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「音の向こうの空」第十話 ⑦

第十話:革命、夜明けのエスファンテ



「オリビエ!そんなところで何をしているの」
公爵夫人がビクトールの背後に隠れるようにしながら、衛兵たちの間を縫って近づいてくる。
は、と呆れた笑みを浮かべ、ズレンは走って夫人の前に立った。
見送ったオリビエはしばらく何事かを説明しているズレンを眺めていたが、塀の向こうが気になってそっと顔をのぞかせた。
高さ二メートルだけの城壁。すぐ目の前にもみ合う人々が見える。
女が包丁を振りかざし、男はそれを容赦なく殴りつける。悲鳴と怒号。鈍い音はそれが食い込む肉の痛みを想像させ、得物がぶつ合うたびにオリビエはびくりと肩を震わせた。何をどうしたいのか叫び唸る人々は獣のようで、人がそんな風になれることを始めて目の当たりにしたのだと、重く感じる胃の片隅で冷静な目で見ている自分もいる。
止めなよ、とかすかな声。耳にしてすぐにそれと分かるのは。聞き覚えがあるからだ。聞きたいとすら思った声だからだ。

「!キシュ!」
人ごみの中、袖を捲り上げた屈強な男がもたれかかってきた男を腕で振り払う。
背後に続くもう一人は天に向けて銃を撃った。
乾いた音の一つ目では人々は反応しなかった。
「やめてよ!」
姿は見えないが、あれは間違いない、キシュの声だ!
透き通った声は人の心に届く。
人混みの背後が横に伸びたように見えた。奇妙な感覚はその原因を目にして納得できた。
屈強な男たち、一様に黒い服を着た彼らが列を成して進んできているのだ。進むにつれ争っていた市民が道を開けだしたのだ。
ごうごうと響く低い音は、一台の大砲。がらがらと木の台車を軋ませて石畳を進んでくる。それを引く黒い衣装の男たちは皆、一様に腰にサーベル、肩に銃をかけ、頭に被った黒い布は遠い東の異国人を思わせた。
黒い一団の中、キシュがいた。
赤い炎のように髪がなびき、小柄なのに大きく見える。

今や人々は一団の目的とすることを想像するらしく、彼らを遠巻きにして見つめている。地に這い、うめく女をキシュが助け起こす。

「ズレン・ダンヤ。いるか?」
黒服の一団、その最前列にいた袖を捲り上げた男が怒鳴った。
腹から響く力のこもる声。
思わず目があったような気がして、オリビエは隠れた。
脇に青年が立った。
見上げるとズレンはまっすぐ、厳しい視線を城壁の外に向けていた。
腰のサーベルを握り締める手に力がこもっている。皮の手袋がぎゅと小さな音を立てた。
「パーシー。娘を返してやったのに、その謝礼はいただけないな」
ズレンは男たちが引きずってきた大砲を顎で示す。
オリビエはそっと、ズレンの脇から頭を出そうとしてサーベルの柄でわき腹を殴られ呻いたが、次にはズレンのそれが当たらないよう距離を置き、城壁の石段に足をかけ覗き込んだ。
痛みに身をかがめながらも、オリビエは目がはなせず、キシュとその周りの男たちを見つめた。多分、これが革命軍なのだ。
軍隊、といえばそう見えなくもない。
しかし、よくよく見れば、衛兵とは違い、背の高いものも低いものも、太ったものもいる。衣装が同じためにかろうじて軍隊に見えるというだけの、市民の集まりであることには変わりないように思えた。
「ズレン、我らが砲撃すれば城壁は崩れる。お前が我らを狙撃しようとすればそれも可能。ここで初めて我らは対等になったわけだな」
パーシーと呼ばれた屈強な男がにやりと笑った。
「もともと俺は平民だからな。俺とあんたの間にはなんの差もない」
く、とパーシーが目を細めた。「バカいうなよ。貴族の犬に成り下がったお前が。才能を皆のためじゃない、自分のためだけに使う阿呆が」
「俺の才能だ、何に使おうと責められるいわれはないな」
「可愛くない、ああ、お前は昔から頭が切れて可愛くない奴だった。両親にはちっとも、似ていないな」
びくりと、ズレンの表情が引きつったのをオリビエも感じた。
お前の両親は、と続けかかったパーシーを無視してズレンは声を張り上げた。
「俺のことはどうでもいい。パーシー。侯爵家に攻め入って何をするつもりなんだ?何を要求する?」
「ふん。すべての農民に固有の農地を。我ら市民に平等な権利を。侯爵の持つ裁判権、租税徴収権、狩猟権、この街に対する権利一切を我ら市民に委ねてもらいたい!我らは我らの選んだ代表が皆のために税を使い、皆のために裁判をすることを求める!」
く、とズレンが笑う。彼らの主張は【エスカル】を髣髴とさせた。エリーを、マルソーを思い出し、オリビエは改めて傍らの青年衛兵を見つめた。

「なあ、パーシー!その思想を広めてくれたのは誰だ?お前たちの仲間か?違うだろう!お前たちより学も金も名誉もある階級。市民の顔をしていながらその懐は貴族より温かく潤い、それでもなお自由と権利を主張する。あんたたちは彼らに利用されているんだぞ」
ズレンの言葉に黒装束の男たちは互いを見合う。市民でありながら、貴族よりも裕福な中産階級。弁護士であったり、司祭であったり。確かに彼らは飢えてはいない。思想を述べ語るには雄弁であっても今この場に身を晒さないずる賢い人々。夜な夜な【子羊亭】では自由と平等の輝かしさを訴え、文字の読めない市民のために新聞を読み聞かせてきた。
「彼らの言葉が真実であるか、あんたたちに判断できるのか」

「だからこそ、なあ、ズレン!お前のような人間が必要なのだ!俺たちの代表としてな。貧しく、飢え、明日生き抜くことすら困難な俺たちには、どの階級の奴らにも負けない根性と頭のある人間が必要なのさ!」
「ズレン、ねえ、戻ってきてよ」
キシュが叫んだ。
ふ、と目を細め、ズレンがオリビエのほうを見た。
見られているとも気付かず、オリビエは少女を見つめる。悲しげに眉をひそめるくせに目を離せずにいる。
ズレンの視線を追い、キシュはオリビエにも声をかけた。
「オリビエ!ねえ、あんたもおいでよ!仲間になろうよ。自由だよ?もう、誰にも命令されないんだよ?」
視界がかすみ、ひどく泣きたい気分になったのは何故だろう。
オリビエはうつむくと城壁から離れた。
立っていると丁度肩まで出るそこから姿を消し、オリビエは足を引きずりながら石段を下りていった。
「オリビエ、いいのか」
ズレンの声に頭上を見上げ、なにを言っていいのか分からなくなったオリビエは黙って首を横に振った。
「パーシー、人を頼るな。俺は衛兵となって生き延びている。お前が酒屋を営むのと同じ。ファリで何が起ころうと、お前たちが何を目指そうと、今は侯爵様のご到着を待つだけだ!攻め入りたいならすればいい。だが、ほしいものは何一つ手に入らないと思え」

次回第十一話は9月1日公開予定です♪
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ゆつきさん~♪

ズレン…いいでしょ?いいんですよ~♪
らんららは彼のファンですから!

うふふ、ここからまだまだ、オリビエの試練は続きます(笑
生きる立場の違い、うむ~描けているのなら、嬉しい♪頑張りますよ~!!!

第十話でした♪

オリビエちゃん、無事だった! 馬にも負けず!(笑)

ビクトールな生き方も素敵だなとか思うのでした。
らんららさん作品は、登場人物の層が厚くて参ります。それぞれの階級、様々な立場。
「水凪の国」からそれはそうだったのですが、ますます練れてきた感が強いのです。

そして、そんないけないズレンをカッコイイと思ってしまいました(笑) キシュの気持ちがわかる……

kazuさん

こんにちは!
地方都市でもいろいろとあるんですよ~!!
ズレン、がんばってるでしょ?
どうするんでしょ~うふふ。

緊迫ムードですからね、来週には続きを~♪
ご期待ください!!

きっ緊迫感が・・・

一触即発の、緊迫した展開。
主要都市ではなく、地方都市での革命の余波。
もう、ドキドキです。

頭の切れるズレンさんが、どうやってこの窮地を乗り切っていくのか。
キシュちゃんに呼びかけられて城壁を離れたオリビエ君は。

早く公爵様が帰還してくれるのを、息を呑みながら待つのです。
それにしてもオリビエ君が、帰ってこられてよかった^^
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