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片翼のブランカ 第19話

第3章 アースノリア

1988年。
その年の雪は、例年になく多く、ヨハンナの住む村も、雪の処理に追われていた。
といっても、田舎の村。家の半数は、夏の間の別荘のようなもので、今、この冬の時期に、村に残っているのは、ほんの数家族だけだった。
ヨハンナは、今年七歳になる。
お母さんのロザーナと二人で暮らしていた。決して裕福ではなく、だから、冬の厳しい季節にも、ふもとの村に下りることができない。
二人で、蓄えた食糧と、週に一回商品が入荷される、小さな雑貨店の野菜とチーズで細々とつないで、冬を越す。
後一月、雪の季節を耐え抜けば暖かい春が訪れるという時期だった。
この頃の、ヨハンナの日記には、山で拾ったココについての記述が、克明に記されていた。
それは、後に、ブッフェルト教授の興味深い事柄を書きとめた文書の一端を埋めた。
教授のそれは、このような書き出しで始まっていた。

翼を持つ子供。
ココは、1988年3月10日、スイスのルツェルン地方の小さな村、リッツデールで、発見された。
発見者はロザーナ・エンゲルス、ヨハンナ・エンゲルス親子。
彼女らは、ふもとの都市エンゲルベルクとの山道が解禁されるまでの雪の季節、ずっと、その天使を、かくまっていた。敬虔なカトリックであったエンゲルス親子は、この来訪者を、本当に天使だと思っていたらしい。少し無邪気なところのある母親は、夫の死後、深く信仰にはまり込んでいて、それが彼女の判断を鈍らせたと考えてもいいだろう。
私が故郷であるリッツデールの初夏を満喫するため、その村に着いた3月21日、騒動は始まっていた。
教会の牧師が、3月18日、村に戻ると同時に、いつもどおり祈りをささげに来た母子は、傍らに小さい子供を連れていた。
その、銀色の髪、金色の瞳の小さな子供は、翼を持っていた。
それは、当然、牧師を驚かせた。
母子は、牧師も喜んでくれると思い込んでいて、まさか、そんな騒動が起ころうとは思いもしなかった。
それほど、彼女たちは、ココというその子供を気に入っていた。
私がその天使と、いや、子供と出合ったのは、エンゲルベルクから車で4時間かかる村に到着して早々のことだった。
まるで待ち受けるかのように、私の小さな家の前で、牧師と村長とが、立ち尽くしていた。
私の職業や、研究内容を知っている彼らは、私にその子供の判別を、依頼してきたのだった。
あれは、まだ、夕刻の風が冷たくそよぐ時期だった。
メイドのシュナイダーさんが、片付けもたくさんあるのにといやな顔をしていたのを覚えている。ドイツ人のシュナイダーさんは、「エンゲルベルクから、やっとのことでリッツデールまで来たって言うのに、天使騒ぎだなんて、悪い冗談ですよ」そういって、やせた顔をしかめて見せた。敬虔なカトリックの彼女にしてみれば、エンゲルベルクの「天使の里」という地名もさることながら、そこに近い村に天使がいるだのというゴシップまがいの騒動を、冒涜とすら受け取っていたかもしれない。

案内され、教会の奥の一室で、その子供を見たときには、その子供は泣いていた。
小さく、床に座り込んで、震えていた。
白い綿入りのコートを着て、頭には耳あてのついたピンク色のニット帽。足元のムートンのブーツは、少し大きいのか、ぶかぶかだ。例の翼はコートの下らしく、分からなかった。
悪しきものには、見えなかった。
村長や村人は、ロザーナとヨハンナを、彼女らの家に閉じ込め、子供と引き離した。
このところ、あまりいいことのないこの村の出来事を、あからさまにその子供のせいにしたうわさを流したり、母子が貧しいこと、日頃から少し普通以上に信仰していることに対して、その正気を疑ってみたり。
とにかく、小さな山の村は、疑心暗鬼で満ちていた。
私は、幼馴染のロザーナの様子を、心配していた。

 「片翼のブランカ」第一話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-51.html

 「片翼のブランカ」前回のお話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-81.html




ココは、肩にかかったコートの下で、大切な翼を抱えていた。
村長という人たちは怖かった。
痛いって言っても、嫌って言っても、何も聞いてくれなかった。ヨハンナが泣き出して、ココも泣いて。ママが顔を覆って座り込んだ。
それでも、怖い男の人たちは、ココを無理矢理引き離して連れてきた。
一晩、泣き続けて、いつの間にか眠って。
今、起きて、また悲しくなった。

「どうして泣いているんだい?」
見上げると、茶色の髪の人が笑っていた。
その穏やかな顔は少し、ココをほっとさせた。張りのある声は、シェインに似ていた。
その男の人は、床にひざをついて、ココの前で、ちゃんと笑った。
優しそうだ。
「あのね、ココ、ヨハンナに会うの。ママにも」
「ママ?」
「あ、教授、こいつロザーナのことママって呼ぶんですよ」
村長の息子が言った。
都会で会計士の仕事をしているという、青年は細い四角いめがねをかけて、一重の目を瞬いた。四十二歳の教授より、十五歳は年下だろうか。立ったまま、膝に手を当てて、じっと子供を覗き込む。その眼鏡の下の瞳ににらまれて、ココはまた、顔を伏せた。
怖い。
「ココといったね、おじさんと一緒に来るかい?」
ココは、首を横に振った。
「ママがいい」
「ママとおじさんはお友達なんだよ。ママはね、今、病気なんだ。だから、ココの世話ができないんだよ。おじさん、ママに頼まれたんだ」
教授の言葉に、村長と息子は、顔を見合わせる。
「ココ、どうしたらいいか分からないの。エノーリアに帰りたいの。でもヨハンナと約束したから、ずっとそばにいるの。えと、どうしたらいいの?」
「そうか。帰るところがあるんだね。じゃあ、一緒におじさんが考えてあげるよ。おいで」
差し出した、おじさんの手を、ココはそっと握った。
「しばらく、私に預けてくれるね?」
ブッフェルト教授は若くして有名大学の教授になった人物で、この田舎の村にとっては名士だ。だからこそ、子供のことを頼んだのだ。村長も、うなずいた。
「まず、村長。この子供がなんであるにしろ、悪しきものでないことは、分かるだろう?」
「しかし…」
「確かに普通の子供ではないが、こんなに小さくて、力のない子供に何ができる。先日の雪崩にしろ、レンツのとこの赤ん坊が亡くなったことにしろ、この子の責任にするなど、おかしい話だろう」
「はあ」
ココは、なんとなく、このおじさんは、いいことを言っていると感じた。
嬉しくなった。
ママに会えなくて、ヨハンナとも遊べなくて、悲しかったけれど、おじさんとであった。
おじさんの大きくて暖かい手が、なんだかココには嬉しかった。両手で、しっかり握り締めて、おじさんの後ろにぴたりと寄り添う。
「生物学的、分類学的に、説明のつく結果を出したいと思っています、安心してください。村長、とにかく、この村の今の雰囲気はよくないですよ。今年からお願いした私のとこのメイド、シュナイダーさんも、初めて来たが、あまりいい印象を受けないと言っています。もっと、誰にでも優しい、のんきで明るい村だったでしょう。村長さんも、雪崩災害なんかで大変だとは思いますが。スキー場を誘致する計画があるとか。
今、よそ者を排除するような、こんな雰囲気でどうしますか。あなたがしっかりしてくださらないと」
穏やかに笑う若い教授に、村長は頭をかいた。


ココは、おじさんの小さな黄色い車に乗せてもらった。
ママの車は青い色で、座るところにアヒルのお人形がいた。なんで、いないのって聞いた。
おじさんは、笑った。
それから、おじさんは名前を言った。ちょっと難しかった。
「ライアン・ブッフェルトというんだ。村では大体、教授って呼ばれている。ジュネーブ大学で生物分類学を教えているんだ」
「きょうじゅ?じゅねーぶ?教えるって、先生?」
「ん。そうだな、先生でもいいかな」
「ココ、先生なら、知ってるの!ココの先生、ネムネ先生なの!お尻が大きくて、ニコニコ笑うの」
「そうか、先生がいたか」
「でも、もういないの」
「じゃあ、私が新しい先生だ」
ココは先生の腕にしがみついた。
「おいおい、危ないぞ」
上質なウールのスーツに頬を当てる。暖かい、やさしい先生。
それは、なんだかうれしくて、ちょっと涙が出そうになった。
ココ、たくさん新しいことを覚えた。でも、何になるのか、まだ分からない。
シェインに会いたい、カータに会いたい、ラタにも会いたい。
それから、ヨハンナとママと…。
どうしたらいいのか分からなくなっていた。
先生が何か教えてくれる気がした。

 「片翼のブランカ」続きはこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-85.html



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eigoさん

次々ってわけには行かないです(^^;)
らんらら、次回作、まだ考えてない(>_<;)
今、ここちゃんの話は書き終わったので、切り売り(?)しながら、時間稼ぎして考えます。

教授さんは、多分とってもいい人です。
大丈夫です。
教授の存在は、このお話をちょっと、現実に置き換えたりして考えてもらうためのものなんです。
らんららの、たいしてない知識を総動員して(^^;)書いてます。
だって、頭のいい人の考えって、実際はよく分からないから…

団長さん!

大丈夫!ココちゃん、基本的に悩まないタイプです!
らんららそっくり(おい;)
1988年、団長さん、い、一歳!!
そうか、そうだよね。
らんららは、…記憶なし(^^;)
この年数、一応、計画的です。
なんだか、ここまで現代と絡めるつもりはなかったのだけど。
丁度、いろいろ知識を得る機会があって、
印象に残った事実だったので。
続き、期待してください!

ユウキさん

ありがとうございます!
そろそろ、らんららの書きたかった
テーマ(?)が出てきます。
大丈夫、あんまり恐ろしい話は書けません。
また、来てくださいね!

こんばんわ!!
かっこいいですねえ、新展開!
今のところ教授はいい人ですけど、なにしろ、学者ですからねえ、うーむ。
ココはどうなっていくんだろう?
しかし、次々にこんな良い作品が作れるなんて、恐るべし!です。
それが、ただで読めるなんて、ネット、恐るべし!
では、今日の所はこの辺でぽちっと!

なんか辛い事いっぱいのココですが
そろそろいい事が起きてほしいです^^
きっと大丈夫ですよね☆
ココちゃん良い子ですもん♪
1988年、団長はまだ一歳かな?
過去の話だったんですね!
ラストはどうなるのか
ますます楽しみです☆

おおおw

凄い展開ですね。結構どきどきしましたよ☆
今後の展開に期待しています。
それにしても、なんというか~自分に無いものに恐れをだし全体でそれを拒否するという、人間の汚い黒い部分が描かれていた事にビックリしました。人間に負けずにココちゃんには頑張ってもらいたいですwファイトー
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