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「音の向こうの空」第九話 ④

第九話:女優、そして下心


リトーはオリビエと同じ十九で、十歳の頃聖歌隊にいるところを男爵に見出され、男爵家に仕えることになったらしい。似たような境遇だと、オリビエは同情もするが、どうやらその気持ちはこちらだけで、リトーはオリビエを敵視していた。

マリアが亡くなった年、男爵は隣町リンスの屋敷からこのエスファンテに移り住み、密かに事件のために奔走していたという。一度、侯爵家の晩餐会でオリビエの曲を聴き、姿を見て、リトーに対する態度も変わったと言う。

「急に、遠い方になってしまわれた。お前のことばかり話されて、お前の曲を真似ろと命じられても私には楽器は弾けない。失望されるあの気持ちがお前には分からないだろう!」

そう話しながら、リトーは再びダガーを取り出すから、なだめるのが大変だった。
お前が男爵の心を奪ったのだ、と言われても。
それがまた、アンナ夫人に重なるからオリビエのため息は深い。

「じゃあ、男爵様は僕がどうすれば満足なんだ。君は僕がどうすればいいと思っているんだ」と尋ねれば。リトーは悲しげに目を伏せた。
「男爵様は、お前にマリアになって欲しいとお考えだ。私は悔しいが。男爵様がそれを望み、それで幸せになられるなら」
「マリアになれって言われても。無理だろう。第一。僕は男だし」
「……東洋の国に、男を女に替える秘薬があると言う!」
「いや、無理だと思うけど」
「しかし」
とまじまじとオリビエを見つめる。

夕食のスープをまた、一口飲ませてもらって、オリビエは思案に暮れる。

「ね、リトー、君も、男爵も。無理なことを願って、苦しんでるだけだと思うよ。母さんはもういないし、影を追っても仕方ないじゃないか。リトー、君が男爵にそれほど入れ込んでるなら、君が彼の目を覚まさせなきゃいけないんじゃないか?これだけ愛されて母さんは幸せだと思うし、感謝しているよ。だけど、母さんはもういない。その現実を受け止めなきゃいけないだろ?僕が十三の時に受け止めたのと同じように」
「お前は、優しいな」
ポツリとリトーがつぶやいた。
彼の頬には、まだ、先ほど男爵に殴られた後が生々しく残っていた。

あの男爵の世話をするのは、楽ではないだろう。つらい事もあるだろうに、他に幸せになる方法を知らないのだ。この青年も。
それは自分自身を見ているようで、オリビエは息苦しくなる。

「もう、逃げないから。手を解いてくれないか。楽器を、弾きたい。自分で食事も食べるし、ね、そうしたら楽器のある部屋に連れて行ってくれないか」
リトーは迷った。
「聞きたくないか?男爵が、君に真似をしろといった、僕の曲」
青年は顔を上げた。
小さく頷いて、オリビエはやっと戒めを解かれた。
それでも痺れた手ではすぐにはフォークが使えず、結局食事は手伝ってもらった。

食事をしながら、オリビエはキシュの話をした。自分も侯爵家では鳥かごの鳥と同じだとも言った。下町の少女キシュに出会って、自由に憧れ、同時に自由であることの大変さも分かったのだと。ズレンは言った。生きていくために苦い思いを飲み込んでいかなければいけないのだと。そうやって生きている人々が、教会でオリビエの曲で嬉しそうにしてくれたときには自分が何をしたいのか分かった気がするのだとも。
「僕は、僕の音楽で誰かを幸せにしたいんだ」

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