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「音の向こうの空」第二十一話 ①

第二十一話:ヴィエンヌ・オペラコンクール


コンクールは五日間で行われる。
一日二組、午前、午後に一回ずつ公演される。それを審査員が判断するのだ。審査員は有力な貴族たちや、帝国芸術院の講師、院長であるロスティアーノもその一員だ。著名な詩人や哲学者、文学者など、多くの芸術に関わる人々がオペラを鑑賞し、優劣を決める。この日ばかりは宮廷歌劇場は身分に関係なく解放され、整理券さえ手に入れれば誰でも無料で観劇できる。前皇帝から続くことで、オペラは市民に娯楽として提供されていた。小さな劇場でのオペラも市民に人気があったが、この豪華な宮廷歌劇場で見られるとあって市民はこぞって押しかけ、お祭りのような騒ぎになる。このために遠方の町から来る者もいるという。

参加する歌劇団は全部で五つ。ティロル伯領、シュタイアーマルク公領、アウグスブルク司教領、ヴュルテンベルク公国、そして、オリビエたちのバイエルヌ公国。それぞれの選帝侯の推薦を受けている。

台本は三種類あるうちの一つを選ぶ。どれを選ぶか、同じものを選ぶ劇団が必ず出てくるので、そこは賭けのようなものだった。同じ台本で比較された方がよいのか、他と違う台本で勝負するのか。中には、二つ以上演じられるよう準備してくる劇団もある。

コンクールの日程は一週間前に発表され、その会合から戻ったレイナドが皆に伝える。
オリビエたちのバイエルヌはシュタイアーマルク公領の歌劇団と同じ台本だというので、連続しないようにと日程が調整され二日目の午前の公演となった。

宮廷歌劇場でのリハーサルはコンクールの前に一日ずつ、それぞれの劇団にあてがわれる。

冷たい風の吹いたその日、オリビエは直接劇場へと向かった。いつもどおり、リエンコが一緒だ。今日も馬車から降り立つとすぐに背後を固めるように立つリエンコに、オリビエは返って落ち着かない。
「あの、大丈夫だからもう少し、離れても」
ちらりと見下ろし、リエンコは一歩だけ後ろに離れる。
それじゃ何も変わらない。

建物の入り口に立つ衛兵がじろりと睨んだ気がして、オリビエは意味もなく緊張する。振り返ればリエンコは平然と衛兵を睨み返している。

「当日の入場券は右の列に並んでください」
そう、声をかけられて扉をくぐると、中は想像以上に熱い空気が漂っていた。
貴婦人の騒がしい集団や、家族連れらしき姿もある。
皆、当日の観覧のために入場券をもらおうと並んでいるのだ。それとは関係なさそうな様子の人も、柱の傍に数人ずつ集まってなにやら話し込んでいる。
オリビエが入っていくと、どうしてもリエンコが目立つらしく、じろじろと好奇の視線を受けた。

「どなたかしら?」小さい話し声が耳に届くが、オリビエがそちらに注意を向けようとする瞬間、リエンコが肩を押してさえぎる。奥のソファーの脇では立ったまま、新聞の取材らしい記者がレイナドと話している。
やはり歌手たちは人気のようで、貴婦人に囲まれたアントニオは得意の軽口で笑わせていた。


「久しぶりだな」
人々の喧騒を抜け、楽屋裏へと続く廊下。オリビエに声をかける男がいた。
狭く暗いそこで、オリビエは男を認めると笑みを浮かべた。
「アーティア!!」
駆け寄ろうとしたが、すぐにリエンコに引き止められ、転びそうになる。
「な、なんだよ、友達だよ!」
「暗いです。走ると危ないから」
離れるなといわんばかりに押さえられて、オリビエは仕方なく「わかってるよ」と足を止める。
「なんだ、怖そうなの連れてるな」
アーティアは以前と変わりない口調と笑み。オリビエは年上の音楽家をリエンコに紹介した。リエンコは眉をひそめただけで、口も開かない。
「ごめん、新しい下男のリエンコ。ロシア語しか分からないんだ」と、思わずオリビエが庇う。
「そうか、衛兵かと思った。いよいよ、明後日だな」
コンクールのことだ。
オリビエは強く頷いた。

「お前のことだ、きっと最高の作品に仕上げているんだろうな」アーティアは笑った。
少しやせたように見えるが、相変わらず少し癖のある黒髪が額にたれ、涼しげな目元でオリビエをまっすぐ見つめる。黒い服、青い瞳。

もしかして、侯爵の言っていたことは間違いだったかもしれない。アーティアが僕のことを侯爵様に告げ口した、それには何か深い理由があったのかもしれない。アーティアは悪くないのかもしれない。
その話題に触れるべきではないのかもしれないとオリビエがもう一度アーティアを見つめると相手は腕を組んでにやりと笑った。

「俺は、初日なんだ。シュタイアーマルクの劇団でね。お前には負けないからな」

え?
「俺もコンクールに出る。お前と同じ、作曲家としてね」
「アーティア……」
「お前とは覚悟が違う。先月、皇室室内楽団は解散させられた。俺には後がないんだ。じゃあな」
抑揚のない早口で並べ立て、アーティアはオリビエを押しのけるようにすり抜けようとする。
「あ、あの。アーティア!」

振り返えらせたことを、オリビエは後悔する。
アーティアの表情に、口調に。その言葉に。

「オルガニストも続けてるらしいじゃないか。お前がリツァルト侯爵を説得できるとは思わなかったぜ。【出し惜しみ】の亡命貴族に屋敷に閉じ込められて、音楽家としての希望も何も失うかと思ったのにな。残念だ」

それだけ言うと、アーティアは踵を返す。暗がりの廊下の向こう、明るいロビーへと消えていく。
オリビエは立ち尽くしていた。


工場へと会いに行ったときのことを思い出す。仕方ないなという顔をしながら、工場内を見学させてくれた。出来上がっていくピアノに喜ぶオリビエに、工程を丁寧に教えてくれた。
「俺は友達だからな、お前が嫌だと思うことも正直に言うから」
そう、言っていた。

ぽんと肩を叩かれ。
「あれは、よくない男だと侯爵様に聞いています」
リエンコに反論も出来ず、オリビエはうなだれた。
「分かってる」

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