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「音の向こうの空」第十八話 ③

第十八話:スープに沈む静かなる愛



昼食を一緒にと司祭に誘われたが、アーティアが尋ねてくるだろうと丁重に断ってオリビエは帰途に着いた。昼下がり。秋の空も明るく森の木々の向こうに輝く。
コンクールがそういうものだとは想像もしていなかった。
アーティアに聞いてみよう。きっと、弱気になるなと怒鳴られるだろう。


「オリビエ」
呼ぶ声に気付いて足元の木漏れ日から顔を上げた。
その声、は。

公園の小路。針葉樹の太い幹の向こう。
コートを片手にかけた、侯爵。
「なにをしている?」

「あ、あの」
オリビエは慌てた。公園、で、何を。
ええと。
「どこへ行こうというのだ」
「あの」見回しても、だれもヒントをくれない。なんと応えたら。
次に正面を向いた時にはもう、目の前に侯爵が立っていた。
いつものように。肩に手をおかれ。その重みに身動きできなくなる。目を合わせられない。
「どこへ行くのだ」
「教会、あ、あの。ミサに。き、気持ちを落ち着けようと思って」
「オルガンを、弾いてきたのか?与えた覚えのない楽譜や台本があったな」

侯爵の声音は低い。
あのクリスマスの悪夢を思い出す。あの時の侯爵の怒り。
「誰にもらった?あの紋章は、マクシミリアンか」
いいながら、侯爵はオリビエを強引に引き、侯爵家に向かう。
知られてしまった。
まずいんじゃないの、そういったヨウ・フラを思い出す。

「オルガン弾きなど許さん。教会で小金を稼いで、オペラの楽譜など集めこそこそと。一体何をしているのだ、お前は!」


引きずられるようにして屋敷に戻ると、心配そうにテッヘとシェイルが見守っている。つれてこられたリビング。ピアノの脇のテーブルには、オリビエがアーティアに借りた楽譜や台本が積まれていた。
それ以外はすっかり片付けられている。
ソファーに座らされ、オリビエは小さくなっていた。
「お前は何のためにこんなことをしている?正直に言いなさい」
「あの、マクシミリアン候に、作曲を頼まれて」
言うしか、ない。
オリビエは膝の上で両手を庇うように握り締めていた。
「以前、ミュニックでお会いした時に、約束したのです」
「作曲にオルガンは必要なのか?お前には不自由のない生活をさせているだろう。なぜオルガニストになる必要がある?オルガンを弾いてみたいならいくらでも揃えてやる」
「あの、それは……」
「それとも。亡命貴族の行く末を、案じてくれたとでも言うのか」
オリビエは唇を噛んだ。
誇りを、傷つける。それを言えば、侯爵の心をひどく傷つける。いつかヨウ・フラが言っていた。誰かを養うのは大変なことだと。それを、侯爵は立派にやってのけ、オリビエにもアンナ夫人にも何の不安も抱かせないように、毎日大変な仕事をしている。

オリビエの沈黙は、肯定と受け取られた。
「私の前以外で楽器に触れることは許さん」
「!?」オリビエは目を見開いて侯爵を見上げた。
「この屋敷から一歩も外には出さない。ピアノには鍵をかける。私の前でだけ奏でるのだ。私のためだけに」
「わ、私は行く末とか、そういうのでは、なくて…」
「お前には自由などやらん。わしが生きている限り、わしのためだけにピアノを弾くのだ。明日からは見張りをつける」
侯爵はぐん、とオリビエの頭を押した。立ち上がりかけたオリビエは再びソファーに座り込む。
「これはすべて、わしが預かる。マクシミリアン候にはわしから断りを入れておく。お前は自室にいきなさい」
侯爵の背後、テーブルに乗る楽譜は窓からの日差しに白く輝く。眩しくてオリビエは何度も瞬きする。

侯爵は僕が知り合った大切な人を、友達を、すべて取り上げる。何が正しいかなどわからない。真実など見えはしない。
ただ。ひどく悲しかった。
「僕は、また失うのですか」
声が震えていた。
膝の上で握り締めた両の拳を侯爵の手が包み込んだ。
振り払うと同時にオリビエは立ち上がった。

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