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「音の向こうの空」第二十話 ④

第二十話:オリビエの戦い



肩をゆすられ。目覚めれば、レイナドがのぞき込んでいた。
「大丈夫か?少し熱があるんじゃないか?」

ベッドに、横たわっていた。
レイナドの部屋、だろうか。あのまま、何度か殴られて。
服の下の見えない痣を想い、オリビエは静かに息を吐いた。そっと、毛布の下で自分の身体を確かめる。脇も、背中も、どこもかしこも軋んで悲鳴を上げていた。

「大丈夫、です」
「体調が悪いなら、泊まって行ってもいいんだよ?医者も呼べるが?」
レイナドの優しい顔。

気付いてない。アントニオは黙っているんだな。
言ってしまおうか、やめてもらえるだろうか。
レイナドなら、ジーストから護ってくれるだろうか。

柔らかい枕にオリビエは頬をうずめた。熱っぽい身体に冷たい枕が心地よかった。
起き上がろうとするだけの気力はまだない。動かすのが怖かった。

「ほら、起きられないんだろう?」
甘えるように枕にしがみついているオリビエにかすかに笑みすらこぼしながら、レイナドは「少し働きすぎなんだよ、休んだ方がいい。本番で君なしでは成り立たないんだ」と。オリビエの背中をなでた。
「…!!」
びり、と響く痛みに眉をひそめ、オリビエは枕に顔を押し付けてごまかした。
体中が痛む。それでもジーストは顔や手足を避けているのだ。それはオリビエにとっても救いだ。
侯爵様に知られたらきっと心配させてしまう。
どんな同情を貰っても、この仕事をやり遂げるしかないのだ。苛められようが、殴られようが。そうしなければ、マクシミリアンに雇われ一生ジーストともお付き合いとなる。
ぞっとして、こみ上げるものに吐きそうになる。

「おい、大丈夫か?」
背中をさすってくれるそれがまた痛み、オリビエはうずくまる。

「…はい。あの、夕食後の練習には、参加しますから。もう、少し休んでいていいですか」
「医者はいいのかな?」
オリビエは頷いた。
本当は、そばにいて欲しかった。一人は怖い。
だが、引き止める理由がない。
「……あの」
「夕食には呼びに来るよ」そう、穏やかに笑って、レイナドは立ち上がる。

「あの、成功すると、思いますか」
「ん?」

「僕の、あの曲で成功できると思いますか?僕は、失敗できない、怖くて」

震える理由をそこに見つけたと思ったのだろう、レイナドは目を細めた。
「大丈夫。君の曲は素晴らしい。君以外の誰にも書けない曲だ。皆も君に敬意を持っているよ。明日には最後まで皆に覚えてもらう予定だ。歌も入れて通し稽古に入りたいんだよ。流石にエミリーも顔を出すだろう。だから、君がまず、自信を持ってくれないとね。またエミリーのあの剣幕にやられるぞ?何しろ、団員の未来がかかっているんだ」

笑いながら「また後で」と部屋を出て行った。
団員の未来。

エミリーと同じ、皆は大公を信じている。成功のために雇われ、期待されていると信じている。

ジーストの言うとおり、大公が僕や侯爵様をいたぶるために失敗を願うのだと知ったら。
折角、皆がまとまってきているのに。
レイナドはどう思うんだろう。大公を恩人だといったエミリーはどんな顔をするんだろう。

僕が逃げ出したら。皆にも侯爵様にも迷惑がかかる。コンクールに成功さえすれば、劇団の皆は仕事が続くんだ。レイナドがいうとおり、皆の将来がかかっている。

怖い、けれど。痛いけれど。僕は耐えて成功させるしかない。
痛むのが身体だけでないことに、オリビエは気付いていた。



レイナドが夕食だと呼びに来て、いつの間にか眠っていたオリビエは目を覚ました。
笑われながら、「大丈夫です」と答え。
皆の待つ広間へ向かう。そこには全員分の食事が並べられ、長いテーブルにはずらりと皆が並んで座っていた。暖かい暖炉の炎にパチと薪が答え、その上で焼かれたチキンが香ばしい色でオリビエの視界に飛び込んできた。
そういえば。あまり食べていなかったことをまずは胃が訴えた。

食欲が戻ってきていることに、オリビエ自身が嬉しく感じている。自分の身体が、まだ大丈夫なのだと証明された気分になった。
やるしかない、そう。諦めるわけには行かない。

アントニオが「おい、お目覚めかい、王子様は」と手を振って自分の隣を指し示す。席に座ったオリビエに、ほら、鳥の燻製だとか、野菜の酢漬け、俺は嫌いだがお前は食べろとか、そんなことをいいながら次々と大皿の料理を取り分けてくれた。
「ありがとう」
笑うオリビエに「…ごめんな」と。悲しげに笑って見せた。
アントニオもつらいのだ。
「うん、いいんだ。分かってる」
「大丈夫か」
オリビエはチキンにかぶりついたまま頷いた。
「美味しい」

「ああ、そうだろう?なあ、俺には理由を教えてくれるか」
「気にしないで。大公様の命令に逆らえば、貴方だってここにいられなくなる。分かります。僕は大丈夫だから」

背を向けたアントニオを見つめながら何か思い出しかけた、あれはファリの街角で別れたアネリアだ。
彼女の悲しみは背中の痛みと供に心に残っていた。彼女はもっと痛かっただろう。彼女にとって裏切ったのは僕の方だったから。
僕はアントニオと同じ、追い出される彼女を見捨てたんだ。自分のために。

心配そうに見つめる男に、オリビエは微笑んだ。持っていたフォークを皿に置く。皆は、信じているんだ。打ち明けるわけには、いかない。

「そりゃあさ、俺じゃ何の役にも立たん。だけどさ」
「じゃあ。エミリーを明日。絶対につれてきて欲しい。僕は、このオペラを成功させるんだ。僕自身のために、それに、みんなのために。だから、脅しても何してもいいから、つれてきて欲しい」
オリビエの表情は真剣だった。
「あ、ああ……」
何度か瞬きをしてアントニオは約束した。必ず、明日は全員を揃えると。


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