08
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「音の向こうの空」第九話 ⑥

第九話:女優、そして下心



オリビエは三度、先ほどと同じベッドで目覚めた。
その塔の部屋は相変わらず薄暗かったが、朝日が昇ったのか窓からの明かりが向かい側の壁に白く輝く四角を貼り付けた。
格子の模様が丁度、十字架のように見えて、それがマリアの肖像画の額に当たると不思議と神々しい気分になった。

朝食を運んできたリトーは、顔に大きなあざをつけていて、オリビエは痛そうだねと笑った。
「貴方は、腹に同じようなのが」
そういわれ、服をまくってみるとなるほど、左のへその横辺りにくっきり、男爵の怒りが痕となって残っていた。そっと押さえると鈍く痛んだ。
「大丈夫ですか。医師に血の混じったものを吐いたりしたら知らせるようにと言われています。どこか痛みますか」
心配そうにするリトーに、オリビエは首を横に振った。
「大丈夫。僕にはちゃんと動く両手がある」
「貴方は」
あきれたように笑う青年に、オリビエも笑った。
「庇ってくれたんだろ」
「いいえ、私ではなくて、聞いていた皆が、男爵を抑えてくれました。男爵は少し、そう酔っていらっしゃって。以前そういう時に、殴り殺された下男がいたものですから。皆、すぐにまずいと思ったんでしょう」
今更ながら、ぞっとした。

「オリビエ、ここから、逃げるべきです」
リトーは声を低くして、カギをオリビエに握らせた。
「逃げ出したことにして…、殺す?」
首を横に振ってリトーは少し笑った。
「冗談ではないです」
「え、あれ、冗談だったのか?」
「ええ。私はまだ人を殺したことなんてありません」
「いや、だって、ダガーをここに突きつけて、殺したいって」
それも演技なのか?
ズレンと男爵の名演技をはるかに上回る、名優か。
「正直、あの時は本気でしたけど」
やっぱり。
「ですが。今は本気で貴方を逃がしたいと思っています。だから、急いで。エスファンテの市街には、市民が武器を持って押しかけていると言う話しです。男爵は侯爵の悪評を流して扇動しているんです。いずれ、ここがファリの二の舞になったら、貴方は帰る場所を失います。ですが、ここでは。ここにいてはきっと、いつか男爵に殺されます」
「僕は、マリアにはなれないからね」
「ええ。マリアの役は私のものですから」
オリビエは、少し迷い、それからリトーの肩に手を置いた。

「リトー、君も来ないか。君だって、ずっとマリアの役じゃいられないはずだ。それに、僕を逃がしたと知られたら、あざ一つじゃ済まないだろう?」
「オリビエ、私は農家から男爵に買われたのです。証書がある限り、私の家族にも迷惑がかかる。それに、私は男爵のことが好きです。もしかしたら貴方の言うように、もっと幸せを感じられる何かがあるのかもしれない。だけど私には、今のこの生活が唯一」

本当に大丈夫だろうか。オリビエをマリアと呼んだ男爵。マリアを殺したはずの司教会と手を組んですら、マリアの血を受け継ぐオリビエに執着した。
目の前の華奢な青年は、あの時のように男爵に黙って殴られようと言うのか。
本当に殺されてしまうかもしれないのに。

「オリビエ、貴方は違う。貴方は楽士オリビエとして生きるべき人。大丈夫、何人か協力してくれる人を見つけてあります。みんな、貴方の演奏を聞いて、とても感動したんです」
「リトー」
「一つだけ、お願いが。私のことをいつか、曲にしてください。マリアの偽者ではなくて、一人のリトーという女性として」
「…じょ?」
「いやだな、女ですよ。本名はリドアルド。こんな格好をしていますが。男爵に請われればドレスも着ます。普通、歌声で分かるでしょう?」

ああ、だから。
だから男爵のそばを離れられない。
男爵がマリアを愛し続けるように、きっと、リトーもロントーニ男爵のことを愛し続ける。
まったく、誰だ、ロントーニ男爵が男色家だなんて言ったのは。

ズレンを思い出す。
今ごろどんな恐ろしい顔をしていることやら。このまま戻ればそれこそ拘束されかねない。
いずれ帰る場所は侯爵家しかないのだが。


「リトー、僕は侯爵家に戻る前に、キシュに会いたいんだ。今、街はどうなっているんだ」

「オリビエ、今この情勢ではどこが安全ともいえない。あなたが侯爵の楽士であることは誰もが知っている。男爵がそうさせなかったけれど、彼らにとって貴方は侯爵に対する人質になりえるし、場合によっては見せしめにしようとするかもしれない。革命軍、などと言っても所詮烏合の衆です。話して聞く連中ではありませんし」

オリビエにはどうも革命軍というものが想像しがたい。侯爵の衛兵は見たことがあるが…。
迷っている様子の青年に、リトーはそっと肩を叩く。

「まずは侯爵家へ戻られるのが最善だと思いますよ。あそこは城砦ですから。留守を預かる第三連隊の隊長は切れ者です、下手に兵力を散らすのではなく、一箇所に集めて防衛に努めているようです。明日には侯爵が戻ると言う噂もありますし。侯爵がエスファンテ衛兵の主力と、国王の力を借りたとすれば、市民は挟撃を受けた形になって制圧されます」

「ロントーニ男爵は、何をするつもりなんだろう」

「様子を見ているだけでしょう。もしかしたら、この混乱に乗じて貴方を連れ去ること、それだけが目的だったかもしれません」

マリアの虚像を求めるためだけにそれだけのことをする、信じがたいがオリビエを拉致したタイミングも重なっている。穿った見方をすればこの混乱の現況は自分、ということになると気付き、オリビエは苦い顔をした。

「市民が侯爵を追い出しても、侯爵が市民を制圧しても、男爵はどちらでもいいのです。もともと、拠点は隣の街リンスですから。いざとなればそ知らぬ顔をしてリンスに戻ることも出来る。さ、このカギで建物の裏にある厩が空けられます。白馬が私の馬です。飼い主に似て従順ないい馬ですから、使ってください。そこから一番近い裏門の門番とは話がついています。通してくれます」

馬…。

「あの。僕」馬には乗れない。
鞍のつけ方すら知らない。
「さ、急いで」
女性のリトーが馬を持っているということは、リトーも乗れると言うことだ。女性が乗れて、自分が乗れない。それを言うのはどうにも気恥ずかしかった。

脱出の手はずをつけてもらって、肝心の僕が馬に乗れないでは。

乗れないけれど。
何とかするしか、ないか。

次へ♪
関連記事
スポンサーサイト

ゆつきさん♪

わうわぅ、お久しぶりです♪
今日久しぶりに苺畑をのぞいて、あら、楓さん、とか。そんな状態なのに。
きてくださってありがと~!!

リトー、いい子でしょ!?ちょっと怖いけど(笑)
再会…どうでしょう~♪v-391
馬…危ないよね普通…。
何気なしに決めた「馬に乗れない」設定が、ここにきて足を引っ張るわけです(笑)

第九話でした♪

あぁ、リトー……。
また一人魅力的な登場人物が現れましたです。
男爵も憎みきれない。やっていることは半端なく良くないと思うのに……
リトーにまた会えるかな、と思う前に、オリビエ君を心配してやれ(笑)? でしょか。

大丈夫かな。馬。

kazuさん~♪

そうです、ちょっと騙してしまいました~。
ごめんなさい!

男爵もリトーも悲しい生き方をしていますが。
マリア。どんな女性だろう~♪モテモテですよね♪
貴族や王侯は女性を正式に囲えた時代なのに、宗教はカトリックだから、浮気は反社会的なことだったとは思うんですよね。なんだか矛盾している気がする。
権力さえあればなんとでもなったのかも?

非力なオリビエ君、なんだか好みなのですよ、頑張れって言いたくなっちゃう。
なせばなる…かな?
エスファンテはいろいろと雲行きの怪しい様子です♪
お楽しみに~♪

女性!!

気がつきませんでしたよ、リトーさん(笑
そのオリビエ君への嫉妬も憎しみも、女性だからこそだったのですね。

あぁ、ロントーニ男爵!!
男爵が壊れていく・・・(涙
それほどまでに愛されたマリアさんは、素晴らしい女性だったのですね。
でもオリビエくんのお父さんは、ラストンさんだと信じたい!!
お母さんは2人を裏切っていないとしんじたいです~@@;

リトーさんに脱出のみちすじをつけてもらったオリビエ君。
成せばなる・・・になるのか!?
25日、楽しみにしてます^^
Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。