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「音の向こうの空」第二十二話①

第二十二話:そこから見つめる未来



昨日と違い、ひどく冷え込んだ雪の日。
朝から積もっているそれは、人々の足をとどめ、会場内の人の数も初日に比べれば少なかった。湿り気のある冷たい風がともすれば扉の隙間から足元をぬぐう。
オーケストラのいるはずの場所に。今はオリビエとレイナドの二人だけ。


「どうして、オリビエだけなんだろ?」
背伸びするエリーゼを背後から支えながら、ヨウ・フラは首をかしげる。
同じ疑問を持つのだろう、場内はやけにざわざわと人声が響く。
バルコニー席の一つにリツァルト侯爵、ヨウ・フラ、エリーゼそしてリエンコが集まっていた。遅れてくるルードラー医師も同席する予定だ。緋色のカーテンと大理石の彫刻、金の刺繍に囲まれたそこは弧を描くように並び、舞台を囲んでいる。眺めのいい上階の席は貴族たちで埋まっている。

「一人で全部、演奏するから」と、短すぎる説明だけつぶやいて、リエンコは周囲などどうでもいいと言わんばかりに舞台を見つめる。
「なんだよ、それ!?」
「どういうこと!?」
エリーゼがリエンコの手を取ると、流石にリエンコは無視するわけにもいかず振り返って説明した。
「アーティア・ミューゼがオリビエ様の楽曲を使いました。だから、オリビエ様たちは新しい曲でやります。昨日から寝ないでオリビエ様は曲を作りました」
いきなりリツァルト侯爵が立ち上がる。
『そ、れは。マクシミリアンの、差し金か』
低く唸る言葉はエリーゼには何を言っているか聞き取れない。思わずヨウ・フラにしがみつく。ヨウ・フラもただ、二人のやり取りを聞いているだけだ。
リエンコも母国語で続ける。
『分かりません。ですが、侯爵様のお覚悟を無駄にするオリビエさまではありません。昨夜作曲なさった曲だけでも十分、対等に戦えるかと。これまで台本の作者と同じイファレア人の歌手たちや監督のレイナド氏と物語の精神性や背景について深く話し合っただけあって、新しい曲はより素晴らしい出来です。ですから』
リエンコはここで目を丸くしているヨウ・フラたちを振り返った。
「大丈夫です。オリビエ様は、侯爵様に育ちました」
助詞を一つ間違えた意味不明な表現を置き去りに、リエンコは舞台を見ろといわんばかりに顔を背けた。
「大丈夫かな」エリーゼが密かにささやき、「意味わかんないけど、多分」と、ヨウ・フラはその手を握り返す。

アーティアがオリビエの曲を使った。あの日、そうだ。オリビエが作曲した日、アーティアが楽譜を書いた。
あれだ。
あの時、もっと気をつけていればこんなことにはならなかったのに。ここ最近の出版物の増加で楽譜も販売されるようになった。作曲者の知らないうちに増刷され売られているようなことも多い。まして、あれはアーティアの筆跡。言い張られれば、オリビエにもどうしようもない。
友達だとオリビエは信じていたのに。

ヨウ・フラは自分の勘が当っていたことに、苦い気持ちになる。
「がんばって、オリビエ」エリーゼが小さく言葉にする。
「オリビエはたった一人で、戦場に立ってるんだ……絶対に、負けられない」
ヨウが呟く。
「マクシミリアン……」
再び座り、かすかに呻いた侯爵は椅子の肘掛をきつく握り締めていた。


痛いほどの好奇の視線と、冷たいその場所でオリビエは吐き出した自分の溜息が白く漂うのを視界に認めていた。
漆黒のピアノ。鍵盤は石の様に冷たく、音あわせのために軽く弾いた音階もどんよりと沈んで感じられた。静かに息を整える。
オリビエの前に楽譜はない。ただ、ランプの頼りなげな明かりの下、黒い鍵盤がつやつやと光っている。

昨日の午後から始めたアリアの作曲と歌手たちの稽古は日付が変わってからも続いた。オリビエが目覚めたときには、ピアノの前に座っていた。

エスファンテでの最後の夜を思い出す。
キシュと別れ、悲しみを音に吐き出し続けた夜。記憶も残らないほど弾き続け、目覚めた時には侯爵が傍らにいた。あの時と同じ。体は疲労していたが、夜に浸り何かが洗い落とされた心は朝日のように清んでいる。
僕はあの時、ここヴィエンヌに来ることを決意した。その決意が間違っていないことを、今日、自分自身に証明してみせる。

あれから、二年が過ぎた。僕は、少しは成長したのだろうか。変わっていないのだろうか。
分かりはしない。だけど、変わりたくないものもある。
誰かが僕の音楽を聴いて、幸せになってくれたらいい。

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