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「音の向こうの空」第二十一話 ③

第二十一話:ヴィエンヌ・オペラコンクール



「酔ったの?」
「わ!」
見上げたオリビエに、エミリーは目をまん丸にした。

「何、おどおどしてるのさ。さ、乙女ボウヤのピアノを聞かせてよ。ほら、さっさとしないと目立ちたがりに先を越されるわよ。ほらほら。ここからコンクールの前哨戦は始まっているんだからね!」
「ほら、急げよ。オリビエ」
アントニオがオリビエを引っ張り起す。
「あの、でも」

前哨戦?ってなんだろう。

見回すと、楽器の周囲には各劇団の団員だろう、誰が演奏するかでもめている姿もある。
ここは関係者の集まる場所、ここで目立っておけば有利ということだろうか。アーティアが演奏していたのは、そういうことだったんだ、と。何となく理解しながら、背中を押されるままオリビエはピアノに向かう。
通り過ぎる視界に、アーティアの黒い服がちらりと流れた。

視線を合わせることが出来なかった。

「ほれ、ここじゃ」
「!ロスじいさん!」
ピアノの前にはロスノが陣取り、オリビエを手招きしていた。

「あの……」
「今日は聖歌はだめじゃぞ。踊れないからの」
背中からアントニオに押され、ロスノに手を引かれ。オリビエはピアノの前に座った。

「楽しく踊れる情熱的なの、お願いね」とエミリーは複雑な注文をする。
「無理じゃないか?オリビエには。情熱的って柄じゃないよな」
とアントニオが苦笑いする。
「あら、乙女ボウヤだって恋くらいしたことあるでしょ?愛しい彼女を思い出してさ、情熱的な夜を再現してみなさいよ。さあ、弾いて!」

愛しい、彼女。
ふと。赤い髪の少女を思い出す。くるくるとオリビエの曲に合わせて踊ってくれた。ワフンと吼えるランドンは尻尾を意味もなく振りまくっていた。リズムが違うと尻尾に文句をつけるご主人に、ますます嬉しいのか千切れんばかりになってしまう。
それを見て何度笑ったことか。

オリビエが奏で始めたそれは少女と走る犬。カツカツと床に爪を鳴らし、ぐるぐると二人の周りを駆け巡る。目が回るのか途中で逆になるのがまた面白く、それを少女は抱きしめる。

軽快なリズムの円舞曲。長調の軽やかな音色は展開部からはテンポを遅くし、オリビエは踊る少女の赤いコート姿を夢見る。

白い雪の中、二人で散歩してみたい。美しいこの街の景色を見せてあげたい。
きっとはしゃいで走り出し、そうして立ち止まって振り返る。
息は白く風に乗り、オリビエはそれを受け止める。今なら、お腹一杯パンを食べさせてあげられる。僕の、力で。
会いたい。
抱きしめたい。
舞い散る雪と戯れる少女。赤い髪をなびかせて、踊る。

温かく柔らかい旋律に、踊る女性のドレスは揺れる。花のように、こぼれる木漏れ日のようにまぶしく。転調し、円舞曲は夜想曲に似た緩やかな旋律となる。高音のかすかなアルペジオはますます聴くものを切なくさせる。一人また一人と足を止めた。

広間にはいつの間にか雑談の声は消え、最後の一人が踊る足を止めたときには、全員が楽器を奏でる青年を見つめていた。

「あれは、どなた?」と貴婦人がメイドに尋ねるが、メイドも視線をピアノと青年に向けたまま首を傾げる。
「……オリビエ、オリビエ・ファンテル。バイエルヌの劇団に所属する作曲家です」
傍らに立った黒髪の男が受け取ったシャンパンのグラスを掲げた。静かに立ち上る泡のむこうに、音は柔らかく流れていく。

「負けはしない」

かすかにつぶやいた男のそれに、メイドは思い出す。この男もどこかの劇団に所属するのだ。先ほどまでヴァイオリンを奏でていた。

アーティアはシャンパンに透けるオリビエごと一気に飲み干し、グラスをメイドに渡すと身を翻した。

冷たい夜に、扉を開く。
ひゃ、と幾人かが寒そうに震えた。夜風にカーテンが舞い、慌ててメイドが扉を閉めた。

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