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「音の向こうの空」第九話 ⑤

第九話:女優、そして下心



男爵のこの郊外の屋敷は、あまり広くはないようだが、昔の聖堂を再利用したもので礼拝堂を持っていた。
そこにあるオルガン。
リトーが礼拝堂内のすべてのろうそくに火を灯し、オリビエが楽器を奏でる。
遅い時間だと言うのに、男爵の衛兵も幾人かのぞきに来ては静かに席に着いた。リトーは聖歌を共に歌い、それはオリビエに幼い頃の母親との共演を思い出させた。

リトーは伸びと透明感とではキシュに叶わなかったが、男性とは思えない柔らかな声を持っていた。オリビエのオルガンは高い天井まで染み入り、夜の闇にも温もりを感じさせた。
オリビエが侯爵家で奏でた多くの曲と今思うままの音を奏でると、リトーはすぐそばに立ち、じっと駆け巡る手を見つめていた。

リトーにもいつか、リトー自身を必要としてくれる誰かが現れることを祈って。その誰かがマリアの身代わりではなく、リトー自身の生き方を深く心にとどめてくれたら。
それは、最高に幸せなのではないか。

男爵の中にマリアがいるように。だれかが、リトーを想い、惜しんでくれたら。そんな人生を歩めたら。
功績とか名誉とかじゃなくて。たとえ自分の子どもや家族だけでも。自分が幸せにしてあげられる誰かがいたら。
そのために生きるのだとしたら。それはとても幸せなことだ。

「オリビエ!」
唐突だった。
人垣になっている聴衆を男爵が掻き分け、こちらに向かって歩いてきた。
「あ、男爵様」
リトーは慌てて目を擦ると、説明しようと男爵に駆け寄った。
「お前は、何故見張っておかない!」
次の瞬間には、リトーは殴られ並んだベンチに倒れ込んで、そばにいたメイドらしき女性が慌てて支えた。
「ロントーニ男爵」
「オリビエ、お前は……」

何か言いかけて、男爵は言葉を忘れてしまったかのように立ち尽くしている。
「男爵、弾きましょうか。あのときのレクイエム」

殴られた。
誰かが悲鳴を上げた。
視界に天井と蜀台がぐるぐると回り。
何度か、腹に、背中に衝撃を感じた。耳鳴りが少し収まり目を開けると、男爵に強く抱きしめられていた。
「……男爵。あなたは、マリアでなくては、だめなんですね……」
オリビエは眼を閉じた。

母さん。貴方は罪作りな人です。父さんだけじゃない。僕だけじゃない。大勢に愛情を振りまいた。僕が本当に貴方と男爵の子なのかは怪しいけれど。
男爵は貴方を愛し、貴方もそれに応えようとしたのかもしれない。
理由など、僕に分かるはずもないけれど。

貴方でなくては、男爵を救えないのかもしれない。


数人に取り囲まれ、暖かい手が額に当てられた。力強い腕が抱き起こした。胃がひどく痛んで、崩れるように座り込み、吐く。
オリビエしっかりして、とリトーの声が聞こえた。
「リトー、手は。僕の手は…」大丈夫、だろうか。


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