10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「音の向こうの空」第十一話 ③

第十一話:飼い犬、つながれた鎖の先に




日差しが傾き。
庭の木陰が薄暗い夕闇に沈みかける頃、城壁には松明が焚かれた。
煙にくすんだ青になり、空は湿り気を帯びた雲を広げつつあった。
風が頬に触れ、オリビエは下ろしていた髪を一つに束ねた。

視界の隅、それを待っていたかのように青年衛兵が近づいてきた。腰のサーベルが時代の音のように感じられる。ここ最近で聞きなれた音。青年の歩くリズムを奏でる。ズレンもまた、皮手袋に手を突っ込みながらだ。
目が会うと少しだけ口元を緩ませた。
嬉しいのだろう。
「オリビエ様を連れて来い」そばまでは来ず、近くにいた衛兵に命じるとズレンは踵を返す。距離を縮める気はないようだ。


衛兵たちに導かれ、オリビエは城壁の正面の門に立った。かすかに落ち始めた雨粒に天を仰ぐが、鉛色の空には星も夕焼けもなくかすかに雲が蠢くのが見えるだけだった。
ずん、と重い音と共に、鉄の鎧扉が動き出す。
左右を護りオリビエの肩に置かれた衛兵の手が、なぜか温かく感じられた。離れてしまうのが恐いからかもしれない。

扉の向こう。
松明を灯した黒い装束の革命軍と、見知った顔の若い家族。

背中を押され、オリビエは歩き出しながらもう一度、離れた場所に立つズレンを見つめた。目があったのも一瞬で、厳しい表情を外に向けた青年衛兵に見られてもいないのにオリビエは小さく礼をした。
改めて正面を向き。
幼い少女が、「お兄ちゃん」と声をかけるのにかすかに微笑を返した。
侯爵の姪の家族が無事城門の中に入り、オリビエ一人を残したまま鉄の扉が閉まる。金属の重い音を合図に、オリビエは再び自分を待つ男たちを正面から見た。
黒い装束の彼らは明らかに不満げだ。
「連れて来い」そう命じたパーシーはオリビエと目を合わせることもせず大砲を護る革命軍の兵たちをすり抜けて人垣の奥へと導く。
オリビエの傍らに大柄な腕に刺青のある男が立ち、サーベルで威嚇しながら先へ進めと促した。人々は一様に生気のない視線をオリビエに注ぎ、時折眉をひそめたかと思えば「人質になるのかねぇ」と隣の人間に漏らした。
さあ、と返事が聞こえるかどうか、歩き続けるオリビエには次の好奇の視線が集る。「音楽家だってさ」
「貴族だろ?」
「ほら、侯爵様の……」
中には侯爵家で見かけたメイドの姿もある。目をそらす彼女に二回ほど瞬きをし、オリビエは真っ直ぐ前を向いた。
街の中心をなす大通りを、こんな風に歩くのは初めてだったのかもしれない。子どもの頃学校に通うために毎日歩いたはずなのに。とても同じ場所とは思えなかった。
自分の身長が伸び、目線が変わり、見たくないものすら見えるようになったのだろう。大人になったのだ。
自分で生きていかなくてはならないほど、大人に。



オリビエは市役所の門をくぐり、灰色の建物を見上げた。外からは幾度か見上げた、三階建てのそれは所々配した黒い石の彫刻が出入りする市民を見下ろしている。
数段の階段を抜ける間に、周囲にいた革命軍たちが集ってくる。オリビエを見ようというのだろう。自然と出来上がった人の垣根をオリビエと、それを導くパーシーが進んでいく。これが教会なら葬列のようだと、自らに花を手向ける気分のオリビエは痺れるほど握り締めていた手を離し、トランクを持ち替えた。片足を引きずる様子に気付いて、脇を歩く男がトランクを取り上げようとする。
「あ」
放すまいと力を込めるが、どんと腕を殴られて上質なトランクがガタと音を立てて床に落ちた。
「あたしが預かるよ」

キシュだった。
ただ一人。オリビエに笑みを向けた。
「オリビエちゃん、いらっしゃい。これ、あたしが預かっていてあげるから」
とん、と座っていたテーブルから降りた少女が駆け寄ってくる前に、オリビエはトランクを置いた。手を離す。
一歩下がる。

少女と目があったとき再び背後の男に背を押され、オリビエは歩き出した。
キシュが背中を見送ってくれているような気がしていた。



二階へと連れられ、市長の部屋らしい立派な場所にたどり着く。

そこには。
やはり、ロントーニ男爵が座って待ち構えていた。
傍らに立つリトーの、頬に残る傷が痛々しい。

「男爵、連れてきました。本当にこれで、侯爵は我らの要求を呑むのでしょうね?」
パーシーの口調は懐疑に満ちていた。そうだろう、どう考えても、侯爵の姪一家のほうが人質としては役立ちそうだ。
「こんな楽士に、本当に侯爵は全てを投げ出すのですか」
室内にいた数名の男たちは厳しい表情を崩さない。オリビエをサーベルで脅していた男は相変わらずすぐ後ろに立ち、オリビエが周囲を振り返ろうとするとサーベルの柄で背中を突いた。
「パーシー、言っただろう?リツァルト侯爵はオリビエに御執心だ。あのズレンに直接警備させるほどだ」
「その割りに、ズレンはあっさり交換に応じましたがね。まあ、いいでしょう。男爵、お約束どおり、市民に食料を分けてくださるのですね」
「街への入り口、ラティエル川の橋の向こうに用意させてある。荷馬車五つ分の小麦だ。侯爵家の食糧庫ほどではないが。あそこの食糧はどうした」
パーシーは肩をすくめた。
「すでに分け与えてなくなりましたよ」
「ふん、まあいい。パーシー、早めに引き取りに行ってもらえないかな、リンスの町から運んできた我が衛兵たちもいつまでも待っていられないのでな。せっかくの食糧を夜盗などに取られては目も当てられん」
パーシーはオリビエの背後の男にしっかり見張っておけと命令すると、部屋を出ていった。

「オリビエ、座りなさい」


次へ♪
関連記事
スポンサーサイト

Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。