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「音の向こうの空」第二十一話 ④

第二十一話:ヴィエンヌ・オペラコンクール



ふわ、と風が吹いた気がした。
空気のにおいが変わった。
キシュとの心地よい思い出や、馬鹿な期待は夜風に覚まされた。

演奏を静かに終えると、オリビエはかすかに微笑む。自分自身に。
まだ、僕は忘れていないのか。


「……ぼうや」
キシュに会いたい。
「オリビエ、ほら、ぼうっとしないの!」
「え!?」
顔を上げれば、拍手の中にいた。
「ほら、立って挨拶!」
エミリーがいつの間にか隣に立っている。
人垣に囲まれて注目を浴びていることに気付いて急に恥ずかしくなった。
慌てて、侯爵家での演奏会のように、感謝の礼をする。

拍手の波が自然と割れ、目の前に陣取っていた貴婦人たちがそそと脇に避ける。
その向こうから、立派な体躯の紅の衣装を来た男性。両脇に近衛兵を従えている、彼は。

「皇帝陛下……」
つぶやいたエミリーの声に、名前を思い出し、オリビエは慌てて膝をついた。

「変わった曲だった。これほど踊りにくい円舞曲は初めて聴いたぞ」

アウスタリア帝国皇帝、同時に神聖ロウム帝国皇帝でもあるレオポルト二世。その声を初めて聞くオリビエは思わず顔を上げてしまった。
踊りにくい円舞曲、だったのか。皇帝の表情は読めないが、よくなかったと言うことなのか。だけど、拍手や聴衆は一体?
「陛下、かねてから私が可愛がっております、オリビエンヌ・ド・ファンテルです。以後、お見知りおきを」
ロスノが皇帝の脇で膝をついていた。
「そうか、ロスティアーノが珍しく弟子を取ったと聞いたが。お前のことか。次は踊れる曲にして欲しいものだな」
そう、目を細める。

オリビエは頬が赤くなるのを感じていた。いつの間にかいつもの気ままな演奏で、僕はリズムすら崩してしまっていたのか、と。あまり覚えていないために、どう、応えていいのか分からない。

「口が利けないのか?」
「わ、いえ、あの。すみません」
恐縮するオリビエに、ばか者、とロスノが囁く。
「踊れないとは、聞き入ってしまうからじゃ。お前のあの手の演奏を聴きもせず踊れるものはそうはおらんよ」
「え?」
「陛下、よろしければバラードなどお聞かせできますが」ロスノがオリビエの背中をおしながら申し出る。
「ふん、いいだろう。ピアノ一つでこの広間を静まらせたものを初めて見た。オリビエ、面白い男だな」
「あ、はい」
静まらせた?

ぶ、とエミリーが噴出した。
「あんた、ばか?自覚がないわけ?ものすごく褒められているんだから、ありがたき幸せとか何とか言うのよ、ふつうは」
「あ、はい。ありがとうございます。すみません、演奏に夢中で気付きませんでした」
何があったのか、ヨウ・フラなら心得ていて、こうだったんだと教えてくれるのだが、ここにはいない。

うながされて、オリビエは再びピアノの前に座った。
皇帝とのやり取りを聞き取ろうと、もぞもぞしていた人垣の向こうも、演奏が始まれば静かになる。

初めて、オリビエの奏でる音が包み隠さず披露されたと言ってもよかった。
コンクールの審査員や諸侯が集まる中、無名の青年はその場の全員を夢中にさせた。
あの場にいれば、リツァルト侯爵は鼻を高くしただろうと、後にロスノが屋敷で語ることになる出来事だった。

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