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「音の向こうの空」第十三話①

第十三話:夜に浸る空


じり、と夏の虫が鳴いたような気がした。
オリビエが目覚めるのは、いつも何かしら耳に響く音。
敏感な耳を持つせいか、夜更かしした今日も日の出と共に目覚める夏の虫たちに揺り起こされる。心地よいそれをベッドの中で聞き入り、気付けばまた指は勝手に奏でている。
鳥の声、早朝から働く下男たちの生活の音。日々の、当たり前にあった音たち。

昨夜までのことが嘘のように、穏やかな気分でオリビエは伸びをする。
ロントーニ男爵の最期も革命軍の人質となったあの瞬間も、過ぎた今となってはページを開く日記に似て、閉じたければ閉じられる存在になっている。
確かに時間がたち、その間に失われたものもあったのだろうが。

今、侯爵家で目覚めたオリビエにはそれはまだ身近ではない。


階下に下りていくと、大広間は避難した貴族たちがにぎわい、朝食を食べていた。
ちらりとのぞいたものの、その一員となることに多少の抵抗を感じたオリビエはキシュに会いたいとまず、ズレンに面会の許可を得ようと姿を探す。
建物内には見当たらず、正面玄関に出ると、そこには整列した第三連隊とその主、ズレン・ダンヤがいた。
オリビエが母屋の玄関から顔を出すと、数名の衛兵が気付き、こちらにちらと視線を送るが、上司であるズレンは知らん振りを決め込んでいるようだ。
オリビエはそれなら、と、そばに立つ衛兵にキシュたち革命軍の居所を聞こうとする。

「もうすぐ、侯爵様がお帰りです」
衛兵はオリビエの質問を無視してだから放っておいてくれといわんばかりの態度。
侯爵様が。
「オリビエ!」
声と共に駆け寄る気配。アンナ夫人を想像し振り返ると同時に抱きつかれるのを覚悟する。
「オリビエ!良くぞ無事で!」
「アンナ様」
予想とちがった夫人はオリビエの手を両手で取ると、蒼い瞳に涙を浮かべた。普段のどこか乱れた服装でない、きちんと閉じられた襟元、見たこともないくらい堅く結った髪。清楚という言葉をはじめて褒め言葉として心に浮かべたオリビエは夫人に何かあったのだと目を細めた。
この一夜はやはりどこか革命だった。

「心配したのよ、お前一人に危険を背負わせることになって、どれほどつらかったことか」
うつむく夫人はいつもより小さく見えた。
その向こう、いつも通りのビクトールに眼を向け、ビクトールが満足そうに微笑んでいるのを確認するとオリビエは夫人の手をぎゅっと握り返す。
「大丈夫ですよ、アンナ様。危機は去りました。こうして、侯爵様をお迎えできるのですから、お顔を上げて笑ってください」
「あ、あら。私泣いたりなんか、していないわ」
急に以前の口調に戻る。
「侯爵様のお気持ちが分かるような気がします」
ビクトールと同じ、リツァルト侯爵もまた十代で嫁いだ夫人を知っている。こうしたアンナ夫人の性格を可愛らしく受け止めるのだろう。


数刻の後、リツァルト侯爵の一団が静かに到着した。衛兵たちは整列し敬礼で迎え、その中心でズレンが侯爵に挨拶する。
侯爵は以前と変わらず悠然とした態度で「良くぞお戻りくださいました、心よりお待ち申し上げておりました」と告げる青年衛兵に頷いて見せた。
オリビエの立つ場所からは聞こえなかったが、いくつかズレンに指示をし、侯爵がその後に駆け寄ったアンナ夫人を抱きしめたときには、第三連隊の衛兵たちは侯爵の警護を終え帰還した仲間の衛兵と再会を喜び合っていた。
連隊長の中で最年少のズレンは迎えた二人の隊長に報告し互いに無事を喜び合う。年長の連隊長にからかわれ笑うズレンを見ると不思議な気分になる。あのズレンでも子供のように笑うのだ。声を上げて。
匿われていた貴族たちが侯爵を囲み、口々に讃えその人並みを掻き分けるように進む先に、避難していた市民。彼らはエントランスの床に座り込み深く頭を垂れていた。

侯爵が見回し、傍らに立つアンナ夫人がそばにいた母子を立ち上がらせた。「ありがとうございます」口々に神に祈るようにしていた市民を侯爵は穏やかに見つめ、すぐに裁判所跡に貧民救済の施設を作らせると語った。
そうして、エントランスの円柱の両脇に使用人たちと共に控えるオリビエを。侯爵は見つけた。
目が会って、オリビエは礼をする。
どんな表情をしていいのか、喜ばしいことではあるが余りに露骨なのも可笑しいかもしれない、青年が迷ううちに目の前に侯爵の靴が見える。名を呼ぶ声に顔を上げれば、いつものように肩に両手を置かれ、見下ろされていた。
そして、いつものように、無表情。
「昼前に音楽堂に行く。準備しておきなさい」
それだけ言うと侯爵は肩に手の感触だけを残して屋敷の奥へと向かう。わずかに、アンナ夫人がオリビエを振り返っただけだった。

ルグラン市長とは堅い握手をしていた。涙ぐむ貴族の肩を侯爵は叩いてやっていた。ズレンは何かしらねぎらわれた様子。侯爵が声をかけたものは皆笑顔になったのに、なぜかオリビエだけは言いようのない寂しさに駆られていた。

自分を護ろうとしてくれた、と思う。ズレンをあてがって、革命軍、いや男爵から護ろうとしてくれた。理由も分からないが、多分、大事にされているのだと。そう思っていた。だから、出迎え、久しぶりに会う侯爵に感謝し笑顔を向けるべきだったのかもしれない。
自分が、どんな顔をしていたのか、オリビエには自信がなかった。

ここしばらくオリビエを苦しめていた不可解なことの多くに侯爵は関わり、その理由は侯爵しか知らない。だから、会えたのだから、それが解き明かされるのだ。
両親の死の真相。男爵との確執。アンナ夫人の気にするオリビエと侯爵との関係。侯爵がオリビエに何を求めているのか。何故、そばに置きたがるのか、大切にしてくれるのか。

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