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「音の向こうの空」第十四話 ⑥

第十四話:亡命



翌朝はオリビエの乗る馬車には少年も加わった。昨夜までは衛兵の誰かに乗せてもらっていたらしい。ヨウ・フラは「馬車には初めて乗る」と浮かれ、楽しそうな様子にオリビエは内心ホッとしていた。
程なく、国境であるライン川に到着した。そこから先は神聖ロウム帝国領。
リヒテンシュタイン候の使いを待つ間、川岸で休憩を取る。

ここからエスファンテ衛兵は引き返すのだ。
オリビエは馬車を降りると真っ先に青年衛兵の姿を探した。
友達なのかとヨウ・フラに聞かれ、応えられなかった。それが心のどこかに引っかかっていた。

「あ、ほら、あそこにいるよ」ヨウ・フラが先に見つけてくれた。
オリビエは髪を結いなおすと、川岸で火を焚き周囲に集って衛兵たちと雑談しているズレンに近づく。
先に気付いた周囲の衛兵が沈黙する。
「あの、ズレン」
「これは、楽士殿、どうなされた」
衛兵たちの興味津々な視線とズレンの他人行儀の挨拶にひるんだものの、オリビエは意を決してズレンの腕をつかんだ。
「いいから、来て欲しい、話したいことがあるんだ」
「おや、なんだ?」
おどけた様子のズレンを強引に、とにかく引っ張って連れ出すと、一行から離れた雑木の奥まで歩いた。
口を結んでずんずん歩くオリビエに、ズレンも表情を引き締めついてきた。
「なんだ、もう一度殴りあうつもりか?何度やってもお前が負けるぞ」
オリビエは、視線をつま先から青年に移し、口を開いた。
「違うんだ。あの、この間はごめん。僕が悪かった」
「…ふん」ズレンの態度は変わらない。腕を組んで自分より背の低い、六つほど年下のオリビエを見下す。
オリビエが少しうつむけば柔らかい亜麻色の髪に日差しが輪を作る。日の当たらない場所で護られて育った青年はかつてズレンが形容したように頼りなげな薔薇の花。
オリビエは似つかわしい頼りなげな言葉を発した。

「あの。キシュを頼む」
「…は?」
「あの子を、幸せにしてやって欲しいんだ。僕が言うのもおかしいけど。きっとズレンのこと、愛してるから」
「…俺の好きにしていいって言うのか?」
その言葉には気懸かりな印象もあるが。オリビエはズレンを信じるしかない。
「僕は。ズレン、あんたのことも友達だと思っているんだ。最初からそうで、今も変わらない。あんたが僕のことをどう思っているかは分かっているし、今のだってバカだと思って呆れられているんだろうけど。それでも、キシュのこと、幸せにしてやってほしいんだ。それに」

「ああ、呆れてる」
だからそんなことを言うなといわんばかりにズレンはオリビエの言葉を遮ろうとする。それでもオリビエは真っ直ぐ見据える。

「ズレンにも、幸せでいて欲しい。もう、会えないかもしれないけど」
ズレンは腕を組んだまま。無言でオリビエの肩にかかる髪が揺れるのをじっと見ていた。かすかに、揺れるそれは。木漏れ日と重なって震えるようにも見える。

「ズレンにあえて、よかったと思っているんだ。僕は、上手くは生きられないけど、キシュやズレンに合えたのは上出来だったと思っているんだ。元気で…」
それだけ言うと、拳を握り締めオリビエはその場を逃げ出すように駆けていった。
見送るズレンはしばらくじっとしていた。そばの木の陰に気配を感じたのか、溜息を吐き出し「出て来いよ」と声をかける。

「なぁんか悪いもん、みちゃったなぁ」
ヨウ・フラだった。
「隠れていることはないだろう?お前がいてもあのバカは同じことをしただろうし」
「やっぱり恥かしいだろ、ああいう場面ってさぁ。オリビエ、大人の癖に泣いてたし」
「あれは感激やなんだ。涙もろい。たいしたこともないのに喜んだり悲しんだりできる。幸せな奴さ」
「ふうん」少年はキシュという人物のことを尋ねたくてうずうずしていたが、ズレンの表情はそれを許さなかった。
今も、穏やかだが隠れてオリビエについてきていたのを責めている。
「それでかな。敷き藁が鳥の巣みたいだって感激していたし」笑えるよね、そう思わない?と続けるヨウ・フラにかすかな溜息と共にズレンは肩をすくめた。
「…あれは鳥が好きだからな。空ばかり見上げているから足元がおぼつかずに転ぶんだ。お前はヴィエンヌまで行くのだろう?頼むな」

しばし、沈黙。
少年はもう一度、ズレンを見上げた。
「今、さ。頼むって聞こえたけど」
「……いや、気のせいだ」
顔をしかめる少年を放っておいて、ズレンは侯爵のほうへと歩き出す。
川の向こうに様子を見に行かせていた部下が戻ったようだ。


ヨウ・フラは鼻の穴を思い切り膨らめて息を吸うと、はぁ、と溜息を吐いた。
「分けわかんないな」
侯爵といい、ズレンといい。なんで皆、オリビエに優しいんだ。あんな変な子供みたいな奴なのに、少年がぶつぶつ言うそれは、聞けば皆が頷いたのかもしれない。
ただそこでは、高い梢から飛び立った一羽の鳥が見守るだけだった。

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