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「音の向こうの空」第八話 ⑥

第八話:葦のように真っ直ぐ



二人が歩いてきた道の先に、小さな屋根と、丸いテーブルを備えた東屋が見えた。それは周囲を硝子で囲い、補強のためか、装飾か鋳物の細い柱が周囲を円形に囲い薔薇を這わせている。鮮やかな紅色の小ぶりの花が浅黒いビクトールにやけに似合って見えた。
彼の背後、メイドが茶を入れ終えたのか、ワゴンをからからと言わせて出て行った。

ロントーニ男爵は、肩に揺れる木陰を乗せたまま笑っていた。
「これはこれは、アンナ夫人、よくおいでくださいました」
定例どおりの挨拶を済ませ、三人は丸い白いテーブルを囲んだ。
少し湿り気を帯びた庭の中の小さな部屋は、紅茶の赤を新鮮に見せた。

「突然お邪魔して、すみません」
三人がカップを置いたところを見計らって、オリビエが口を開く。
「男爵に、お聞きしたいことがありまして」
「よく来たね、まさかこういう方法で尋ねてくるとは思わなかった。つながれた鎖を飼い主ごと引っ張ってくるとはね」
男爵がニヤと笑う。
慌ててオリビエは隣の夫人の顔を見つめるが。
「!?アンナ様!?」
公爵夫人は、くたりとテーブルに突っ伏したところだった。その手に押されて、カップがかちゃと危険な音を立てる。
オリビエがもう一度夫人の名を呼び、気付いたビクトールが東屋に飛び込んできた。
「オリビエ様、奥様は一体?」
「少々、庭に酔ったご様子だ。リトー、お部屋を。休ませて差し上げるんだ」
いつのまにかビクトールの背後にたたずんでいた男爵の侍従は小さく頭を下げると、ビクトールの肩を叩く。

ビクトールはちらりとオリビエを見つめる。
「ああ、彼は私と話があってね。後から行くよ。夕食にはご夫人もお目覚めだろう」
「あなたは!」
夫人に薬でも盛ったのではないか!
どう考えてもそうとしか思えない。
しかし、証拠などない。目の前の穏やかな笑みの男に何をどう言っても交わされてしまうだろう。
茶は最初からテーブルにあり、それが注がれた場面を見ていたわけでもない。
通常であれば、席に着いたところでメイドがカップに茶を入れるものだ。オリビエたちが到着する前にメイドが席を外したところがすでにおかしい。
「オリビエ、座りなさい。ビクトール殿、なにも、彼を取って食うわけでもない、心配ならご夫人はリトーに任せてここに残られても結構だが?」
ビクトールは夫人を抱き上げ、黙ってリトーと呼ばれた侍従の後についていった。
大柄な侍従長は一度だけ、オリビエと視線を交わした。
ビクトールは夫人を守るためにいる。

二人きりになったそこは、再び静寂を取り戻した。

「気に入らなかったかね?」
オリビエは落ち着こうと、もう一度自分の紅茶を口に含んだ。
「いえ、二人で話したかったのは私も同じです」

さて、と言って男爵が頬杖をついて青年を覗き込む。
「何が、聞きたいのかな?」
「…あの。貴方が両親の事件について、いろいろと調べてくださったことは理解しました。その犯人や真相は、知りたい気もします。ただ、それ以上に私は知りたいことがあるのです」
「ほお?」
「今、何が起こっているんですか?侯爵様が私を何かから護ろうと護衛をつけ、厳しく警護するのは何故ですか。確かに、市内は不安定なのでしょう、それは、この間の騒ぎでも想像できました。ですが、それと私とは関係がないように思えるのです。私などに警護の兵をつけるなら、市役所に見張りを立てたほうがいいのではとか。農民や、街の人々が自衛のために兵を挙げるとするなら、狙われるのは食料や武器のある廃兵院や市役所、税務署や銀行などではないかと。侯爵家はもちろんですが。それで何故、私も同じように保護されているのかが分からないのです」
ずっと考えていたことを、並べ立てた。
話すうちに頬が火照り、オリビエは喉が渇いた気がしてもう一口紅茶を含む。
ロントーニ男爵が親かどうかなどは、本人が知らせたくないなら知らないフリをする。オリビエもそんなもの、知りたくはない。
ただ、現状のまさしく監獄と同じこれを何とかしたいのだ。
それを打破しようとか陥落させようなどとは思わないが、なぜそこに収監されるのかを知るのは罪人でなくとも当然の権利だろう。
「窮屈、か?」
「……はい」
「お前もついに、立ち上がる気になったのかな?ファリではバスチーユが陥落したという」

オリビエは立ち上がった。
その監獄は。
王権の象徴であった。どちらかといえば冤罪に近い政治犯や思想犯が収監されているそこは、堅固な守りと強大な兵力を持っていたはず。
それが、陥落?
「おや、知らないかな?ついにファリの民衆がね。ただの民衆なんだよ、自警団でもない、結局のところ、革命家でもない、ただの市民がそれをやってのけたのだ。とてつもないことをしでかしたと、エスカルに集う革命家は顔を青くしたという。議会は膠着、国王の出方次第では内戦に発展しかねない」
「侯爵様は、ご無事でしょうか……」
ロントーニ男爵の表情が消えた。
「お前が知りたいのは、ファリと侯爵様のご様子なのかな?」
「あ…」
つい、話がそれてしまったことに気付き力が抜け、オリビエは再びイスに座った。

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