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「音の向こうの空」第九話 ③

第九話:女優、そして下心




「どうした、マリア」
マリア?
目を向けると目の前に男爵の顔。
「違う、僕は…」
口を手で塞がれる。
ふん、と男爵はため息をはいた。ため息を吐き出したいのはこちらだと、オリビエは反発を覚えるが身動きできない。
男爵の肩越しに、立ち上がったリトーが鋭い視線を向けていた。
「お前が、女だったらよかったのに」

女だったらどうすると言うのか。マリアに見立てて身代わりにでもするつもりか。肌が一気に温度を下げたような気がして、嫌悪感にオリビエは首をすくめる。
ロントーニにとって、自分の子だとか、自分が父親だと言う自覚はないのだ。マリアの子、マリアの血を引き、マリアに似ている。それだけが、重要なのだ。

「なまじ、顔が似ているだけに、その声と身体は興ざめだな」

勝手に冷めてくれ。望むところだ。オリビエは睨みつけた。

たとえ本当にこの男が自分の父親だと動かぬ証拠があったとしても、もはや何の躊躇も不要だ。下手に息子扱いされるよりましなのかもしれない。僕の父親は、音楽家のラストンだ。そう、これからだって胸を張って言える。

やっと口が開放され、オリビエははぁと息をついた。
「あの、男爵、この縄を解いてください」
こちらも派手なため息をついて、男爵は肩をすくめた。
「そのままでいなさい。リトー、マリアに手を出すな」
「だから、マリアじゃ…」
じろりと睨まれ、オリビエは口をつぐんだ。
頭がおかしくなりそうだ。そのうちドレスなんか着せられたらどうしようと肖像画を眺める。嬉々として衣装を揃える男爵を想像して、ついでに似た様な人物を思い出した。

「アンナ夫人と、ビクトールはどうしたんです?」
「ああ、あの二人は置き去りにしてきた。いずれ、あの屋敷は革命軍が拠点とするだろう」
「そこに!置き去りですか?」
「運がよければ侯爵家に逃げ込む時間があるだろうが。どうかな。私はあの女が嫌いでね。殺す気にもなれん」
物騒なことをぶつぶつと語り、オリビエの肩を数回なでまわすと額にキスをし、男爵は部屋を出て行く。
扉が閉じられると、オリビエはぶるっと身震いした。
しかも、未だに部屋にいるリトーは、ものすごい形相でこちらを睨んでいた。

「あの、リトーさん」
オリビエが声をかければ、あからさまに視線を避け、つまりそっぽを向いた。

男爵には恭しくしているくせに、オリビエには敵意を込めた視線を向ける。つまり、オリビエの存在が納得いかないのだろう。男爵の血を引くことを妬んでいる様子だった。いや、母マリアの血か。
「もしかして、嫉妬しているんですか」とオリビエが尋ねれば。
「誰がお前などに」
と返事をするのだから、オリビエの勘は間違っていない。

「僕を逃がしてくれないか。あんたは僕が男爵のそばにいるのが嫌なんだろ?僕もそれは同感なんだ。僕が男爵に世話になる理由もないし。ね、そう思うだろう?」
「だが、命令だ」
憮然とした表情を崩さないリトーに、オリビエは食い下がる。
「僕が逃げ出したことにすればいいじゃないか」

そうか、と少しばかり嬉しそうな顔をしてリトーはオリビエのそばに近づいてきた。横たわったままのオリビエの目の前にしゃがむと視線を合わせる。そうしている姿はオリビエより年下に見えた。
「ね、僕が逃げてしまったことにすれば」
「そうだ。お前が逃げ出したことにして、私は捕らえようとして抵抗され仕方なくお前を殺す。いい筋書きだ」

オリビエは黙った。
リトーは嬉しそうに笑った。笑うとやけに華やかな顔になるのが余計に怖い。

「それはいい案だ」とランプを再び持ち上げる。殴ろうと言うのか。
「待てって!」
「じゃあ、掴まりそうになって逃げ場がないと悟り楽士オリビエは自ら命を」
と今度は腰から短いダガーを抜いた。
「だから、殺すなってば!」

「…殺したいんだ」
リトーが構えるダガーはしっかりオリビエの喉元に当てられていた。
「どうして」
男爵がヘンタイなら、こいつもかなりおかしい。
ズレンも近い印象があったが、まだましだった。

「ロントーニ男爵は私の歌を聞いてくださる。貧しい農家の子どもをこうしておそばに置いてくださる。あのままでは皆餓死していた。それを救ってくださった」
「歌?」
「そうだ。私の自慢だ」

遠い目をしオリビエの喉元に刃を当てたまま、リトーは歌いだした。聖歌だ。
どういう神経なのか理解できないが、その歌、その歌声を聴いてオリビエは背筋を寒くした。
「や、やめろ!」
「どうして」
「その歌。その声。お前、母さんの声にそっくりだ!」
母さんは歌を歌う、けれど人前で歌うのははしたないと考えていた。だから、家族の前でだけ。そう、親しいものの前でだけ歌う。
それを、その歌声を男爵も知っている。だからこいつをそばに置く。
母さんの、歌声の代わりに。

「そうだよ。私はマリアに似ている。声だけじゃない、拾われた頃は顔も似ていたのに。今だってお前なんかより、この肖像画には私のほうが似ているのに」
「お、おかしいよ。お前たち、おかしい」
リトーの笑顔。笑ったときの表情がどこか印象が強かったのは、笑顔だけはあの肖像画にそっくりだったからだ。
「おかしくなんかない。私の主人は男爵だ。男爵が求めることを求められるままに応えるだけ」
今なら、キシュがオリビエに対してヘンタイと言った意味が分かる気がした。
オリビエはこれほどではないはずだが。

「私がマリアの血を引いていれば」
リトーの羨望の眼差しはオリビエの気分を悪くするばかりだった。
「僕に手を出すなってのも、命令だろう?」
かろうじてその命令で命をつないでいる気分だ。

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