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「音の向こうの空」第八話 ②

第八話:葦のように真っ直ぐ



吐き気がした。
意味が、飲み込めない。

母さんが、男爵と?いや、教会の下男、あの時オリビエが納戸から聞いた、母を呼ぶ来訪者は男爵だったのか。

「!それで、あの時男爵を見たのかと?」

酔っ払いがたわ言で問いかけた。
あれは、あの夜のことを感づいているのか鎌をかけたというのか。

「お前は、まだ幼かった。やはり気付いてはいなかった。だが、もう大人だ。知るべきだと思っていてね。母親と私のことも、受け入れられる年齢だと判断した」
「ま、待ってください。その」
ふと。頭をなでられ、オリビエは男爵の顔を見上げた。
思わず大きな声になりかけたことに気付く。

すでに夜更け。人通りのない町に灯る明かりも少ない。オリビエの家に近づくにつれ、周囲の民家はまばら。麦の畑と真っ直ぐ伸びる糸杉が月明かりに黒い影を落とす。
「当時、疑うものがいなかったわけじゃない。雨の後とはいえ、それほどの斜面でもなく、堤防は高々二メートルだ。しかも司祭会に向かう途中とされたが、通常司祭会に妻を伴うことはない。あらゆる面で不自然だったが、一番不自然だったのは侯爵が事故死を認めたことにある」

飲み込めず、過去の思い出と語られる言葉におぼれそうになっている青年を無視して、自分の推理を並べ立てる男爵に、オリビエはついに実力行使。
男爵を乱暴に突き放した。

「待ってください!僕は、貴方の言葉が信じられない」
何しろズレンと同じ名演技の主だ。
再び手を伸ばす男爵を睨みつけ、一歩下がる。
「ふん、まあ、いい。知りたくなったらいつでも私の屋敷を訪ねてきなさい。ああ、自由のないお前では、どうしようもないだろうが。お前がどう考えようと、私は私のやりたいようにする。ただ、関係するお前に伝えておきたいと思っただけだ」

おどけるような口調に戻り、男爵は派手に肩をすくめると、もときた道を戻り始めた。
「!ちょっと、男爵!」
散々並べ立てておいて、じゃあ、とすんなり帰るつもりか。
男爵のその意図は、背後からの声で理解した。
「オリビエ様!」
駆け寄る足音。
サーベルを携えていることが、膝あてと擦れる独特の音で分かる。
ズレンが、厳しい顔で駆け寄ってきていた。

肩を押さえられると同時にぴしと。頬を叩かれた。
まるで、親に叱られる子供のように。
「殴りたくはないと、言ったはずです」
つかまれた腕は痛いほどだ。強引に引いて行く後姿。その怒りはどこか理不尽な気もしたが、今のオリビエには考えなくてはならない重大なことが他にあった。両親の死の真相。男爵の語った言葉一つ一つを、もう一度慎重に再現する。
意味を再認識するたびに不快な事実や信じたくない事柄が飲みすぎたワインのように気分を害した。


屋敷に戻るとズレンを無視してオリビエは湯を沸かしはじめた。手桶で浴槽にそれを移しながらオリビエは何度も頭の中で整理する。
手伝うでもなく、ただ浴室の入り口で立ったまま腕を組むズレンを無視して、オリビエは一人になるためにこんな時間に風呂に入ろうとしていた。
一人で考えたい。
それでも見張ろうというのか、この男は。
「ずっと見ているつもりなのか」
オリビエの言葉に、ズレンは黙ったまま部屋の外に出ると扉を閉めた。そこに立ったままでいることは、想像できたが。それでも息を吐き出しオリビエはやっと男爵の行動と言葉を右に左に並べなおす。

あの『事件』(すでにオリビエの中では『事故』ではなくなった)あの日。

納戸に閉じ込められたオリビエの見ていないうちに男爵が母親を訪ねた。母親との密会の間に教会から使いが来る。父親の事故の知らせを受けた母親は慌てて家を出た。
母親と父親は同じ馬車の中、教会へ向かう途中の田舎道で転落事故にあった状態で発見された。
先に司祭会に向かった父と、後から呼ばれていった母が同じ馬車で発見される自体おかしいことになる。
そこに疑問を持った男爵は、真相を突き止めようと、母親を迎えに来た教会の下男たちを調べた。先日、キシュの家の酒場で会った、あの男たちが教会の下男だと思えば、そこから男爵がキシュの酒場に通うこともつながる。
調べようとし、革命家の集るという酒場に男爵も顔を出す。
表向きは革命を援助する貴族様というところだろう。キシュの態度からもそれは伺えた。その実、男爵は事件の真相を突き止めるために潜入していた。

すべては、母マリアの死の真相のために。

父は。
母に裏切られていた。

ちゃぷ、と湯を叩いた。
十二の頃、当時二十歳だったマリアに惚れ込んだ男爵は、享年三十七の母と八つ年下の恋人として密会を重ねていた、というのか。
十九の自分が三十五歳のアンナ夫人と情事を交わすことを思えば、おかしなことはない。
ただ。
父親の穏やかな笑みが。悲しく感じるだけだ。

「いつまで、入っている。のぼせるぞ」

思考を妨げる衛兵の言葉に顔を上げると、湯気なのか睫にたわんだ雫が頬に散った。


まだぬれた髪をタオルに包んだオリビエのために、ズレンは夕食を温めていた。
テーブルに並べられたスープや肉から、オリビエは目をそらす。

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