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「音の向こうの空」第二十話 ⑦

第二十話:オリビエの戦い



午後の休憩で皆が茶を飲んでいるところに、久しぶりにマクシミリアン候が顔を出した。その背後にはやはりジーストが立つ。
広間の日当たりのいい席で皆と茶を飲んでいたオリビエは思わず立ち上がった。そのすぐ脇にリエンコが寄り添った。
リエンコの存在を認めると、マクシミリアンは目を細めた。嬉しそうに見える。隣のジーストはと見ればリエンコとにらみ合っていた。

緊迫した空気に感化したのか、メイドが茶を一つひっくり返す。
「おっと、大丈夫かい」
アントニオが倒れたカップを拾い上げ、慌てるメイドの持つトレーを引き受けた。メイドが何度も謝る声を聞きながらオリビエは、マクシミリアンとの間のテーブルに薄い紅のシミが海のように広がるのを視界の隅に見ていた。
カップが音を立てた瞬間にリエンコはオリビエを背後に庇った。
その姿にオリビエはエスファンテの衛兵ズレンを思い出す。僕は、護られてばかりだ。

「リツァルト侯爵から話は聞きました。体調が悪いそうですね、オリビエ。傍に仕える者を用意するといっていましたが、なるほど。優秀な衛兵のようですね」

衛兵ではなく下男だが。そう見えても仕方ないくらいリエンコは逞しい。そ知らぬ顔でそばに立つジーストをリエンコはじっと睨んでいた。

「下男のリエンコと申します」と。表情一つ崩さずにリエンコは丁寧に挨拶した。
マクシミリアンはそれには目を細めるだけだ。

「聞かせてもらいましょうか。オリビエ。そうですね、アリアをいくつか」

はい、と慌てて立ち上がったのはレイナドだ。
それが合図だったように、団員は皆自分の持ち場に急いだ。

背後から追い越しざま、ぽんとオリビエの肩を誰かが叩いた。アントニオを想像し振り向けば、エミリーが「しっかり頼むからね」と拗ねたような顔で言った。

最後にピアノに向かうことになったオリビエを、皆が振り返って待っている。信頼に満ちた視線にオリビエは嬉しくなった。
レイナドが曲名を告げ、オリビエはピアノの前に座る。
ちらとリエンコと視線を合わせ、それから指揮者を仰ぎ見る。

今は、自分に出来ることをするしかない。

エミリーの静かな独唱から始まるアリア。張り上げるだけでない歌声は子守唄のような優しさを秘め、包み込むようにピアノが加わる。
フレーズを一つ歌い上げたところでオーケストラの伴奏が始まる。


 ***

「見たかい?あの大公様のお顔」
そう嬉しそうに声を弾ませたのはファゴットのレシス。ヒルダが「うふふ」と笑い、「最高の出来だもの、ね」とオリビエにウインクを送る。笑い返せば、他の誰かがオリビエの肩をぽんと叩いて労をねぎらう。
「絶対に一等賞を狙えるぜ」
「この楽団でよかったわ、監督も一流。作曲は新進気鋭の天才」
「もちろん君たち奏者の力あってだよ」
口々に互いを讃えあう。

大公がアリアを聴き終え広間を後にしてから、団員は改めて休憩を取っていた。
去り際にもの言いたげな顔をしたジーストも、マクシミリアンが「当日を楽しみにしています」と先に歩き出すので仕方なく後について出て行った。
「いつも一言多いジーストも黙っていたもんな」
と、若いファゴットのレシスが肩をすくめた。
「そりゃ、リエンコさんが怖かったからさ」
笑いが広がる。

その中でオリビエだけは浮かない顔をしていた。
「ちょっと、庭で外の空気を吸ってきます」
そう言って立ち上がると当然とばかりにリエンコもついていく。



夕暮れの庭は冷たい風が吹き、大理石のモザイクで出来た遊歩道をオリビエは肩をすくめて歩いていた。木々の葉が気分を助長するようにざわりと鳴った。
「オリビエさま、寒いです。早く中に」
リエンコは自分の上着を脱いでかけようとする。肩に乗せられるそれの襟元を引き寄せ、オリビエは振り返った。
立ち止まりじっとリエンコを見つめる。

「あの?」
リエンコは切れ長の蒼い目でオリビエを見つめ返す。
曇りのない、まっすぐな視線。

迷っていた。
僕は護られるばかりだ。

「侯爵様がマクシミリアン候にお会いになったんだね」
「ええ。あのままでは、貴方があまりにも」
「……僕は、護られるばかりだ」
「貴方のお仕事は音楽です。護るのは私の仕事です」
その、仕事に。オリビエは首を横に振った。

「あの。リエンコ。その腰の。銃だよね?そんなものもって、どうするつもりだったんだ?戦争じゃないんだから。そんな物騒なもの、止めてほしいんだ」
リエンコは意味が飲み込めないようで目を真ん丸くしていた。

「僕は、リエンコも他の団員たちも、危険な目にあわせたくなんかないんだ。だから、そういう武器は止めてほしいんだ。見つかったらまずいだろう?」
リエンコの持つマスケット銃は片手で操作する小型のもの。腰につけている皮の小袋には火薬と弾が入っているに違いない。

昼間、広間で咄嗟にオリビエの前に立ったリエンコ。あの時、リエンコの腰にあるそれにオリビエは気付いた。ただの衛兵では持たないような武器だ。ジーストも持っていない。軍隊で使われるようなそれは見つかったらただでは済まされない。
恐ろしかった。

「確かに僕は暴力を受けたけど、それは殴ったり蹴ったりで。命を奪うような恐ろしい武器を突きつけられたわけじゃない。銃は、一回でも使えば誰かの命を奪うだろう?そんな恐ろしい武器を持ってほしくないんだ」
「貴方を護るためです」
「それで誰かが傷ついたら、リエンコだって傷つく。僕は嫌なんだ。もし、そんな武器が必要になるような場面になったなら、僕のことなんか放って逃げてほしいんだ」
ふ、と笑われた気がした。薄暗くなりかけた中、風にリエンコの金髪がかすかに揺れる。
「護られてばかりの、僕が、偉そうなこと言って、申し訳ないけど。その……」
苦い、何か呆れたような笑みは、ズレンを思い出させた。ズレンなら怒鳴ったのかもしれない。籠の鳥が何を言うのかと。

「貴方は、可愛いです」

リエンコの言葉はそれだった。

「?……それ、言葉が違うよ」
リエンコは首を横に振った。
「明日からは、短剣を持ちます」
「……ありがとう」
理解してもらえたのかどうか分からないが。
オリビエは上着を脱ぐとリエンコに返した。銃が目立たないように。


リエンコがそばにいてくれるようになったからか、リツァルト侯爵の行動が何か功を奏したのか、ジーストはまるで興味を失ったかのようにオリビエを見かけても近づかなかった。リエンコもこれには拍子抜けだったらしい。
短剣すら使う機会がなくなったことは、オリビエにとって嬉しいことだった。


次回、第二十一話:「ヴィエンヌ・オペラコンクール」は1月19日(月)公開予定です♪

公開遅れちゃった~(><)ごめんなさい!!
楽しんでいただけたかな?
さて、いよいよ次回はコンクール!!
あと少しでヴィエンヌ編も一区切り。のんびりと長い作品になっていますが。
応援してくださると嬉しいです♪
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藤宮さん♪

私も遅れてしまった~(><;)
ごめんなさいっ!
「神の雫」に感化されてワイン三昧、今日もちょっと酔ってます(←朝からか?!)

ヴィエンヌ編は後三話で終わりになります…そして~っと。そこは秘密♪
オリビエ君が健気にがんばってくれているので、しっかり書かなきゃと~。コンクールの様子を描くのが難しくて…実際どこかのコンクールを肌で感じてみたいと思ったのだけど…。
一番身近な浜松国際ピアノコンクールは終わっていたし。うまく描けたかはちょっぴり不安。

めいっぱい妄想しながら読んでいただけたらいいな~♪

お、遅れてしまった…(汗)

新年になってからは初めましてです~♪

結構ドタバタしていたのもで、結局読みに来るのが遅くなってしまいました…。

オリビエ君、なんか大変なことになってきてますね…。
独りで耐えて、戦って。
侯爵様や皆のことを考えて、耐え続けるのは本当に苦しくて辛いことです。

それでも、助けてくれる人がいるというのは、やはりオリビエ君の人徳でしょうか。

さて、次はいよいよコンクールですね!
ヴィエンヌ編も、もうじき終わりですか…。
その後どうなっていくのか想像すらできませんが、しっかりついて行かせてもらいます(笑)

では、また次の更新楽しみにしてますね!

松果さん♪

うふふ、ほめられてる褒められてる~♪オリビエくん。
自分の不自由を嘆いていた頃よりずっと、周りのために動くようになってますね…そういえば。
ジーストのあのシーンは、そう!!イジメってきっとこういう感じかも、と。想像していました!!ダメですよやっぱり。痛いのは。わたしも苦手です~。

コンクール。
オリビエの作品をどう表現するかが難しかったのだけど…うまくいくかな~?お楽しみに!!

kazuさん!

遅れてしまってごめんなさい~!!
ところどころ気に入らなくて、準備が遅れたのが敗因…。月曜休みだと高を括っていたら、違いました…。この日ばかりは、仕事始めで…。

あぅ、泣かせてしまいましたか!
オリビエ君。書いていて、可哀想かな、苛めすぎかなとか。妙にいろいろと考え込んだのだけど。
今後を見据えて結局はこうなりました。

強くなった、のかな?そういっていただけるとオリビエ君喜びます!!きっと、「そ、そうかな」なんて、内心大喜びな癖に、うまく表現できない(笑)

リエンコさん!これから、ヴィエンヌ編が終わってから活躍予定です♪
ちょっと癖のある楽しい人にしていく予定♪お楽しみに~!!


うっわ~

少しずつ読んでいたのだけど、がまんできずにまず最新話の感想をば。
ジースト、こらー!おまえはいじめっ子かい!

僕は護られてばかりだ、というオリビエだけど、
でもでも!彼の人柄、作り出す音はきっと誰もが護らずにはいられない。
オリビエは決して弱くない、むしろ以前よりずっと男らしくなってきたと思うのですよ。

コンクール…どうなるんでしょう。がんばれオリビエ!

泣いた・・・

おはようございます、らんららさん^^
待ってましたよ~、続き♪

・・・で。
泣きました。。。
オリビエくんが懸命に戦っている場面。心情を思うと、なんて辛い。
性格もあるのでしょうが、今までの経験がオリビエくんを強くしたのでしょうね。
アネリアさんは、きっと今もどこかでオリビエくんを想っているんじゃないかな・・と想像してみたり。

侯爵様も、状況を知って本当に辛かっただろうな。。。と

そして、リエンコさん!かっこいい!!
惚れっぽいkazu、今度はリエンコさんに夢中☆
いいな、彼のような人がそばにいてくれたら。

ズレンくんは元気かな。
アンナ様も、ビクトールさんも。
いろいろ回想してしまいました。

大泣きのkazu、次回更新楽しみにしています^^
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