08
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「音の向こうの空」第十一話 ②

第十一話:飼い犬、つながれた鎖の先に



「理由?」
灯が暮れかけた中庭に、松明が灯される。
照らし出されるズレンの表情はいやらしく歪んで見えた。
「侯爵様の姪でいらっしゃる、ソフィリア様、知っているな?」
「え、ああ。リリカ様も、よく遊びに来られる」
クリスマスに雪だるまをねだった、あの幼女だ。
「ご一家は昨夜から行方が分からなかったのだがな。やはり革命軍に捕まっていた」
北の屋敷に住んでいた彼らは、衛兵の死体を残して消えうせていた。
拉致されたのだ。
「それでな、オリビエ。奇特な奴もいるんだな。ソフィリア様ご一家と、お前一人を交換して欲しいといってきた」
「…交換?」
「お前などを手に入れてどうするつもりかは、知らないが」
「それは、ロントーニ男爵が、絡んでいるのか」
ズレンは大げさに肩をすくめる。
「さあな。革命軍がそういってきた。俺もやっとお前のお守から解放される理由が出来た。お前もこの屋敷を出る大義名分が出来たというものだ。自由になってその上感謝されるんだ、光栄に思え」
ズレンに分からないはずはない。男爵が革命軍に指示したのかもしれない。
ぞく、と背筋に冷たいものを感じてオリビエは拳を握り締めた。
「……僕を。追い出すのか」
「ぶ、ははは!オリビエ、追い出す、ときたか!面白いな、お前は。自由になりたかったんだろう?俺の警備が嫌で逃げ出したくせに、追い出すだと?ふざけるなよ、守られて生きてきたお前は一人で行動できないんだ。そうだろう?ここを出て自分の自由を勝ち取る力も勇気もない。以前はだからこそ、従えと言ってきたがな。今日でおしまいだ。好きにしろ。ただし、人質交換までは我らに従ってもらう。その後お前がどうなろうと、何をしようと自由だ。キシュを手に入れてもいいだろう。教会でオルガンを弾いてもいいだろう。男爵のおもちゃになる可能性が一番高いがな」
そうだ。
ズレンはいつも、真実を語る。
自由を夢見て、空を眺めてばかりいた自分を思い、オリビエはため息をついた。
それを手に入れるのかもしれない。
その想像は思ったより楽しめなかった。
何しろ、男爵が背後にいる。
どう考えても、革命軍にとって人質としての僕は役不足だろう。食料を奪い合い争う市民にはどんな思想よりもパンが必要に思えた。キシュがパンのために通っていたように。



人質の交換は夕刻。
それまでオリビエは中庭の陣営で待つことになった。
どこかよそよそしい衛兵たちに遠めに監視されながら、屋内から運ばれた肘掛のついた一つの椅子に座る。下男のモスがトランクに荷物をつめて持ってきた。
「よく分からなかったんで、適当につめました。あの、足りないものやいらないものがあったらおっしゃってくだせえ。楽譜は目に付いたの全部、入れておきました」
「……曲はすべて、侯爵様のものだよ」言いながらオリビエはトランクを開き、無造作に詰め込まれたそれらを引っ張り出した。一つ、あの教会でキシュにあげると約束した曲を残してすべてモスに渡した。
モスの汚れた太い手がそれを恐る恐る受け取る。
「なんて顔、してる。モス、僕も皆と同じになるだけだ。この騒ぎが収まったら町で聖歌を弾く僕に出会えるさ」
「オリビエ様、けんど、あいつらは何するかわからねえ、パン一つで殺しあうんだ」
小さな黒目勝ちの目を何度も瞬く下男に青年はそっと肩を叩いて応える。
「大丈夫。何のために僕を呼ぶのか分からないけど。必要なら殺しはしないさ」
「オリビエ様、お優しいあんたが可哀想だ。代われるもんなら代わってやりてえ」
焦げたパンと同じ色の肌に涙をこぼす。大きななりをしたこの男がとても気の優しいことをオリビエも知っている。
この屋敷の音楽堂に初めて案内された時、暖炉の掃除をしていたモスがオリビエの「こんにちは、初めまして」の緊張した挨拶に振り向いた。大人の癖に十三のオリビエと同じくらい緊張し、「こんな煤だらけで、すまんです」と慌てて顔を拭いた。拭いてももともと黒い肌はそのままで、それでも一生懸命汗と煤をぬぐう男にオリビエは笑った。侯爵家に来て初めて笑ったのが、この出会いだった。
「また会えるよ」
微笑む青年に感極まったモスは抱きつこうとし、ビクトールがその寸前で止めなければいつまでもそばにいただろう。
ビクトールの命令で本来の仕事に戻り、何度も名残惜しそうにこちらを振り返っていた。
息を吐いて、オリビエは傍らに立つビクトールに声をかける。
黙って立っていた侍従長はかける言葉に困っているように思えたから。
「奥様は、どうなさっている?」
「……お部屋で臥せっておられます」
「お元気で、と伝えてください」
「モスと同じ、また会えると伝えてよろしいですか」
「……そうなるよう、努力するよ。ビクトール、奥様のこと、お前が支えればいいんじゃないか」
どう受け取ったのか、ビクトールは大柄な身体を小さく震わせた。
嫌味ではなく、そうしたいならすればいいのだ。オリビエは痛めたほうの足を抱え、行儀の悪い座り方のまま上目遣いでビクトールを見つめる。
「いつまでそばにいられるかなど、分からない時代だよ」
ビクトールには妻がいる、娘もいる。彼らは同じこの敷地に住み、同様に侯爵家に仕えている。よき夫、よき父であるだろう。けれど。
それだけでは納まらない想いがあることは仕方のないことだ。

次へ♪
関連記事
スポンサーサイト

Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。