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「音の向こうの空」第二十話 ③

第二十話:オリビエの戦い



僕の邪魔をするつもりなんだ。契約を結んでしまったが最後、コンクールを止めることはできない。逃げ出すことも出来ない。
とにかく、うまくやり過ごすしかない。ジーストと二人きりにならなければいいんだ。流石に皆の前であんなことはしないだろう。

いつの間にか押さえていた脇腹を「どうした、腹でも痛いのか」とアントニオにからかわれ、オリビエは「緊張しているんです」と笑った。

二つある広間のうちの一つがオペラの舞台になっていた。と言っても練習用。木材がそのままむき出しになっている、仮の舞台だ。
舞台係の話では専用の大道具は少し離れた工房で作られているらしい。ここにこれ、と、架空の舞台装置を示して見せた。
まだ木の若々しい香りが残り、その前に並んだ楽器と椅子、そこに座るオーケストラの皆も落ち着かないらしくざわざわと話しこんでいた。
真ん中にオリビエの弾くピアノ。彼らはオリビエの姿を見ると「おはようございます」と挨拶をしてくれ、オリビエも「よろしくお願いします」と応える。
レイナドが指揮棒を持つと、空気が張り詰めた。

「冒頭、序曲『夜明けの窓辺』から」
静かにレイナドの声が響き、指揮棒がぴたりと宙に停まる。

オリビエは息をゆっくり吸い込んだ。指はすでに鍵盤を感じている。冷たい象牙の白い鍵盤は指を吸いつけるようだ。ふと音色を想像する瞬間、レイナドの手が動いた。

ピアノの独奏から。
この時間に相応しく、清んだ空気が心地よく頬をなでるような旋律。極限まで小さい音、ためらうような一音一音に軽やかな鳥の声が混じる。それはピッコロ。朝の空気を揺らし、眠っていたものを目覚めさせるような美しい鳴き声に空気を描くピアノが呼応する。ヴァイオリンが軽やかなスタッカート。
かすかな音のずれが生じ、レイナドが手を止めた。

「オリビエのピアノは聴くな、耳をとられて、テンポが遅れる」
ファゴットの数人がしまったとばかりに顔を見合わせた。
「あ、すみません」
オリビエが謝ると、ぶ、と舞台の上で座って眺めていたアントニオが噴出した。
「オリビエ、お前が謝ることないんだぜ」
「アントニオ、邪魔するなら向こうへ行っていて欲しいな」
「はいはい、黙っていますよ、監督」
まだ出番のないアントニオは呑気に伸びをして、ステージの真ん中で横になった。

「ほら、もう一度」ざわついていたオーケストラを再びレイナドが引き締める。

充実していた。さすが選帝侯がそろえてきた楽団だけある。レイナドの要求に即座に応えて見せる。楽譜どおり、それでも、オリビエが見本にピアノで演奏してみせると、どこか違うと首をひねり、楽譜に表現しきれないものを見つけ出そうと懸命だった。

幾度かの休憩を挟み、午後には第一幕まで、レイナドが納得する程度には演奏できた。
昼食にもあまり食欲がないオリビエをレイナドが心配し、三時には夕方までの長い休憩をくれた。いくつかのパートで課題が発生したこともある。
オリビエの演奏を聴きたがるものもいたが、レイナドが「それじゃ、オリビエの休憩がなくなるだろう」とたしなめ。オリビエは大広間から締め出された。

「いいから、庭でも散歩して休んできなさい。顔色も悪い。そうだ、私の部屋で横になっていてもいい。アントニオ、案内してくれるかい」
昨夜、痛みであまり眠れなかったオリビエは、好意に甘えることにした。

階段をアントニオの後について昇りながら、冗談ばかり言うアントニオに笑いをこらえるのが大変だ。笑えば腹が痛んだ。
アントニオは「お前、もっと早く来いよ、のろいな」と踊り場でオリビエが追いつくのを待った。

「おや、どちらへ?」

その声は、オリビエの正面。アントニオはそちらを眺め、二階の廊下からジーストが姿を現した。
「!」

オリビエは足を止めた。

「ああ、監督の部屋で王子様はお昼寝だそうだ」とアントニオは妖精の役よろしく大げさなお辞儀をしてみせる。それをまったく無視してジーストはゆっくりアントニオの脇を過ぎ、オリビエに向かって降りてきた。
身構えるより先に、どん、と、突き飛ばされて壁に背中を打ちつけた。
「な!?」
思わず声を上げかけた。
壁に追い詰められ、胸倉を掴まれてすでにオリビエは捕われの身。そうとは見せない俊敏さでジーストは狩を楽しむ。
腹に突き出された拳。
う、と息をつまらせオリビエが倒れかかれば、捕食者は戦利品とばかりに引きずる。

「レイナドの部屋か。案内してやる」
「ジーストさん、あんた、何を!?」慌てて追いかけるアントニオの声。

乱暴にジーストは扉を開いた。

連れ込まれる、そこで、二人きりになったらまた。
オリビエは必死に扉にしがみついた。

「ほら、逆らえる立場なのかな?」
次に腹に受けた衝撃に一気に視界が暗くなり。廊下に、見上げたアントニオの驚いた顔。

助けて……。
言葉にはならなかった。
床の冷たい感触が頬にある。
「大公様のご命令だ」
かすむ視界に脅しの言葉が降ってくる。斜めに見えるアントニオは唇をかみ締め、身を翻した。

そうだ。
大公の命令…アントニオも逆らえば職を失う。
歌を奪われる。

強引に引きずられながら、オリビエは何か大切なことを思い出しかけた。
どこかで、これに似た、何か。悲しみを味わった気がする。
どこかで。

切なさと供に眼を閉じたが、腹をつま先が突き、目を開けば嬉しそうなジーストの顔。そんな余裕はなくなっていた。


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