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「音の向こうの空」第十四話 ③

第十四話:亡命


オリビエたちもそちらに行こうとし、「危ないですよ」と先ほどの少女に引き止められた。
「あれは?」
オリビエにとわれ、少女は目をそらした。
替わりに傍らにいた少年が腕組みをしたまま応える。
「この村の自警団だよ。農産物を盗む夜盗や、浮浪民が増えているから、あんなふうに武装しているのさ」
まだ十二、三と思われる少年はやけに大人びた口調で語った。
「国境の村だから、侯爵様がここにいる理由が分からないんだ。だから、不安がって理由を説明しろとでも言っているんだと思う」
オリビエは少年の頬にスープの雫がついているのを拭いてやる。
「!」
「詳しいね、君は?」
少年は子ども扱いされた気分なのか口を尖らせ、「僕はヨウ・フラ。侯爵様と同じで国境を越えるつもりなんだ。ここには昨日、衛兵の先発隊と一緒に到着した」と胸をそらせた。

「ふうん。リツァルト侯爵に雇われたのかい?」
「違うよ、途中までは侯爵様のお荷物番として同行するけど。向こうに着いたら自由だから」
旅の間の人足なのだろうか。それにしても訛りが違う。
「ヨウはどこから来たんだい?」
「……あんたさ。有名な音楽家なんだろう?」
逆に問われ、オリビエは首をかしげる。

「ごまかすなよ、オリビエ様って呼ばれていただろ。マルソーさんが言ってた。エスファンテには音楽の神に愛された男がいるって」
そうか、この訛りはファリのものだ。シの音がスェに変わって聞こえる。
「マルソーに会ったのかい?知り合いなのか?彼は元気だったかい?」
ヨウ・フラはかすかに鼻息を吐き出し、オリビエを無視すると目の前を横切っていく影に視線を移した。その先には青年衛兵。
濃紺の上着に赤いスカーフが揺れる。真っ白なシャツと金のボタン。肩の徽章が日差しを弾いた。
少年の視線を奪うには十分、凛々しい。
「ズレン…」

連隊長が歩けば、衛兵たちは道を空けた。ズレンはそばにいた部下に腰のサーベルを手渡すと、真っ直ぐ門の外に集る農民たちに向かっていった。
両手を開いて武器がないことを見せながら。

「私はエスファンテ衛兵第三連隊、隊長、ズレン・ダンヤだ。エスファンテの人民に銃を向けるつもりはない。お前たちはなにを知りたいと言うのか、落ち着いて話を聞かせて欲しい」

まだ若い青年衛兵に眉をひそめた男たちだが、その代表らしき一人は持っていた銃をズレンに習って傍らの男に預け、改めてズレンを直視した。
「あっしらは、聞いたんです。噂ではファリから逃げ出した貴族たちが、アウスタリアに寝返って、あっしらの村に攻めてくると」
静まり返った邸内にその男の声は響いた。

「この国から貴族を追い出したのはファリの人間たちだ、あっしらじゃない。けど、攻め込まれて被害を受けるのはあっしらなんだ!侯爵様がもしおいでになるなら、何のためにここにいるのか、国境を越えるのか、聞かせて欲しい」
「聞いてどうする?侯爵様の目的によっては我らを阻もうとでも言うのか」
ズレンは腕を組んでにらみつけた。
「侯爵様は我らエスファンテの人民のために身を引かれるのだ、それをお前たちがどうしようというのだ」
「無責任だ!」誰かが叫んだ。
「侯爵様はあっしらを見捨てなさった。これまで税を納め、皆従ってきただ、それを逃げ出すだか!」
「あっしらはどうなる!」

男たちは持っていた鎌やこん棒で門の柱をがつがつと叩いた。古い城壁はつつかれるたび、土煙を上げる。ぐずぐずと崩れるそれはこの土地の未来を表すようで、オリビエは背筋を寒くした。

この小さな街、エスファンテですら市街と郊外では意識が違う。革命軍や街のブルジョアが政治を行うことに賛成しているわけでもない。それなのに侯爵に逃げ出されては見捨てられる孤児同然だ。
彼らの言い分はもっともだった。

「代表を送りなさい」
ズレンの背後から、侯爵が歩いてきた。
そばにいる衛兵が、「閣下、危険です」ととどめようとし、いつのまにかオリビエのそばからいなくなっていたビクトールも侯爵の脇で控えている。
「よい。この地の自警団の代表か。これからエスファンテは人民が議会を持ち自ら政治を行う。代表を送ればお前たちの意見も汲み取られるだろう。いずれにしろ、国境は重要な拠点となる。ここにいる衛兵が護ることになるだろうし、今ここで争うのは双方得にはならん。そうではないかな」

侯爵の悠然とした姿に農夫たちはしり込みしたのか、互いに見合わせる。結局は代表の男に皆が従う姿勢を見せ、男は「けど、アウスタリアが攻めてきたらあっしらは」と侯爵を見つめる。

侯爵は傍らに立ったズレンに、声をかけた。
「ズレン、お前ならこの土地をどうする」
これからエスファンテに残る衛兵たちは、市民のために働くことになる。ズレンをはじめとする連隊長の任は重くなる。
問われた青年は目を細めて見せた。

「すでに自警団が必要なほどこの地の治安は悪化しています。エスファンテだけでなく、国全体として国境は重要になって来るでしょう。当面、我がエスファンテ衛兵は治安維持に奔走することになりますが、この地にもそれ相当の部隊を派遣することになります。この地に住む彼らが協力してくれればありがたいのですが」
ズレンの視線を受け、自警団の男は戸惑った。「あっしらは、農夫の寄せ集めです」
「それでも、この地に詳しいお前たちは、貴重な人材だ。協力して欲しい」
ズレンが笑いかければ、男たちは手にしていた武器を下ろした。

侯爵はズレンの肩を叩き、農民たちに示した。
「これまでもエスファンテを護ってきたのは、彼らエスファンテ衛兵だ。私一人いなくなったところで兵の一人も失うものではない」
農夫の男たちはズレンを見つめていた。
すでに彼らの中で従うべき存在は、貴族から武力へと移っているのかも知れない。侯爵が財産も衛兵も抱えたまま逃れようとすれば、衝突は避けられなかっただろう。

「あの人、若いのに堂々としているな」
オリビエの隣でヨウ・フラと名乗った少年がつぶやいた。
独り言もオリビエの耳には届く。
「ズレン・ダンヤ。連隊長なんだよ。何を考えているか分からないところがあるけど」
「あんたの友達なのか?」
ヨウ・フラの口調は先ほどよりずっと子供らしくなっていた。
「…分からない」
そう応えたオリビエに肩をすくめて見せ、ヨウ・フラはズレンに駆け寄っていった。騎士の青年は立派に見えるのだろう。目を輝かせてズレンに語りかける少年をオリビエは眩しそうに見ていた。
「オリビエ、ついて来なさい」
すっかり冷めたスープの皿を相変わらず持ったままであることに気付き、「後は私が。さ、どうぞ」と手を出したビクトールに渡した。その背後に立つ侯爵は一頭の馬を引いていた。

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