだね、ココ」
ココは、ゆっくり歩いて近づく守人を見つめた。
「あ、ラクをてんせいさせた、守人!」
「覚えているとはねぇ。転生なんて言葉も教えてもらったのか」
にっこりと、穏やかに笑う。
カータは先ほどから、ぞくぞくとしてとまらない震えに、声を出せずにいた。
神官の、一言一言が、びりびりと痛みを感じるほど、恐ろしい。
「あっち行って!ココ、大人にならないの!」
ココが、石を一個ずつ握り締めたまま、怒った。
「おや、珍しいものを。ココ、おいで」
「いや!」
黒い服、黒い髪の神官がどんどん近寄ってくるのに、カータは何も言わない、何もしない。
フウガも、座り込んだまま、動かない。
どきどきする。
「ねえ、行こうよ!カータ」
背後から抱きしめたままのカータを、振り返る。
「ごめ、ん。私の、力じゃ、逃げられない」
カータの手が震えていることに気付いて、ココは神官をにらみつけた。
「カータを、えと、えと」この憤りを、どう表現していいのか分からない。ココはどきどきが大きくなって、目をぱちぱちした。
「くす」
笑って、男はココの目の前に立っていた。
手を伸ばす。
「痛い!」
ココはぎゅっと目をつぶった。
神官の動きが止まった。
「変なことを覚えたものだ。私は何も、していないだろう?」
あきれた顔で、うっすら笑いながら、神官は、ココの肩に触れる。
「いや!」
ココはカータに抱きしめられたままで動けずに、ただ自由になる両手に持った、白い石の球を投げつけた。
それは、神官の肩に当たって、ふわりと音もなく砕けた。
ぼんやりと、霧のようなものに変わって、広がった。
なくなっちゃった。
「ココ」
神官は、表情を変えた。
怒ったようだ。その手が、伸びる。
「いや!」
一瞬迷って、青い方を見つめる。
なくなっちゃう?
ココは神官の怖い顔と、石とを見比べる。神官の手が、ココの肩に乗る。
「ココ、ごめんね」
小さく、カータの声を背中に感じた。
ココはぎゅっと目をつぶって、思い切り青いそれを投げつけた。
それは、神官の白い頬に当たるとくにゃりと壊れて、中から大量の水があふれた。
「・・なに?」
ココはそれに驚いた。
神官はびしょぬれになっていた。
「海竜の卵だ。先のは死んでいた。今のは、生きていた。ばかものが!」
その怒号に、カータが耳をふさいだ。
「きゃあ、怖い!」ココも耳をふさぐ。
「ブランカが、命を粗末にするとは!」
荒っぽく肩をつかまれて、ココは叫んだ。
「痛いよ!」
慌てて、神官は、ココを放した。
その様子を、耳をふさいで見つめたカータは、思い出した。
シェインの言葉を。
耳をふさいで逃げろ、大丈夫。どんなときでも、逃げ切れるさ。
そう、笑って言った。
「フウガ、逃げるのよ!」
カータの鋭い声に、フウガは一つ身震いして立ち上がった。
神官は飛びのく。
「ココ、落ちないでね!」
カータは耳をふさいだまま叫ぶ。
飛び立つ風牙。
『待て!』
神官の声に、一瞬、びくりとする。
「フウガ、がんばれ!」
ココがフウガの頭をなでる。
その無邪気な様子に、カータは言い聞かせる。
大丈夫、逃げられる。大丈夫。
「ココ!」
はるか下から、神官の声が追いかけてくる。
「いやだもーん!」
ココが笑って、手を振っている。
ああ、この子は、本当に平気なんだ。言葉に、縛られない。
フウガは、高く舞い上がると、生命の木に向かう。
その、壁のような幹を左に見て、飛び続ける。
中層の森の風景は流れるように変わり、暗い穴の中に入っていくような、少し目の回る感覚の後に、不意に空にでる。
そこはすでに、下層なのだ。
この不思議な木の仕組みは誰も知らない。
傍らには、変らずに生命の木の幹。黒々と暖かく、壁のように続いている。
見上げても、中層が見えるわけではない。
遠く遠く、どこまでも生命の木の幹が、ただ伸びている。

頼りなく飛ぶフウガと、疲れた様子のカータに、ココは首をかしげる。
「帰ろう。かえろ、ね。美味しいごはん」
カータは、ため息をついた。
「お腹、すいたのね」
「うん。パン食べるパン!」
「そうね、パン屋さん、寄れなかったね」
「ぱん、ぱん、ぱーん!」
ニコニコと笑うブランカに、カータはひどくだるい腕を回した。
ぎゅっと抱きしめる。
「ごめんね、ココ。私、ぜんぜん、だめね」
「だめ?」
「そう。だめなのよ。私は。何の力もない。ココに、守られるなんて。だめね」
「まもる?えらい?」
「ええ、ココえらかったわ」
ココは嬉しくなった。褒められた。
「ココ、まもる。守るの」
「私は、いつも、守られてばかり。・・シェインにも、いつも」
「・・?」
「シェインはね、強いのよ。とても、こんなところに居る人じゃなかった。本当なら、ルーノなんかじゃなくて、あの人が、神殿の高い席に座っていて。皆から敬われる、そうなるはずだったのに」
「シェインも神官?」首をかしげる。
「昔はね、そうだったの。私の、私なんかのために、辞めちゃったの」
そこで、カータが涙を拭いたことに、ココは気付いた。
「かなしいの?」
「悔しいの」
「くやしい・・?」
「私はただの下層民なのよ。なのに、大切にされちゃって、守られて。何も、シェインのためにしてあげられないのが、悔しいのよ」
「じゃあ、ココが守る」
「…意味、分かってる?」
「んと。カータのごはん、美味しいから。美味しいとうれしいから、カータは大切。シェインは強いし、かっこいいし、おとこまえだから、えと」
「なにを言ってるの?」
「・・ふふ。わかんない」
照れたように笑うココを、カータは抱きしめる。
下層の湿った風が、ココの銀の髪をフワフワと躍らせていた。
「大切、大切」
ココは、なんだかその言葉が気に入った。
その言葉は、口にすると優しい気分になる。

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 「片翼のブランカ」続きはこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-75.html


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theme : オリジナルファンタジー小説
genre : 小説・文学

ひろさん

ありがとうございます!
そうですね、サイトは見やすくできないかと思いつつ、なかなか、手入れできない状態。
あれ、字は小さいし、背景黒いし。らんらら能力ないので…。
ココちゃんの話もサイトにって思っていたのだけど、白が基調のテンプレをどこかで仕入れなきゃいけないと思っています。
それにしても、そんな、褒めていただいて、どきどきです。
今見ると、何が嫌って、一回が長いですね(^^)
みんな、よく、こんなの読んでくれてたなぁー!
これ、毎日連載していて、ほんと、読むの大変だったろうなぁ。反省してます。
また、コメントいただけると嬉しいなあ!

今日はここまでです。^^)
何か読みながら思っていたのですが、
特にPCで読む場合、らんららさんのこの簡潔明瞭無駄のないスリムな描写ってすごく読みやすいです。必要なものは全て書かれているからスムーズに想像できますし。
それに、シンカ君のお話よりも文章が進化(洒落じゃないです。汗)していますね。
(ごめんねあの話は、まだ途中で、こっちに乗り換えてしまいました。背景が黒なので、少し目が疲れるのです…)
最近書いている自分の話が、何だか贅肉だらけに思えてきました。

とにかく、ココが可愛い。
なぜかこのココ。なんとなくらんららさん自身に思えます。ココちゃんこれからどうなるのかなぁ。楽しみにしつつ、またお邪魔します。

eigoさん

こちらにもコメ、ありがとうございます!
意外性は保証します!!
この後第3章からかなり、変な展開を予定。
友人からは突拍子もない話、といわれています。
らんらら、頭の中たまに異世界なんですね。
自分でも制御しきれていない((おい;

団長さん

ありがとうございます!
いやぁ、公開するまでドキドキで(^^;)
あとがきつけたのは、あのままじゃ祐木ちゃん、
変な女で終わっちゃいそうだったから。
みんな、それぞれに考えているってのを、
表現したくて。
うまく伝わったようで、嬉しいです!

こんばんわ!!
今日はココちゃんのお話もアップされてたんですね。手乗り文鳥のように舞い戻ってきました。
うーむ、この先どう展開していくのだろう?
でも、らんららさんの想像力にはしゃっぽを脱ぐ感じです。ほんと、想像的なお話ですよね。
うーむ、すごい。こういう話、僕はほんと好きです。
次回はどうなっていくのか、楽しみにしつつ、これで今日は退散します!!

今日は二つ更新ですね☆
まず企画小説の方!今までと違った作品でしたが
面白かったです^^
現代風なの書いてもらんららさん上手です♪
ココちゃんの方はこれから今度どんな冒険かなぁ?
今回ココは頼もしい所もありましたね☆
これからもココがどんな事するか
見守っていきますよ(>∀<)
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らんらら

Author:らんらら
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