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「音の向こうの空」第八話 ⑦

第八話:葦のように真っ直ぐ



「葦のように、真っ直ぐか」
「…、男爵それは」
「お前の母が望んだことだ。マリアの望み以上に、お人よしに育った。今は自分の足で立ち上がるときだというのに、やっとよちよち歩きを始めようというのに。侯爵の心配をするなど」
徐々に語気が強まる。
「何が真実で、なにがお前にとって良いものなのか、判断もつかぬ赤ん坊の癖に」
「男爵…」
「お前は、あの男を心配するというのか!これほど自由を奪われているくせに、魂まで飼い犬か!」
何故と聞かれ、応えられない。
それは、夫人に侯爵との関係を問われ応えられなかったときと同じ。
深い理由などない。ただ、あの日。
両親を失った悲しみを涙に変えるには、侯爵の存在が必要だったのだとオリビエは覚えている。
実のところ、それだけなのかもしれなかった。

けっして、親しいと思ったことはない。
頼りたいと感じるわけでも、そばにいれば安心するというわけでもない。
それでも侯爵の身を案じてしまうのは。
理由など分からなかった。

そして、なぜかそれに憤る男爵の気持ちもオリビエには理解できない。
「貴方なら、真実が分かるというのですか?私にとって何が最良であるか、貴方が分かると?」
男爵は立ち上がる。
ますます、怒らせた。それは彼が腰のレイピアに手を当てていることでもわかる、つまり。
それで脅すというのか。
何のために。

睨みつけるオリビエに、男爵は言った。
「侯爵家がお前を保護する理由。それは、私がお前を狙っているからだ」
ゆっくりとレイピアが細く光る刀身を現す。
「!?」
「私が、お前を捕まえ、連れ去ると侯爵は危惧している。それだけのことだ。あの男は私が革命軍に命じてお前を人質にするとでも思っているのだ」

すでに、男爵が持つレイピアは。オリビエの喉元に当てられている。
「人質、に、するのですか」
「いいや。あんなバカどもに預けるつもりはない。オリビエ。この街も近いうちにファリ同様市民の手に落ちる。そうなった時にお前は私の元にいるのだ。嫌とは言わせん」
「それは、貴方が私の…」
父親だからか?知りたくないと思った。知らされたくもない、そんなことは。
だが。
「そう、私はお前の父親。お前は私とマリアの子。ますますマリアに似るお前が、侯爵のそばにいるかと思うだけで寒気が走る」
聞きたく、なかった。
その事実が、男爵にこんなことをさせ、オリビエは自由を失い。
何一つ、誰一人幸せにしないそれにこだわる男爵の気持ちは理解できない。

「いいか、オリビエ。当時司教会で密かに進められていた企みを、お前の父ラストンは反対した。王位を狙っていた王弟ロスレアン公は密かに司教会を操っていた。新大陸へ派兵している隙を突いて、この国境の町で隣国と共謀しようとした。もともとこの地方の人々は、どちらかと言うと気風も慣習もアウスタリア人に近い。アウスタリアもこの土地を得れば、侵攻の足がかりにする予定だったろうし、ロスレアン公はそれを理由に戦争を起こそうとしていた。それを知っていながら侯爵は黙認していた。あの事件が起こることも知っていた。侯爵はお前の父の雇い主でありながら、見殺しにしたのだ」
オリビエは目をつぶった。
喉元にひやりと当たる刃。いつの間にか小さな部屋の壁に背を押し付けられている。身動きの取れない身体とは逆に、頭のどこかが痛いほど澄み切って男爵の言葉を理解し整理していく。
それを男爵が後押しする。
「お前の両親を、マリアを殺したのは、司教会、侯爵、それにロスレアン公だ」
侯爵が僕を引き取ったのは、両親に対する罪悪感なのか。
真相を知りつつ、見て見ぬフリをした。その償いなのか。
「隠蔽のために殺されたが、お前の両親の事件が予想以上に反響を呼んだ。お前の父は、司教会が予想する以上に全国に知れていたのだ。平民にはただの音楽。だが、貴族にとっては価値のあるもの、価値のある人物。ファリでも新聞で報じられ、遠い地に住む貴族たちがラストンの死を悼んだ。そのために、陰謀は一度影を潜めた」

「…一度?」

「そうだ。ロスレアン公も侯爵もラストンの死が注目を浴びると司教会との関係などなかったかのように振舞った。つまり、司教会は手のひらを返された。そこで。私がすべてを引き継いだわけだ。自分たちの理想を迷いもなく遂行しようとするバカどもは操りやすくてね、侯爵に対して反旗を翻すのも簡単なことだ」
侯爵が治めるこのエスファンテを手に入れたい、そういうことなのか。
「町の人を、扇動しているのは」
「そう、私だ」
目の前に、アンナ夫人の飲みかけたカップが差し出された。

「飲みなさい」
「…そんな、ことをして、何の意味が!」
「口答えは許さない。お前は私の息子。父の言うことを聞くのだ」
「貴方は父親なんかじゃない!」
「お前がどう感じようと、お前がマリアの顔をし、マリアの血を引くことは変わらん」
レイピアを鞘に戻し、ロントーニ男爵は茶を片手に迫る。
一歩引く。背にはすでに壁。
顎をつかまれた。
振りほどこうと腕をつかむ。目の前でカップが揺れた。
顔に茶を浴び。
少しばかり口に入り込んだそれを吐き出そうとするのに、強引な男爵の手がそれをさせない。
足元にカップが音を立てて落ちた。

男爵は、母さんに妄執している。
いつか侯爵様が言っていた。
十二の時に二十歳の母さんに惚れ込んだのだと。それが今も。
僕が本当に男爵の子かどうかなど、きっと関係ないんだ。
真実など関係ない。

ただ、母さんに似た顔の、母さんの血を引くものが欲しい。
それだけ……。

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