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「音の向こうの空」第十九話 ④

第十九話:約束、契約、罠



二人がそれぞれの心情を重唱し、離れていく恋人の第一幕の最後を歌いきると、レイナドが手を叩いた。
「おいおい、オリビエも、それ楽譜と全然違うだろう。それに朗唱に曲をつけなくてもいいんだ」
「でも、すごい、歌いやすかったよ」と。エミリーはオリビエの首にしっかりまとわりついて、亜麻色の髪をきゅと引っ張って女性のように結って見せようとする。
「わ、やめてください」
「ほら、乙女」

じゃれあっている二人を放っておいて、アントニオはレイナドの持つ楽譜を覗き込んだ。譜面と台本とを見比べた。しばらく眉をしかめて追っていたが、その内諦めたのか顔を上げ。

「音楽があるのもいいな。監督、適当でいいんじゃないか?」
「いや、朗唱(レチタティーヴォ)に伴奏はつけない。大体お前たちが、気分で歌を変えるから演奏がついていけないだろう」
「ついて来れてたぜ?なあ、オリビエ」
アントニオが振り返れば、すっかりおかしな髪型にされているオリビエは、「あの、助けて」と涙目で訴える。願いも空しく。
ぶ、ははは!と響く声で笑われた。

強い香水をまとったエミリーが「ほら、乙女ボウヤは大人しくしてて」とさらに髪に何かつけようとするから、「乙女でもボウヤでもないですよ!もう!」とオリビエも反論する。
立ち上がると、エミリーは背が高く。オリビエはわずかに見上げる。

「……」大きい。
「今なんか言った?乙女」
じろりとエミリーに睨まれ。それでもこの扱いは納得できない。
「だから!」
オリビエはまだ何か髪を触ろうとするエミリーの手を取った。

取り戻そうとするエミリーの手をしっかり捕まえ、オリビエは貴族に挨拶するように膝をついた。エミリーの手の甲にキスする。
「な!」
不意打ちにエミリーは真っ赤になる。大柄でがさつな印象でもやはり女性。オリビエの優雅な仕草は物慣れていて、低い位置から見上げる上目遣いは凛々しい。
「僕は男ですし。貴方は女性でしょう?こんな……」
ぶははは。「お上品なお貴族様にはエミリーもかなわんなぁ!」
アントニオは腹を抱える。

エミリーはまだ顔を赤くしたまま、「しょうがないな、じゃあ、オリビエ君で我慢してあげる」とこれからは君付けで呼ぶことを決めたらしい。
レイナドが「こういう奴らなんだよ。声は確かなんだがね」と肩をすくめ、オリビエははあ、と頷くしかない。

呆れ顔で大人たちを見つめていたアマーリアが、呼び鈴でメイドを呼んだ。
「皆様にお飲み物を。それからオリビエの御髪を整えて差し上げて」と。五歳の淑女はその場の誰よりも落ち着き払った口調で「大人ってすぐにふざけるんだもの」と。頬を膨らめる。
「お仕事しないなら、オリビエ、こちらに来て」
オリビエを取り戻そうとするのを忘れない。

「アマーリア様にはかなわないわね」とエミリーが笑い、休憩にしようと皆、アマーリアを囲んでソファーに座る。オリビエはブラシを持ってきたメイドとアマーリアのおもちゃにされていたが、どうやら普段に近い状態に戻ることが出来た。
「あのね、さっきの歌とピアノ、綺麗だったな。私は好きだわ」
アマーリアがそう話し。三人に押し切られる形でレイナドは「じゃあ、検討してみましょう」と苦笑いした。

歌手が役の「台詞」を語るときは通常伴奏を伴わなかった。人物の「心情」を歌い上げる詠唱(アリア)の部分はオーケストラの伴奏がつく。そこはオリビエも作曲してあった。
台詞の部分まですべて演奏するなら、ずっと演奏が続くことになる。
「これでは、オーケストラに負担が大きいな」
「パートを切り分ければいいんじゃないの?」
「台詞のとこはオリビエのピアノだけにすりゃいいじゃないか」
「……別に平気ですけど」
「オリビエ君は歌えないの?」
「歌えません」
「舞台栄えするのになぁ!」
「僕は男前じゃないですし」
「あ、なに?根に持ってる?」
「別に自分を男前だなんて思っている訳じゃないですけど、面と向かってそんな風に言われたのは初めてです」
「あら、傷ついちゃった?よしよし、いい子ね」
「子どもじゃないです!」

イファレア人のエミリーとアントニオは陽気で楽しい。いい加減なことばかり言って笑い飛ばすアントニオにレイナドも怒りきれないし、エミリーは五つほど年下のオリビエが気に入ったのか、からかってばかりだ。

オリビエは彼らが侯爵家に来てくれたら空気が華やぐかもしれないと。そこまで考えたが、侯爵が顔を渋くさせる姿を思い出し、一人で小さく首を振る。いやでも。協力してくれるといったロスノさんに、一度会ってもらわないといけない。
うん、と。自分の考えに頷いたところで、エミリーにバシバシと肩を叩かれた。
「ほら、オリビエも納得じゃない!」
「え?なにが?」我に返れば、彼らはまだ舞台の話を続けていた。

「舞台の隅にピアノを置いてね、オリビエは妖精の衣装なのよ。ひらひらとレースだらけの真っ白な奴!背中に羽よ、それで演奏するわけ!面白いじゃない」
「ええ!?」
アントニオは笑いつかれて腹を抱えている。
「絶対に笑えるわよ!」
「喜劇じゃないでしょう!?」
叩かれた勢いで、オリビエの手に持ったカップから紅茶がこぼれ、またひと騒ぎ。

「ごほん」
と。
騒々しい中に、咳払いが一つ。
アマーリアがその姿に気付いて「ジースト、面白いのよ、オリビエも舞台に出るの」と駆け寄り。

それが、昨夜オリビエを捕まえようとした大柄な衛兵だと気付いた。あ、と。オリビエの表情が変わるのを、レイナドは見逃さない。
そっとオリビエの腕に手を置いた。
「大丈夫、私達も一緒だ」
「あら、監督も妖精の衣装着るの!?」とエミリーとアントニオは大笑いしていたが。
レイナドの言葉を、オリビエはうつむいてかみ締める。
「皆さん、契約を交わしているんですか」
レイナドは黙って頷いた。

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