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「音の向こうの空」第二十一話 ⑤

第二十一話:ヴィエンヌ・オペラコンクール



オリビエの名は、一夜にしてコンクール関係者に知れ渡ることになった。
これにはレイナドも楽団の皆も満足で、機嫌をよくした劇団員たちは自分たちの公演を明日に控えた初日、勉強とばかりに皆で他の劇団のオペラを観劇することにした。

劇場の後方に全員で陣取り、立ったまま舞台を眺める。そこより低い位置になる舞台はランプの明かりと舞台を照らすシャンデリアに美しく輝いて見える。昼間だというのにそこは別世界のようだ。

「すごい人だね、こんなに大勢の人、クランフ王国でのパレード以来だ」
オリビエはそれだけで目を輝かせている。
「ねえ、ほら、あれが皇帝陛下でしょ、少し離れたほうにロスノじいさんもいるわよ」
「あのあたり、芸術院の会員とかじゃないか?」
「あ、ヴォルフガング卿は?」有名な作曲家が見られるかもしれない、オリビエが身を乗り出すが、隣にいたレイナドにポンと肩を叩かれた。
「あの方は体調を崩されたそうだ。皇室室内楽団も解散させられたし、まあ、このコンクールも、今年限りかもしれない」
全員が監督を振り返る。
「あ、ああ、悪いね。悲観的なことを」
はん、とエミリーは笑った。
「いいさ、今年あたしたちが有終の美を飾るわけだね」
「そうそう、歴史に名前が残るんだぜ」
アントニオが胸を張る。
「し、ほら、はじまる」

満員の観客席。指揮者が現れ、オーケストラの前に立つと、客席に向かって一礼する。
ざわめいていた人々が一斉に彼を見つめていた。
その背後にピアノに向かうのは、アーティア。
オリビエは祈るように手を胸の前で合わせている。

思えば、こんな風にアーティアの真剣な演奏を聞くのは初めてなのかもしれない。侯爵家ではいつも、僕のことばかりだった。アーティアがどんな演奏をするのか、オリビエは複雑な寂しさより、今は期待に緊張していた。

幕の開く前の舞台下で、オーケストラは先ほどまでの音合わせを終える。
指揮者が皇帝陛下に捧げます、と挨拶し、団員を振り返る。

息を呑む音が、聞こえてくるようだ。
静まり返った劇場内。微動だにしない指揮者の次の動きを期待して、皆の視線が集まる。緊張の糸が今にも音を立てて切れてしまいそうなほどの沈黙の後。

不意に指揮棒が息を吹き返す。
ピアノ。
高音からトリルで始まる、爽やかな朝の曲。

音の粒の揃った丁寧な演奏、指揮棒が空に飛び立つ鳥のように動き出し、オーケストラが加わった。
精緻を極めるような。神経質な演奏。音の揺れや装飾音を一切排除したような、張り詰めた美。
規則正しく模様を刻むアラベスクを思わせる。オリビエにあれだけ厳しく指導しただけはある。アーティアの音楽に対する考えは、ロスノさんや侯爵様とは違う。けれど決して間違っているわけではない。
完ぺきな演奏に、オリビエは不思議と嬉しい気分になり、傍らにあった柱相手に抱きついていた。

「ね、これ」
と。隣で立っていたエミリーが肘でオリビエをつついた。
「え?」
「この曲よ」
「おい、これは」

バイエルヌ歌劇団の全員が、互いを見合わせ、それからオリビエに視線を移した。
「え?」
「あんたの曲と同じじゃない!」

あ、と。そこで初めてオリビエは気付いた。
これまでアーティアとは同じ楽譜を共有していたために、意識していなかった。

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