10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「音の向こうの空」第十話 ⑥

第十話:革命、夜明けのエスファンテ



ズレンは集ってきた市民を城壁から見下ろしていた。


「隊長、北の門も、東門も囲まれました。どうしましょう!このままでは!」
「今の砲撃はなんだ」
青年は脱いでいた上着を羽織る。腰のサーベルが音を立てた。
午後になって出てきた風に髪が揺れ、二十五歳の連隊長は部下を省みて睨んだ。
「二度と砲撃はするな」
「し、しかし……」

「エスファンテの市民たち!ここにこうして集るからには、要求があるのだろう!代表者はいないのか!要求を我らに伝えるものはいないのか」
ズレンは狙撃を恐れる部下を押しやると、城壁の際に立った。
二メートル程度の高さ。
足元には農夫の持つ柄の長い鋤が麦畑に揺れる穂のように並ぶ。
侯爵家の前に集った市民は千を超えているように思えた。昼過ぎから集りだした彼らは、最初は遠巻きに、一人二人立っているだけだった。
それが、徐々に人数を増やし、今はエスファンテの大半の市民がそこに立っているように思えた。黙ったまま、ただ真っ直ぐこちらを見ている様子は衛兵たちを動揺させた。
「我らは侯爵様のご命令でここを護らなければならない。それはお前たちがパンを焼き、畑を耕し、子を養うのと同じだ!これほどの市民に囲まれ、衛兵たちは皆動揺している。不安に駆られ、砲撃をしたばかものもいる!要求があるなら伝えよ!我らに判断できないことであれば侯爵様のご帰還を待つ」

「パンを」
足元の女が言った。
「そうだ、パンを!」
隣にいた若い男も叫んだ。
食料を!水を、我らは飢えている!
そう訴える市民。ズレンはその場にしゃがみ、足元の市民に語った。
「背後を見なさい。何千といる、この市民の腹を満たすパンが、食料が、この屋敷にあると思うのか。侯爵様の穀物庫はここには無いだろう?郊外のそれはすでにお前たちの仲間が襲撃したと聞いている。我らも、このエスファンテで収穫された麦や野菜を食べているのだ。侯爵様はご存知なのだ。市民に養われ育まれていることを。だから昨年の飢饉の際に蓄えるべき麦の半数を分け与えた。残る食料は皆、市民のために取っておいたのだ。それはすでに、お前たちが手にしたであろう?」
ズレンに直接見つめられた女は逡巡し、周囲の男たちも背後を振り返る。
「今年、市民の税を免除したように、農民の税も侯爵様は免除された。この地で麦を作り食べ物を作り出せるのは侯爵様ではない、お前たち自身だ。お前たちが昨年の収穫が不足していると言うならば、我らには何も出来ない」

女が農夫の男に食って掛かる。
「あんたら、麦があるなら分けてくれ」
「なにを言う、革命軍を率いているのはお前たち街の人間だろう!穀物庫で得た食料はどうなったんだ!」
男は男で、銃を構えた革命軍らしき男につかみかかった。隣に立つ男が銃の火薬を詰め終える。それを見て女が悲鳴を上げ、男たちは止めようとつかみかかる。
ズレンはその銃がこちらに向く前にひらりと城壁の内側、一段下へと飛び降りた。
銃は、市民に向けられた。

銃声、悲鳴。
革命軍は脆さを露呈する。
ズレンは傍らの部下に命じた。
「いいか、こちらには武器と火薬と力ない貴族しかいないのだ。そこを市民に訴えろ。市民は自由と公正を主張する。思想として掲げるからには、こちらが公正に訴えれば手出しは出来ない」
「はい」
城壁の各要所へと伝令に走る男を見送る。
連隊長の鋭い目がふと、細くなる。
ちょうど、入れ違いによろよろとした若者が城壁の石段を壁に寄りかかるようにして登ってきた。
苔むし、風雨にさらされた重厚感のある石造りの壁に、その男は不釣合いな優しげな色合いの髪をなびかせ、武具の一つも着けずにそこにいる。谷間に引っかかった花嫁衣裳のごとく。
「呆れるな」
ポツリとつぶやくズレンは、しゃがんだまま、顎に手を当てる。

「どうなっているんだ!ズレン」
「これは、楽士殿。勇敢にも敵陣から逃げ延びた貴方がこんな危険な場所に来られるとは…」
眉をしかめ、オリビエは城壁の上に顔を出そうとする。
「!ばか!」
飛んできた包丁がすり抜ける寸前でオリビエの上着を引っ張り、転びかかったそれを支えた。
膝をついてオリビエは目を真ん丸くしていた。
「…お前、ばかか!こんな格好でうろうろしやがって!男爵に捕まろうが、逃げ出そうが行方知れずになろうが関係ないが、俺のいる場所では傷一つ許さん!」
「あ、ありがとう」

怒鳴られて笑うオリビエの意図が分からず、ズレンは肩をすくめ、ため息をつく。
「男爵家はどうだった」
青年の問いにオリビエは目をそらす。
「状況を聞きたいなら、まずソチラから報告しろよ、オリビエ」
オリビエはかいつまんで事の顛末を話した。同じ話をビクトールと医師にもしたが、ズレンが興味を示したのは彼らとは違う部分だ。
「ふん、男爵と革命軍、それほど親密でもないと言うことか」
「…まあ、もともとの関わりから考えれば互いに利用しあっていると思うけれど」
ズレンは面白そうにオリビエの顔を見つめた。
「なんだ?」
「いや、マリア、ねぇ。感謝しなくちゃならんな、ご母堂様にね」
オリビエが眉をひそめ説明を促してもズレンは笑ってオリビエの容姿をからかうばかりだ。

次へ♪
関連記事
スポンサーサイト

Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。