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「音の向こうの空」第十二話 ①

再び男爵の手に落ちたオリビエ。革命の夜を迎えるエスファンテ。ズレンは…

第十二話:マリアの虚像


侯爵家では静まり返った晩餐が催されていた。普段より数倍質素な夕食に、ナイフの音も淋しく響く。そこへ、ルグラン市長が駆け込んできた。
ビクトールに果物をもらっていたアンナ夫人が顔を上げる。

「あ、ああ、公爵夫人、失礼しました」

普段なら、騒がしいと怒りを露にするアンナ夫人も今は黙って市長を見つめている。
「いいのよ、何かあったの?オリビエの様子が分かったの?」

青年の名を出すとただでさえ泣きはらした声がさらに切なく震える。

「伯母様」オリビエが連れ去られたことでひどく悲しむ夫人に、幾度も謝罪を繰り返していた姪のソフィリアがアンナ夫人の乱れたショールを直し、そっと肩を抱いた。
「ええ、ええ、大丈夫よ、ソフィリア。あの子には可哀想なことをしたわ。早く侯爵様がお戻りになって、あの子を助け出してくださることを願うしか……」

「市長、なにがあったのかね」待ちきれずに貴族の一人が立ち上がる。
息を切らしていたルグラン市長は、一気に飲み干したグラスをテーブルに置き、続けた。

「裁判所で市民と革命軍が争っているんです!奴らは飢えて、とうとう仲間割れを始めましたぞ!」
どよめきは幾分歓喜の色が混じる。

「だとすれば、勝手に自滅してくれるのか」
「ズレンはどうしているんだ」
「空が赤いが、どこか燃えているのかね」

皆、口々に好き勝手なことを話すが誰一人部屋を出ようとしない。
アンナ夫人が立ち上がった。

「私、ズレンと話してきますわ」

この屋敷の女主人として、アンナ夫人は貴族たちに見送られ中庭へと向かう。そこに陣を構える衛兵たちに、ことの様子を確認するのだ。

「危険です、私が代わりに」とビクトールが止めようとしても、夫人はその手を振り払う。

「オリビエが危険な思いをしているというのに、これしきのことでなにを言うのですか!私はこの屋敷を、侯爵様のお留守を護る義務があります。ああ、嘆き臥せっていた自分が情けないわ!」


中庭への数段の階段を降りると、すぐ脇の植え込みから先に衛兵たちが並んでいた。
整列する彼らは、正面の一段高い花壇に立つ青年を見つめている。

「良いか、我らは侯爵様の命により、市民を革命軍から護る。今こそ、このエスファンテに我ら衛兵が必要であることを知らしめるのだ。我らが誰のためにあり、誰のために命を懸けるのか。我らの親兄弟、親しき友人に衛兵たる生き様を見せようではないか!我らの主、リツァルト侯爵様は市民を護る武力行使を認めてくださる。市民を騙し、翻弄する革命軍とやらを今こそ追い払うのだ!」

ズレン・ダンヤの声は夜風に通り、松明に照らされる兵たちは一様に熱い尊敬を連隊長に向けている。
「市民のために!」
総勢五百名ほどの衛兵がいっせいに剣を天に向けた。
「我が、エスファンテのために!」
ズレンがサーベルをかかげ、正門へと振りかざす。

おおーっ!

腹のそこから湧き出す兵たちの叫び声。正門を開くと、騎兵が先陣を切る。歩兵のうち百名ほどが侯爵家の前に集っていた市民を呼び寄せ、中庭に引き入れる。

「屋敷内に入れるとは!」ビクトールが慌てて止めようとするが、アンナ夫人がそれを制した。
「私が行きます」


衛兵がこちらで手当てを、と傷ついた親子を侯爵家の前庭に引き入れた。まだ若い母親は裸足のまま怪我をした腕で幼い子供を抱きかかえていた。
飢えのためか子供は泣き叫ぶ。

衛兵の一人が「静にせんか」と怒鳴るが意味を成さない。母親は何とかなだめようとするが、怪我をした腕では支えるのが精一杯だ。
辺りは避難してきた市民が溢れ帰り、徐々に居場所を失って、親子は庭の隅へと流されていく。屋敷の正面の石段の下で水と食糧の配布が始まったために、求める人並みはそこに集り、ここでも弱きものははじき出される。

「大丈夫、私が預かるわ、さあ、お前は手当てを受けなさい」
白い手が幼い赤ん坊を抱き上げた。
「!アンナ様」
転びかけた母親をビクトールが支えた。
「さあ、こっちです」
夫人は赤ん坊をあやし、抱き上げたまま屋敷のエントランスの上に立った。


大理石の両脇の柱にランプが灯されている。そこは舞台の様に明るい。オリビエを哀れんでいつもの緋色ではないことが功を奏し、純白のドレスのアンナ夫人は女神のように見えた。抱きかかえる幼子はさながら天使。見とれないものはないほどに美しい。

「幼きものを泣かしてはなりません!ここでは弱いものが護られるのです。弱いものを押しのける力があるなら、衛兵たちと共に戦ってきなさい!ここは弱きもの、女たちと子供、けが人を護る場所です。働けるものは力を貸しなさい」

静まり返ったなか、アンナ夫人の抱く幼子がふあ、と泣き出す。
「ああ、ごめんなさい、お前が悪いのではないのよ」
慌てる夫人の姿に見つめる皆が笑みを漏らす。

「さあ、順番だよ、小さい子供のいる人を前に」衛兵たちに市民は大人しく従った。
幼子を抱える母親を周囲の人が助ける。衛兵に手を引かれ、パンをもらうと子供はありがとうと微笑んだ。

「素敵ね、感動的だわ。我が衛兵は誇らしいわね」
傍らでしきりと感動し、屋敷に隠れている貴族たちにも協力させましょうと言い出すアンナ夫人をビクトールはそっと見守る。誇らしいのはあなたです、と小さくつぶやいたのはアンナの抱きかかえる子供にだけ届いていた。振り返って首をかしげる幼子に、ビクトールは笑いかけた。

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