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「音の向こうの空」第十話 ③

第十話:革命、夜明けのエスファンテ



普段では想像もつかないほど静まり返った母屋の一階。大広間の脇の廊下を奥に奥にとキシュは連れて行かれる。
客人の貴族たちは上階の部屋で休んでいるらしく、屋敷内はしんとしていた。
生まれて初めて入る貴族の屋敷に圧倒され、また静まり返ったそこにおびえたようにキシュは大人しく付いていく。
「ね、オリビエちゃんは、どうしたの?どこにいるの」
遠慮がちに口を開くが、それはしっかり無視される。あと少しで裏口と言う辺り。静まり返った廊下でズレンは止まった。
少女が抑えるポケットからパンが転げ落ちるのもかまわずに抱き寄せ、口付ける。
「っその、あのね、ズレン、オリビエは……」
「あんなバカは放っておけ」
「なんで?だってさ、おかしいよ、この間まであたしを追い払って、オリビエちゃんを護ろうとしていたじゃない?おかしいよ?」
ふと青年衛兵は笑った。
笑うだけで、何も言わず。抱きしめる腕は力がこもりキシュは身動きできない事実に身体を強張らせた。
「ねえ、ちゃんと、言った、よね?オリビエちゃんは男爵様に捕まったって。オリビエちゃん今頃、危ない目に遭ってるかもしれないのに、どうして助けに行かないの?」
「助けて欲しいのか?」
「…そ、それは。だって」
「お前は革命軍の一人としてオリビエを騙そうとしていたのではないか?」
「それは、そうだけど。でもね。騙したんじゃないよ。オリビエちゃんは貴族じゃなくて、あたしたちと一緒にいるのがいいんだよ。自由になるべきだもん。教会で皆に音楽を聞かせて欲しいの。皆喜ぶよ。オリビエちゃんは貴族なんかにはもったいないよ」
「…それで、誘い出したのか」
「会いたかったのは、本当だもん」

「俺よりもか?」
目を細める青年にキシュは顔を赤くした。
「そ、そんなこと言うのずるいよね!ズレンはついこの間まで、セイリア姉さんのこと本当に好きだって言ってたくせに、あたしのコトだって追い出したがってたくせに。オリビエちゃんと二人になるのを邪魔していたくせに!」
「好きな女が他の男に近寄るのを黙ってみているほどお人よしじゃないんだ、俺は」
抱きすくめられ。少女には抗いようもない。
そんな優しげな笑みを向け、強引な愛情を表現されたら。

キシュは自らの胸の高まりに、熱く感じる青年の腕に身を任せようとした。

「歩けますか、オリビエ様」
「ん、何とか……!」
扉がゆっくり開く。二人の男が入ってくる気配と共に裏口の扉が、派手に音を立てて閉まった。
オリビエだった。
立ち尽くす。

ランプの下、見知った衛兵と少女はしっかりと抱き合っていた。
「あ…」
先ほどまで、痺れて疲れた身体も、一度落馬して痛めた足首も。
今の痛みに比べればないも等しかった。

背後からオリビエを支える様に入ってきたビクトールがオリビエの視線の先を見つめて嫌な顔をした。
「オリビエ様、さ、どうぞこちらへ。お怪我の手当てをしますよ」

ビクトールの腕に支えられ、片足を引きずりながら、オリビエは何とか歩き出す。
慣れているはずの侯爵家の廊下も、階段も。自分に与えられた部屋に行き着くまでの道のりが、長く、つらく。それでいて先ほど目に焼きついた光景を反芻しないようにとオリビエはビクトールに話しかけている。
「奥様はご無事なんだね、良かったよ、本当にあの時はどうしようかと思ったんだ。すまなかったな、ビクトール。僕もまさか、あんなことになるとは思わなくて」
かすかに、名前を呼ばれた気がした。

それは、本当に小さな声で。少女のもののように思えたが、オリビエは振り返る勇気がなかった。

「遠かったんだ、思ったよりね。馬に乗るなんて、一人でね、初めてでさ、どうしたら止まってくれるのか分からないことに気づいて、だから、ずっと、とにかく走って」
「オリビエ様」
「男爵は郊外の屋敷でこの騒ぎを傍観しているんだ。街の中心を大きく迂回してきたけど、途中一度、誰かに追いかけられたんだ。止まれって言われたんだけど、止まり方がわからないんだ、仕方ないよね」
青年が小さく震えているのをビクトールは精一杯方を強く抱き寄せて歩かせる。
二階の東の端。朝日が一番美しく入る部屋に、オリビエを連れて行く。
見張りの衛兵からオリビエ帰還の連絡があっただろうに、ズレンのあの出迎えはどういう意味があるのかとビクトールは煮えたぎる思いを腹に抱える。
「オリビエ様。お気になさらずに。わざとでございます、あの男。侯爵様がいらっしゃらないことを良いことにこの屋敷を我が物顔で仕切っている。私も、奥様をお連れして戻ったのが遅かった。戻った時にはすでに衛兵の陣が敷かれ、庭も好きに使われていました。侯爵様の伝達だなど、どこまでが本当か怪しいものでございます」
「……ビクトール…あの。キシュは、あの娘はどうして、ここに?」
「……ズレン殿が、連れてきたのです」
オリビエは黙った。
窓からの柔らかな光に、オリビエの亜麻色の髪がすけて白い額にかかった。
その優しげな容姿にアンナ夫人が夢中になることを苛立ちもしたが。ビクトールはため息と共にそれを吐き捨てると、青年の肩を優しくたたいた。
「どうか、お力を落とされませんよう。明日には侯爵様がご到着の予定です」
オリビエをベッドに座らせると、ビクトールは医師を呼ぶといって部屋を出て行った。

腫れて感覚のなくなった右足の靴を、何とか引き剥がすように脱ぐと、オリビエはベッドに伏せた。
足も、打った腰も、あちこちが痛かったが。
目に見えない胸の痛みに拳を抱えて丸くなった。
両親をなくしたあの朝のように。

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