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「音の向こうの空」第十三話 ⑦

第十三話:夜に浸る空



外で待っていたモスはオリビエを見るなり駆け寄ってきた。
「オリビエ坊ちゃま!」
「帰ろう、モス。……侯爵様が、待ってる」
抱きしめられ、「何があったのですか」と問われても。オリビエは黙って首を振るばかりだった。



お前には音楽がある。たった一つ大切にするものがある。それは立派な思想だ。それがあればお前は幸せなんだ。
マルソーの言葉が脳裏を駆けていた。

マルソー、幸せってなんだろう。
分からないよ。

僕の奏でる音楽で、誰かが幸せになってくれたらと思った。
それは出来るかもしれない。
でも、僕は。今は、キシュのそばにいたい。抱きしめたい。
あの声、笑顔。つんとして、生意気なことを言った。でもそれはいつも真実で、僕は彼女が眩しかった。
音楽のために僕は人を愛する資格はないと想った。だけど。そういうのではなくて。
もう、好きになっていた。
アネリアを傷つけたくせに。不幸にしたくせに。このまま、もしキシュと結ばれても、やっぱり彼女を不幸にしたのかもしれないのに。
分かっているのに。
僕には、音楽しかないことを。
知っていたのに。手に入れようとした。空を飛ぼうとした。

でも。僕にはそんな力はなかった。


屋敷に戻ったオリビエは、すぐに音楽堂にこもった。
モスは心配そうにそばにいたが、ビクトールに呼び出され馬車の整備のために出て行った。入れ替わりに残ったビクトールは、いつにもまして入り込んで奏でる青年をしばらく見ていたが、話しかけるタイミングがないと理解したようで、「オリビエ様、私もご一緒します」と声をかけ、音楽堂を出て行った。
それもオリビエには聞こえていなかった。
無心にチェンバロを弾き、零れ落ちそうな気持ちを音に替えることに夢中になっていた。それは、夜半に侯爵が尋ねたときも同じ。普段なら気付き、視線の一つも合わせようものなのに、オリビエはこのときばかりは誰の存在も認めようとしなかった。

静かに自分のイスに座り、侯爵は背を預ける。眼を閉じ、オリビエの悲しみを受け止めるかのようにじっとしていた。

抗いようのない時代の流れに、諦めることなく生き抜くのは困難だ。苦渋の決断であったに違いない亡命も。侯爵は誰にも愚痴一つこぼさなかった。
ただ、この時の青年の演奏は堅く閉ざした心の扉をも揺るがすほど切ない。涙こそ流れないが、青年が泣いているのは明白だった。音の悲しみに触れ、侯爵も瞑目しつつも強く拳を握り締めていた。


どれほどの時間が流れたのか。ふと耳に入る鳥の声にオリビエは手を止めた。
いや、演奏していたのか眠り込んでいたのかも分からなかった。
いつのまにか肩には侯爵の上着がかけられていた。そちらを見れば侯爵は椅子の肘掛にもたれるように眠っていた。
いつの間に、とオリビエはぼんやりする頭で思い出そうとしたが、分からない。
「侯爵様」声をかけようとしてひどくおかしな声であることに自身驚き、思わず口元を手で押さえた。
泣いていたのか。
朝日が差し込む窓辺に立って、硝子に映る自分を確認しようとするが。よく分からず、けだるい目は自分などより外の朝焼けの空を求めてそちらに見入る。

庭の木々を縁取る白い空。かすかに地平に近づくにつれ眩しさが増し、夜に浸され涙に洗い流されて、美しく生まれかわった空だと思えた。

ああ、綺麗だな。

一筋、涙がこぼれた。

「おはよう」

振り向けば、侯爵が悠然と伸びをしていた。
「今日、発つぞ。よいな」

オリビエは侯爵の視線を受けて、真っ直ぐ見つめ返した。
「はい」

オリビエが生まれ育った街、エスファンテを去る決心をした瞬間だった。

次回第十四話:「亡命」は10月13日公開です♪
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ゆつき嬢~♪

あけましておめでとうございます!!
辺境までお越しいただいて嬉しいです!!
久しぶりに野いちごをのぞいたら、ものすご~くたくさん新作♪嬉しい♪
読者として通わせていただきますよ!

キシュは、うん。まあ、こうなりました。私もどちらかというと惚れるならズレン…。
でも大切にしてくれそうなのはオリビエちゃんだけど。そこがね、うまく選べないのよね~(笑)

今年もマイペースで書き続けますよ♪
よろしくお願いします!
(ミクシに向かったのだけど、迷ってしまった…おかしいなぁ。ということで、ここでご挨拶にさせていただきますね♪)

キシュ~

それでもズレンが好きなのね……と、ちょっと悲しくなりました。うん、でもわかる……けど。オリビエちゃんの為にはここで別れた方が、とか、うだうだすべてが丸く収まる方向に考えてしまいます。

侯爵が最高の謎! 一人で何もかも考えて抱えて、アンナ夫人もオリビエも守ろうとしてる――? 
のかどうか、も疑惑なのですが。

2008年もらんららさんに楽しませていただきました♪ 描かれる世界にもですが、この世との向き合い方もカッコイイと思っていますです。今年もぜひ♪ よろしくしてやってください。ではは。

藤宮さん♪

わ~!!ここまで!?ありがとうございます!
いつか自分の空を…。うん。いろいろと成長してもらわなきゃならないですが。オリビエくん、がんばりますよ~♪
おお、拍手は藤宮さんでしたか!?嬉しいです!ありがとうございます!
今日こそは昼休みに「地上」めざして舞い降りるつもり♪楽しみ~!

切ないです…

やっと、更新分まで追い付きました~。

もう、なんだか切なくて、ちょっと悲しいです…。
革命によって、皆それぞれが別の道を歩むことになるのですね。
オリビエ君はいつか、自分の空を飛ぶことができるのでしょうか。

亡命…、一体その先に何が待ち受けているのか、楽しみにしています。

いつものようにこっそりと、応援しています♪

kazuさん♪

いつもありがとうございます!!!
ほんと、嬉しい(><。)
侯爵様、いい人でしょ?らんららの一押しなのですよ~!何も言わないけど、皆を支えてくれている。
これから、亡命のための旅、です。
これまで旅のシーンは何度か描いていますが。今回は一応モデルがありますからね。地理とか気候、いい加減なものはかけないとプレッシャーがあったりします。地図上の距離を測って、馬の速度とか計算したりして。経由する町の歴史や、そこを治める人たち、それぞれの土地の風景。次の一話を描くのに、随分と準備が必要でした(^_^;)
納得のいくシーンになっているといいなぁ~と祈りつつ。頑張ります!

革命の余波が過ぎ去って、そして新たな革命のきっかけがエスファンテから始まる。。。
侯爵様が、とても好きになりました。
それだけに、国を思い民を思い、そして自身の家族も守ろうとする侯爵様がとても大変そうで・・・
アンナ夫人は、きっと初めてやるべきことを見つけたというか、自分の居場所が分かったというか・・・。
以前のビクトールさんの言葉に、今なら素直に頷けそうです。

キシュちゃんの態度、シューレンさんの態度。
もう・・・胸が痛い。

オリビエくんは、侯爵様達と共に旅立つのですね。
亡命。
その先に幸せが待っていて欲しい、切に願うかずです。

続き、楽しみにしています^^
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