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「音の向こうの空」第十四話 ④

第十四話:亡命



馬の背は何回目だろう。
侯爵はやはりしがみつくことになっているオリビエを女のようだとは笑わなかった。
堂々とした騎乗の姿はかつて軍人だったという侯爵の経歴を髣髴とさせた。今は軽装ながらも腰にサーベル。それは馬が揺れるたびオリビエの足元をカチカチとつつき、嫌でも存在を意識せずにはいられなかった。
後ろからついて来るズレンはこれまたなぜか先ほどの少年を連れ、二頭の馬は暗い森を駆け抜け小さな礼拝堂へとたどり着いた。

「侯爵様、日暮れまで時間があるとはいえ、明日は早い御発ちです。警備の面でも心配ですので、あまり長居は出来ません」ズレンはオリビエが馬から降りるのを手伝いながら声をかける。

侯爵は「ふん、堅いことを言うな。お前もそれを連れてきているではないか」と取り合わない。自警団はなだめたものの、夜盗や浮浪民がいるというこの地は決して安楽な場所ではなかった。それをズレンは訴えてみたものの、
「だが、ズレン。今のわしに、安楽の地などない」
侯爵にそう言い切られては、ズレンも思いとどまらせることが出来なかった。

オリビエの曲を聴くために侯爵はこの地に唯一楽器のある礼拝堂へと向かったのだ。ズレンに食いついてきた少年も、オリビエの音楽を聴いてみたいと言い張ったのだ。

古ぼけた無人の礼拝堂。扉には盗難を防ぐための錠がかけられていた。先ほどの自警団に借り受けた鍵でズレンが開く。重苦しい扉の音とともに暗がりが広がる。ほこりが舞い上がる中、窓からさす陽光はすでに山の斜面に遮られるのか想像以上に暗かった。
ヨウ・フラは一歩下がり、怯えた様に見える。
「大丈夫だよ」
オリビエが少年の肩に手を置けば、「別に。平気さ、なんだよ。大丈夫ってさ」と乱暴に手を振りほどいてみせる。侯爵がかすかに眉を寄せた。
「ヨウ・フラ、オリビエに怪我をさせるのは許さんぞ」
「うへ」おかしな声をだし、ヨウ・フラは逃げるようにズレンの後ろに隠れた。
「侯爵様のおっしゃるとおりだ。下手なことをするなよ」
ズレンにちらりと見つめられオリビエは視線をそらす。

ズレンとヨウ・フラは礼拝堂内にランプを灯した。
三つの揺れる明かりの中、オリビエは埃を被ったオルガンを開く。古い型のものだが、鍵盤を確かめれば、それは確かに音を出した。

オリビエがすべての音を確かめ、ふと息を吐いて手を止めたときには、侯爵は礼拝用のベンチに座り、その背後にズレンと少年が立っていた。暗がりに立つ彼らをちらりと眺め。これほど不可思議な取り合わせも珍しいとオリビエはこの状況を面白く感じていた。

衛兵であるズレンだが、侯爵と共に音楽を聴いたことはないだろうし、ヨウ・フラという少年も、階級など気にもしない様子で時折公爵にも乱雑な言葉を使った。
それにも腹を立てることをせず、侯爵はただ悠然としている。
こうして、こんな風に教会のオルガンを彼らに聞かせるなど、想像もしなかった。

軽い春の曲から入ったものの、オリビエは次第に物思いにふけるように音色の深みに足を踏み入れていく。
ランプの明かりの向こう、天井には薄汚れたステンドグラスが見える。聖母が微笑み、花を抱き。鳥が空を飛ぶ。
静かな山間の村落に久しぶりにオルガンの音が響いた。


窓を抜ける日差しがさらに細くなり、オリビエから見えるステンドグラスが完全に日陰になった。その最後の光の瞬きを確認すると、オリビエはそっと演奏を終えた。

「もう少し、弾きましょうか」
オリビエの問いに、侯爵は黙っていたが静かに立ち上がった。
それはいつものことで、もう十分堪能したという意味なのだとオリビエは勝手に解釈している。
「あ、終わり?」
ヨウ・フラは夢から覚めたような顔をしている。ズレンに肩を叩かれ、なんだ、そうか、と一人納得したような声を上げて三方にすえたランプを回収し始めた。

「向こうでは、フォルテピアノが盛んだという。気に入ったものを用意させよう」
侯爵はオリビエの手を取り、しげしげと眺める。
時々こういうことをする。音を奏でるその手が不思議なのだろう。同じことを彼の姪の娘リリカがして見せたことがあった。

「ありがとうございます。フォルテピアノは一度、ロスレアン公のお屋敷で触れたことがあります。清んだ美しい音色でした」
「そうだな。ヴィエンヌはファリにも劣らぬ帝都。よい楽器にも出会えるだろう」
その想像はオリビエの心を軽くした。まだ見ぬ音楽の都、ヴィエンヌ。
現皇帝は音楽が好きで国立皇室室内楽団や芸術院、歌劇団などがある。かの有名なヴォルフガング卿もかつてはその一員だった。
宮廷音楽家になりたいとは思わないが、それらを聞く機会があるならば幸せだとオリビエは想像した。

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