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「音の向こうの空」第十二話 ③

第十二話:マリアの虚像


オリビエの助けを呼ぶ声に、すぐさま二つのランプが近づいてきた。
外套を羽織った男爵と御者。二人にリトーがケガを、と話しかけたときだ。
膝に抱えていた女が、むくと起き上がった。
「あ、リトー、大丈夫…」
その手に、短剣。ランプの明かりにチカリと輝き。

「オリビエ!」

かろうじて左腕でとどめた女の腕を、駆けつけた男爵がつかむ。そのままリトーを引き離すと蹴りつけた。
リトーは暗がりに転がった。
「男爵、リトーはケガをしています!」

さらに暴力を振るおうとする勢いの男爵を引き止めると、男は振り返りオリビエに抱きついてくる。
「オリビエ、お前は無事か、怪我はないか」
御者が立ち尽くし照らす中、必死の形相の男爵は嬉しそうにオリビエの顔を確認する。
「男爵…」

暗がりからだ。
「こちらを、私を見てください!」

吼えるような声だった。御者が、ひ、と小さく悲鳴を上げた。
リトーは泥と血にまみれ、獣のようにぎらぎらとした瞳を男爵に向けていた。

「うるさい、オリビエを殺そうとするなど、許さんぞ!ばか者が!」
オリビエの額に張り付いた髪をなでる男爵は、声を荒げリトーを罵倒した。

「お前とは生まれも血筋も違うのだ!汚らわしい!お前など辛うじて女であるだけ。お前がマリアの真似をするたびに吐き気がする!バカの一つ覚えとはこのことだな、歌いさえすれば喜ばれると信じ込む…」

聞くに堪えない言葉の数々に、オリビエは「止めてください」と男爵を突き放そうとする。

が、固まったように男爵は動かない。重みに目を見張り、風と違う生き物の吐息を感じて視線を上げれば、目前にリトーの血にぬれた顔があった。

ひ、と声を上げかけ、気付いた。

男爵はずしりとオリビエに倒れ掛かり、動かない手が土に転がる。
「私を、見て…私を」
つぶやくリトーは抱きつくように男爵に覆いかぶさり、その下にいるオリビエには生暖かい血が滴る。

「う、うわぁ!!」
這うようにそこを抜け出す。

「人殺しだ!男爵様を」御者が叫び、たった一つの明かりを持って逃げ出した。

「ま、待って、おい!」
オリビエの声は震えて届かない。

すぐに暗がりに放り出され、かすかに聞こえるリトーのつぶやき以外、生き物の存在が分からない。
男爵は、生きているのか。今、今助ければ、もしかしたら。
そう思うのだが、足が動かない。座り込んだ身体は麦に絡みつき、泥に埋まる。どうしたらいい、どうしたらいいんだ。
遠く、馬車が走り出す音。御者は一人で逃げ出したのだ。

ここに、オリビエと獣と化したリトーを残して。

かすかな声が聞こえた。
いつのまにか雨は止んでいた。
聞き覚えのある声はかすれていたが、聖歌を。母の声で、喜びの歌を歌っていた。

か細い声。

それは小さくなり、次第に小さな唸り声になり。

唐突に止んだ。

「リトー…?リトー?」

オリビエは勇気を振り絞り、ゆっくりと這い進む。


遠く、からからと車輪の音。
それは増えていく。
オリビエが街道のある方角を眺めると、数台の馬車が停まった。松明が灯されたのだ、凶暴な明かりが照らし出した。
大柄な黒い装束の男たち。
革命軍、だ。

ああ、そういえば小麦を受け取りに行ったのだ。
「オリビエちゃん!」聞き覚えのある声。
駆け寄ろうとする赤毛の少女を、男の一人が引きとめた。
「だめだ、見ちゃいけない」

そう、見ちゃいけない。
こんな。

パーシーの手がオリビエの肩を支えると同時に、二人の重なり合う死体が彼らの目に入った。男たちが、ああ、と気味悪そうにそれを眺めていた。

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