10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「音の向こうの空」第二十一話 ②

第二十一話:ヴィエンヌ・オペラコンクール



コンクール前夜。離宮で舞踏会が開かれた。
今回のコンクールのために集まっている諸侯をもてなすためというのが本当のところらしいが、折角の招待だからと、オリビエたち楽団員は全員正装して宮廷の広間に立った。

いつもよりずっと華やかなドレスのエミリーに、アントニオが「お前舞台衣装で来たな?」とからかい、本当に?と真に受けたオリビエが逆に笑われた。
「あんたには妖精の衣装を持ってきてあげればよかったね」
すでにシャンパンで息を甘くしているエミリーはオリビエの首に両手を絡ませる。結った巻き毛がくすぐったくてオリビエは手に持ったグラスを盾にけん制する。
「あれ、女性のじゃないですか」
「乙女にぴったりじゃない?」
「ぴったりすぎて、エミリー、お前より目立つぜ?」
「ほんと、可愛げないわね、坊やは」
「僕のせいじゃないですし!妖精になんかなりません!」
すっかり二人に笑われて、オリビエは飲んでもいないのに顔を紅くしている。
「リエンコは入れてもらえなかったのか。気をつけて、飲み過ぎないようにね」
レイナドが肩を叩く。気をつけて、の意味は向こうにいるマクシミリアンとジーストを指していた。オリビエも頷いて、なるべく彼らに近づかないようにと踊る集団を見守る人々の背後で壁を背にした。

こうして自分ひとり傍観者のように広間を見守るのは嫌いじゃない。
舞踏会では演奏することはあっても、踊ったことなどなかった。正直なところ、ダンスをと誘われても困る。

舞台になれている劇団員たちは注目を浴びるのが好きなのだ。今もエミリーとアントニオが輪の中心辺りで貴族とはまた違う激しいダンスを踊る。それを見た他の劇団員だろう、歓声が上がる。町の酒屋のような雰囲気に気おされるように、距離を置いた広間の向こうには、貴族たちが集まっている。同じ広間の中でも、くっきりと二つの色に分かれているのだ。

曲が変わった。
広間のどちらかといえば上座よりにピアノを中心として室内楽団がいる。
珍しい、普通ならもっと会場の隅で、脇役のはずなのに。オリビエは視界をくるくると遮る人々の向こうをじっと見つめた。
あれは。
グラスを持つ手に力がこもる。

アーティアがヴァイオリンを弾いていた。

皇室室内楽団は解散だといっていた。確かに、そこで奏でているのはピアノ、ヴァイオリン、チェロだけの三重奏。この舞踏会のために集められたのかもしれない。
オリビエはそちらに向かおうと、人混みをすり抜ける。

アーティアと二人きりで話をしたい。今ならリエンコもいない。アーティアは歓迎しないかもしれない。やはり侯爵が言うとおり近づかない方がいいのだろうか、でも。

ざわ、と空気が変わる。
曲が終わったのだ。一斉に踊っていた人々が雑談を交わし、潮騒の様にざわめきが増した。踊りつかれた人々が飲み物にありつこうとし、人の流れが変わる。オリビエの目の前にも人の列が出来ていた。気付けば、自分の脇にメイドが盆を持って立ち、そのためにオリビエの周囲に人が集まっている状態になる。
どうにかここから抜け出そうと、流れに逆らうように手に持ったグラスを高く掲げ、人のいない方へと歩き出した。
ちょうど、人垣を抜けたところ。目の前にジーストの背中。反射的に慌てて陰に隠れた。


…何をやっているんだ、僕は。こんなところで殴られるわけじゃないのに。隠れる必要なんかないのに。
それでも足が動こうとしないのは、あの痛みを覚えているからだろう。丁度壁際。大理石の花台の影に隠れる形になった。名も知らない黄色い花の甘い香りの下、オリビエは道に迷った子どものように座り込んでいた。誰かが観察していたなら、不審に思って声をかけただろう。
幸い、ちらりと視線を流す人々はいても、丁度運ばれてきたチキンのローストに意識は奪われている。オリビエだけが花陰で自分の心臓の音を聞いていた。

「ありがとうございます、大公様」
聞いたことのある声だ。
こちらに背を向けるマクシミリアンとジースト。彼らに向かって、アーティアが膝を折って挨拶をしていた。
「いや、君の才能を埋もれさせるのは惜しいと思ったのですよ。活躍を期待していますよ」
と。穏やかな口調はマクシミリアン候だ。

どうして、アーティアが大公様と親しげなんだろう。
活躍を、って。コンクールのことだろうか。

次へ♪
関連記事
スポンサーサイト

Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。