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「音の向こうの空」第十七話 ⑧

第十七話:飛びたてるのか



二階の一番西の部屋。オリビエが駆けつけたとき扉がかすかに開いていた。
立ち止まり、息を整える。なんて、説明すればいい?誤解です、と。ありのままを言うしかない。彼らは冗談で、ロントーニ男爵のことを侯爵と勘違いしたのだと、いや、そこまで言わなくてもいいのか。

胸に手を当て、息を整え、オリビエはそっと、扉の中をのぞく。
静まり返っていた。


「奥様、大丈夫です」
ビクトールの声。薄暗い室内。天蓋付のベッドは、薄いレースで囲まれている。そこに二人がいるようだ。なんと、声をかけようか。
「でも、侯爵様は、オリビエと毎晩過ごしています、それは紛れもなく真実。私のことなど、侯爵様は…」

違う、と否定しようと、オリビエは一歩踏み出す。二人の様子がすべて目に入った。
「もうお忘れください。奥様は私が護ります」

二人は抱き合い、風にわずかに揺れたレースの隙間から、ビクトールが抱きしめる細い腰が見える。乱れた髪をかきあげ。ビクトールはアンナ夫人の胸元に、口付けた。


息苦しい。
自分が締め付けられているように感じ、目が放せない。
何を、している?

ビクトールは。
アンナ夫人は、なにを。

夫人の肩が顕わになる。
侯爵の愛情が欲しいのではないのか。そうして嘆いていたのに、ついさっきまで、いや、常にそのことばかりを口にするくせに、なぜ。
「やめろ!」
オリビエは叫んでいた。
びくりと振り返る二人。
「そんな、そんなことだから!侯爵様はそばに寄らないんだ!ビクトール、大切にするってそういうことなのか!?アンナ様にとって何が大切か、分かってるはずな……」
どん、と。受けた衝撃でオリビエは開いたままだった扉に背を打ちつけた。
転がって頭を振り、体を起こすと目の前に大きな靴。床に手をついたオリビエの前でそれは不意に振り上げられ。
「!?」
ドン!と。踏みつけられた。
寸前で手を引いたオリビエは、胸の前で庇うように手を握り締めしりもちをついたまま後ろに下がる。
見上げるビクトールの表情は見た事のないものだった。
ぶん、と振り上げられる脚。
オリビエは腕を庇って丸くなる。
背中に痛み。
息が詰まる。二回、三回。

「やめ…」言葉を放つことも出来ず、勢いで壁に頭を打つ。
「オリビエ様、あんたがなにをえらそうに言える。散々アンナ様を惑わせてきたくせに、私が、どれほど、お前を憎んでいたか!」

無理矢理掴まれた腕。引っ張られ、引きずられて蹴られる。
「お前の怪我に奥様がどれほど苦しんだか!奥様が罪悪感に打ちひしがれ、一人泣いているのをお前は知っているのか!こんな、手があるから!お前などいなければ、奥様は幸せだったのだ!」
腕を踏まれる。押さえつけられ、動かせない。
右腕。めくれた袖から、傷跡が見える。
ビクトールはそのまま、もう一方の足を振り上げた。

!!

ふ、と腕が自由になり、オリビエは誰かに引き起こされた。
「オリビエ!大丈夫!?」ヨウ、だ。
「あ…」
物音に振り返れば、アーティアがビクトールに向かって椅子を振り上げてけん制している。アーティアも音楽家、素手で人を殴ることなど出来ない。
「オリビエ…」
見れば、アンナ夫人がしどけない服装のまま、オリビエのそばに座り込んでいた。
目に涙を浮かべ、オリビエの手をそっとなでる。甘い香水の香りに傍らでヨウが顔をしかめた。
「大丈夫です、アンナ様。どうか、そんな悲しい顔をしないで」
哀れだった。
ビクトールの叫んだ言葉は真実なのだろう。あの時のことを気にしているのだ。
「オリビエ、ごめん…なさい。私、私のせいで、お前」
「奥様、大丈夫です。ほらもう、こんな小さな傷だけで、演奏に不自由はありません」
夫人は泣きながらオリビエに抱きつこうと白い手を伸ばす。が。オリビエは夫人のはだけた肩を押し戻した。
「あ、お前は、お前は……」そう消え入りそうに泣き声を上げ床に額を擦り付ける。
「アンナ様。それは私になさってはいけません。私の音楽を聞いてくださっていたでしょう?とても嬉しかった」
夫人は床に伏せたまま、首を横に振る、何度も、何度も。

「奥様」
夫人を抱き起こしたのはビクトールだった。
椅子で殴られたのだろう、頬が赤く腫れている。
髭の下の唇は切れたようだ。
オリビエから引き離し、なだめながらベッドへと歩かせた。
アンナ夫人は泣き続け、その背をやさしくなでるビクトールはこちらの存在を忘れたかのように振り向きもしない。


「はぁ、無事か、オリビエ」
アーティアが息を切らせ、足元に置いた椅子にどかっと座る。
「ああ、ありがとう」立ち上がると少しぐらりとめまいがしたが、ヨウ・フラに支えられ、オリビエは歩き出した。「もう、行こう。奥様のことは、……もう」どうしようもないのだと、オリビエは思った。

これまで寂しさにかまけて多くの罪を重ねてきた。
オリビエはそれを侯爵に謝罪し、許しを得た。
アンナ夫人は、今だにそれを打ち明ける勇気がない。だから、自分から侯爵に近づけずにいるのだ。
アンナ夫人を特別に思うビクトールに、間に入って何とかしろというのも無理があった。


「オリビエ、顔色が悪いよ。どこか打ったんじゃないか?」
アーティアが言い、ヨウ・フラも「そうだよ、少し休んだ方がいいよ」と笑って見せた。「じゃあ、俺はこの後用事があるから」とアーティアが階段で分かれ、オリビエはヨウ・フラに付き添われてそのまま四階の寝室に向かった。


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