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「音の向こうの空」第十七話 ④

第十七話:飛びたてるのか



人々が木の椅子を軋ませて立ち上がる。ざわ、とかすかな人の話し声が心地よい。オリビエは礼拝堂の一番後ろでじっと座っていた。
教会の聖堂は想像以上に立派だった。このヴィエンヌに来る途中立ち寄った、サルツブルクの聖堂を思い出した。
ミルク色の大理石の床が広がり、バジリカを支える柱は緑色の大理石。深い色の木の椅子と机が並ぶ。聖歌隊は礼拝堂を見下ろす高さにあるパイプオルガンの前に並び、その背後で奏者は見えないが巨大な金色のパイプが天に向かって伸びている。音響を考えられたつくりなのだろう、だから、この美しい絵画を施された礼拝堂の天井にも音がこだます。
ステンドグラスはシンプルなものの、フレスコ画の鮮やかな色が聖壇の艶やかな金とあいまって得も言われない美しさだ。

扉の前で人々が帰るのを見送っていた司祭がオリビエに気付いた。
一人だけ、座ったままの見慣れない青年。
「あの、どうかなさいましたか」
司祭は気遣ってオリビエの顔を覗き込む。
オリビエは慌てて目元を擦ると、立ち上がった。
「いえ、あの。オルガンが素晴らしくて余韻に浸っていました」
「もしや、あなたはアナンの言っていたオリビエ様では?」

アナン、あの小さな女の子だ。あれ以来時折ヨウ・フラがつれてきたが、アーティアの練習が始まると聞くに堪えないのか来なくなってしまった。
オリビエに怒鳴りつけるアーティアにおびえたのだ。姉のエリーゼは「あたし、アーティアって嫌い」と口を尖らせて睨んだ。あれ以来、二人の顔を見ていなかった。もう、一月になるだろう。子どものことだからすっかり忘れられているのだと思っていた。

「どうして、それを…?」
「私はラドエルと申します。娘のエリーゼから優しげなクランフ人の青年と聞きました」
司祭は目を細め、穏やかに微笑んだ。


オリビエは改めてパイプオルガンの前に立ち、見上げた。
巨大。
立ちふさがるように、囲むように金の大小のパイプが並ぶ。
先ほどの司祭に見守られながら、そっと黒い椅子に座った。

鍵盤はピアノより少し軽い。オルガンはピアノとは違う。和声音楽が良く似合う。小さな音が出ない代わりに、ドラマチックな和音が鳴り響く。間近では耳を塞ぐほどの音量だ。
いくつか聖歌を奏で、自分の楽曲を奏でた。

一度は席を立ち、自分の部屋へと戻ったというオルガニストが顔をのぞかせた。
丸い鼻の予想以上に小柄な老人は、面白そうに目を輝かせ、曲がった腰を支えるようにひょこひょこと近づくと、オリビエの演奏に聞き入った。
司祭が耳を寄せ、「かのオリビエ様、だそうです」とささやけば、男は数回頷いた。

いつの間にかまた、自分の世界に入り込んでいたオリビエが我に返った時。「すごーい」という無邪気な声とともに拍手が沸いた。
振り返れば聖歌隊の少年たちと、アナン、エリーゼ、そして司祭たち。大勢に囲まれていた。

「あ、すみません、勝手に」
「素晴らしい!普段はピアノを弾かれるとか。即興でこれだけオルガンの特質に合わせた演奏をなさるとは、尊敬しますよ。私はロスノ。この教会のオルガニストです。あ、いや、オルガニストだった、ということかな?これは」
老人は笑ってオリビエと握手を交わした。
「オリビエ・ファンテルです」
「大司教め、こんな隠し玉を持っているなら早く逢わせればいいものを」とロスノは細い目でちらりと背後のラドエル司祭を睨みつけた。睨まれたほうは、「いえいえ、とんでもない!たまたまいらしていたので、オルガンの演奏をお願いしたまでで」と慌てる。

司祭が困った様子。
「すみません、僕がオルガンに触れてみたいと、そう、お願いしたんです、この方はなにも」
とオリビエも説明する。
オリビエのそれは逆効果。老人は不機嫌に鼻を鳴らした。

「何、せっかく私が認めようというのに、触れてみただけ?冗談じゃありませんぞ?お遊びで弾いてみたとは」
「え?あ、すみません」
ますます不機嫌か?

ラドエル司祭は「ロスノさん、それでは!」と小さく叫び、難しげな顔で頷く老人からオリビエへと視線を移す。司祭はなぜか満面の笑顔。
わー、と。周囲にいた少年たちやエリーゼまでが歓声をあげた。

「ええと?」
意味が分からない。
オリビエは彼と司祭、取り囲む子どもたちを見比べる。

「オリビエさん、是非お願いします!」ラドエル司祭はオリビエを見つめる。
お願い?とは、何を。
「すごいね、ロスじいさんが誰かを褒めるの、初めて聞いた」
今ので、褒めている?

アナンが「ねぇ、オリビエ、もう一度弾いて」とオリビエの手にすがり付く。
「あのね、オリビエさん。ロスノさんは腰痛がひどいから、新しいオルガニストを探しているの。なのにロスノさんは音にうるさいから、今まで何人も断ってきたの。初めてなのよ、後継者にしてもいいっておっしゃったのは!やっぱり、私が思ったとおりだわ!」
エリーゼは誇らしげだ。
「決めましたぞ。オルガニストの座を譲るなら、この青年に」
ロスノという老人がニコニコ笑いながらオリビエの手を取った。拍手が沸き起こる。

そういえば以前。エリーゼが何かそれらしいことを言っていたような。

アナンがしっかりオリビエにしがみつく。右に老人、左に少女。
「こら、アナン!ってば、止めなさい!」とエリーゼが妹を追いかけ、オリビエの周りで姉妹の追いかけっこが始まるのと目の前の老人が「いいですな」とにんまりと笑うのをオリビエはただ、目を丸くしてみていた。


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